次の日学校が終わると私はクラスの何人かの友達と一緒に塾に向かった。
せっかくママが来ているけどそれを理由に休むわけにはいかないもんね。
学校や塾では私のママは死んだ事になっている。
(塾なんて必要ないのになあ)
地球の小学校の授業なんて簡単。
もちろん塾に行く必要はない。
ただうちの学校は高学年になると塾に通ってる子が多くなる。
私も去年仲良しの友達に誘われたから一緒に通う事にした。
なるべく足並みをそろえなきゃ。
ちょっとでも目立つような事は避けるようにママに言われている。
「でねー、……聞いてる?瀬里」
名前を呼ばれてハッとした。
真紀が私の顔を見て怪訝そうにこっちを見ていた。
いけない。すっかりうわの空だったのに気づかれてしまった。
私は遅れがちだった足を速めて前を歩く皆の輪に入っていった。
「聞いてるよお。新しい先生の話でしょ」
実は聞いていなかったから私は慌てて真紀の思考を読んだ。
塾で国語を受け持っていた戸塚先生が産休に入ったから今日から新しい先生が来るって話か。
「男の先生かな?それとも女の先生?」
「私、女の先生が良い」
「えー、またあ?」
皆が口々に言う。
「私は女の先生だと思う。瀬里はどう思う?」
「どっちかなー?楽しみだね」
なーんて。
普通に会話に加わってみる。
男の先生だよ。
もう塾の先生達の部屋にいるよ。
透視すればすぐに見える。20台後半くらいのすらりと背の高い先生。
(え)
私は足を止めた。
(嘘……)
新しい先生と目が合った。
私はまだ塾の近くの交差点にいるのに。
どうして……。
(あ)
読もうとするより先に思考を閉じられてしまった。
これじゃ読めない。
でも、どういう事?
先生の部屋は向こう側にしか窓がない。ううん。たとえこっち側に窓があっても交差点は見えない。
信号の前にいる私の姿なんて見えるはずないのに。
「瀬里ー?信号青になったよー」
「もー。今日体調でも悪いの?」
「そんな事ないよ。ごめんごめん」
私は信号を渡った。
どうしよう。いっその事体調が悪いって言えば良かった。
でもここまで来てたら休むわけには行かない。
皆、塾の建物に入って行く。
遅れちゃいけない。
私は重たい気持ちで教室に入った。
そして席に着いた。
どうしよう。どうしよう。
考えてみてもどうする事もできない。
暫くするとチャイムが鳴り新しい先生が入ってきた。
「産休の戸塚先生の代わりに来ました都築です。どうぞよろしく」
先生はそう名乗った。
そして授業を始めた。
明らかに私に気づいているのにこっちをあえて見ない。
ちらりと先生の顔を覗き見る。
(地球人……だよね?)
他星の人が変装してる感じじゃない。
地球人だ。
でもさっき確かに目があった。
それに思考が読めない。こんなの初めて。
(え……)
急にブワッと頭の中に映像が見えてきた。
何、これ。誰の思考?
――先生だ。
相変わらずこっちを見ないけど先生がわざと私の頭に映像を流してるんだ。
見えてきた映像は大きなマンション。
エントランス。
エレベーター。
そのうちの一室。
先生はここに住んでいるのね。
「!!」
ガタンッ
私は思わず立ち上がってしまった。
(何?あれ)
「どうしました?」
先生がにっこりと笑いながら聞いてきた。
「すみません。鉛筆を落としてしまって」
私は平静を装い鉛筆を拾うふりをしながら椅子に座った。
「瀬里、やっぱり体調悪いの?真っ青だよ」
私の額の脂汗に気づき隣の席のさつきちゃんが心配そうにこっそり聞いてきた。
「大丈夫。ありがとう」
嘘。全然大丈夫じゃない。
(今の、何?)
グラッ
なんで?
別に体調なんて悪くなかったのに。
椅子に座っているのにどんどん苦しくなってくる。
私は椅子から滑り落ちそのまま床に倒れ込んだ。