どうして。
人の気配が全くしない。
怖い!
なのに、どうして。
どうして私は懐かしさを感じているの?

「ラーシャ」
男はゆっくりと私に近づいて来た。
そしてこっちに手を伸ばしてきた。

(嫌っ!)
私は慌てて部屋から出ようとした。

ガチャ…ガチャガチャ

「!」
開かない。
ドアノブが回らない。

「無駄な事をするな」
男は私の手を強引に握った。
「な、何…?ーーっ!!」
男の手を通していろいろな映像が頭の中に浮かんできた。

「っ」
目の前に広がる不思議な光景。

お城。
黒い羽根の生えた人々。
王様、お妃様。
そう、あれは――お父様、お母様。

「あ」
体が熱い。
「あ、あ、あ、あああ!」
苦しい。
息ができない。

「――かはっ」
数十秒の後、急に呼吸ができるようになった。
「はあ、はあ」
まだ乱れている呼吸を必死に抑える。

「!!」
なに、これ。
気づくと体中に力がみなぎっていた。
不思議な感覚。
まるで皮を1つ破いたみたいな。

「ラーシャ。これが君の本当の姿だよ」
「え」
(どういう意味?)
ふと壁にかけてあった鏡の中の自分と目が合った。
すると

黒い羽根の生えた自分が見えた。