そりゃ確かにお母さん死んじゃうのはかわいそうだけどさ。引き取られ先でも良い思いしなかったかも知れないけどさ。それでも本当にそれで良いのか?
家に帰ってから俺は同じ事ばっかり考えてた。
武藤のしている事が虚しく感じるのは俺だけなのか?
「どーっすかなー……」
9月1日にまた屋上に行くのは分かってる。
それを止めるか。
でもそれじゃ解決しない。そんな事しても武藤は別の日にタイムリープするだけだ。
「よお!朔ー」
ガチャリとドアが開く。
「健兄ちゃん!」
そこには健兄ちゃんが立っていた。
(そうだ。終業式の日に遊びに来てくれたんだっけ)
健兄ちゃんは俺の従兄弟。俺が幼稚園の頃まで近所に住んでたんだけど、去年結婚して隣の県に引っ越しちゃったからなかなか会えない。
「今日の夕飯さー」
「回転寿司っ!」
「えっ……」
健兄ちゃんはぎょっとしていた。
「そうそう、回転寿司に行ったんだっけ」
俺は思い出した。
「なんで寿司って分かったんだ?」
不思議そうに健兄ちゃんが言った。
「あ、ううん」
「ふぎゃーっ!」
赤ん坊のすごい泣き声。
「おっ。そら。どうしたー?」
健兄ちゃんが慌ててリビングに行く。俺もそれについて行った。
「ああ、健君。なんだか急に泣き出しちゃって」
赤ん坊のそらを美穂子さんが抱きながらあやしてる。美穂子さんは健兄ちゃんの奥さんだ。
「あ。舐めたんだよ、そこの」
俺はテーブルの上を指差した。
そこには母さんが健兄ちゃんに出したおつまみの柿ピーが乗っていた。
「あら、嫌だ」
そらの手には柿ピーのカスがついていた。
「ほらー、大丈夫大丈夫」
美穂子さんはそらに哺乳瓶に入った麦茶を飲ました。
「よく分かったねえ、朔君」
「そうなんだよ。さっきもさ……」
と健兄ちゃんが話に加わった。
(全く同じ事が起きるんだ……)
「そら」
俺はまだひくひく泣いてるそらの顔を覗き込んだ。
「……ねー、健兄ちゃん。子どもってかわいい?」
「え?なーに言ってんだよ。お前も子どもだろ」
健兄ちゃんは俺の髪の毛をくしゃっとなでた。
「この間寝返り打てたと思ってたらいつの間にかつかまり立ちだもん。子どもの成長って早いですねえ」
「そうよー。美穂子ちゃん。あっという間よー」
と母さん。
「あっという間……か」
そうだよな。だけど同じ夏を繰り返すって事は……そらはいつまでもつかまり立ちで、俺の身長もこれ以上伸びないって事。
「それってやっぱ、変だよ」
「え?何?」
「ううん、なんでもない……」