「降りろ」

宇宙船はどこかの星に着いた。

 

「……」

 2人は警官に促され、宇宙船から降りた。

「――!」

その地に降りると何かがソルハの胸の中で騒ぎ出した。

 

この消毒液の匂い、この匂いは……。

忘れもしない、あの忌まわしい場所。

目の前の建物はもうかつてのものとは変わってしまっているけれど――そう、ここはあの『研究所』だ。

 

 本当ならちゃんと計画を立てここに来たかったが、警察に連れて行かれるよりはずっと良い。

2人は警察官に連れられて建物の中に入った。

 その時ソルハは自分の事しか頭になくて亮一の様子に気も留めなかった。

しかし亮一もこの場所に来て落ち着きを隠せないようだった。

 

 暫くすると中年の男と若い男が部屋に入って来た。

2人とも見覚えのある白衣を着ている。

 中年の男はソルハの前に立つとじろじろと観察しだした。

「WH型のMIXだな。回収NO128にそっくりだ」

「ミ……、ミラージュを連れ戻しに来た」

 ソルハはやっとの思いで口を開いた。

だが2人はソルハの言葉を気にも留めていないようだった。

 

「これでやっと3分の1回収ですね」

 若い方の男は手元の資料を見ていた。

 中年の男の助手のようだ。

 

「聞いてんのか!?こらっ!!」

 ソルハは叫んだ。

しかしやはり返事はない。

 中年の男にうながされ助手の男がソルハの首に触る。

 

「やめろ!」

ソルハはその手に噛みついた。

男は顔をしかめたがそのまま首にナンバープレートのついた首輪をはめた。

「とりあえず牢に入れといてくれ」

 中年の男はそのまま部屋から出ていこうとした。

「待てよ!ミラージュはどうした!!」

 

「――ああ」

 男は足を止めた。

そしてこちらに振り返る。

その視線の先にいるのはソルハではなく亮一だった。

 

「休暇はとっくに終っているはずだろう?院の教授が心配してわざわざ連絡してきたぞ」

(え……?)

 ソルハは亮一の方を見た。

亮一の表情が沈んでいる。

「何……?え?どういう事?」

 そのソルハの言葉に中年の男はフウッと息を吐いた。

「なんだ?お前、身分を明かさずに連れて来たのか。ご苦労だったな、まさかお前がこの父に協力してくれるとは思わなかったぞ」

 

(ち……父だと?)

 ソルハは凍った。

今、確かに『父』だと言った。

 

「どういう事だ?」

 ソルハは聞いた。

助手の男は口元に笑みを浮かべた。

「そのお方は、成瀬亮一様はこのガイダル宇宙総合病院長のご子息様です」

「!!」

 

「……騙したな。騙したんだな!!」

ソルハは手錠のかかったままの手で亮一の服をつかんだ。

「裏切り者!」

「違う」

「裏切り者っ!!」

「違う!俺はっ……!」

「お前なんか大っ嫌いだっ!!嘘つきっ!!」

 

 亮一が自分の星で何をしているのかなんて聞いた事はなかったけれどそんな事はどうでも良かった。

何の縁もない自分達に協力してくれて、何より実際一緒に旅してきていい奴だと思った。

けれどこの病院長の息子となれば話は別だ。

 一緒にミラージュを連れ戻しに行くと言った時亮一はソルハがMIXだという事を知っていた。

 

「はっはっは。仲間割れも良いだろう。息子の連れなら丁重に扱わなければな。回収NO128のところへ案内してやれ」

 中年の男、病院長は助手に言った。

「……ミラージュ。そうだ!ミラージュに会わせろ!」

 ソルハは叫んだ。

敵だと分かった以上亮一の事はどうでも良い。

今はミラージュを助け出す事だけを考えなければ。

 

 院長はカードキーを助手に渡した。

「B26だ。連れていけ」

「はい」

 それを聞いた亮一の顔が変わった。

「B26って……、まさか……。待て!ソルハ……!」

「気安く呼ぶなっ!!」

 

 ソルハは助手に連れられ部屋を出ていった。