ティムはソルハ達を近くのトールコロニーに送ってくれると言った。

目的地に着くまでの間ソルハとティムは宇宙船の中でお喋りをした。

それは他愛もない話だった。

 地球の孤児達とは違う。自分の全てを知っている亮一とも違う。

同じ境遇の「仲間」という存在は不思議な程ソルハを安心させた。

 

「でさあ、そん時親父が……」

「あはは!嘘だあ、そんなの」

「ちげーよ、最後まで聞けって」

 亮一はそれを楽しそうに見ていた。

2人の会話を聞いていると亮一は妹を失った悲しみがホンの少しだけ和らいだ気がした。

 

 

 しかし楽しい時間というのは早く過ぎてしまうものだ。

2時間も飛べばトールコロニーに着いてしまう。

 

「研究所まで送れなくて悪いな」

「いや、ここまでで充分だ」

ティムは目立たぬ場所に2人を降ろすとまたすぐに冥王星に向かった。

 ソルハは本当はもっと彼と話したかったがティムもまた指名手配されている。

 ここに長居するわけにはいかない。

(いつかまた、会えるのか?)

彼の宇宙船はあっと言う間に見えなくなった。

 

亮一はタクシーを拾い市街地に向かった。

トールコロニーは金持ちの星だ。

まずは郊外で服を調達。

その後船を買いにまた移動し店に入った。

 

「これなどいかがでしょうか?パレス社が誇る最新式の船です。値段は――まあ、三千万ベニ―とちょっとお高いのですが」

 店の主人が勧めるその船はまわりに沢山並んでいる船よりはるかに高そうに見えた。

けれど亮一は躊躇いもなく財布からカードを出した。

「ああ、これに決めるよ」

 とサインをした。

ソルハは亮一にきつく言われていたので決して口を開かなかった。

 

「あの、失礼ですけれどミスター?」

 突然後ろから声がした。

振り返ると全身を豪華な宝石で飾った中年の女性が立っていた。

「ミスター成瀬ではありません事?何年ぶりかしら。私を覚えていて?」

 亮一の顔がサーッと青くなった。

 店主の表情も変わった。

たった今亮一が書いた購入書のサインはフィオ・トレイスだったからである。

 

「……人違いでしょう。私の名はトレイスです」

 亮一は言った。

その女性は「失礼、知り合いによく似ていたものですから」と言うとその場から離れていった。

 

店主は『成瀬』という名に反応した。

「『成瀬』……、『成瀬亮一』……」

 そう呟くと店主は店のセキュリティボタンを押した。

するとすぐにガードマンが数名店の奥から現れ2人を取り囲んだ。

 

 それから後は滅茶苦茶だった。

武器も持たない2人の抵抗は全く無駄。

亮一もソルハもすぐにその場に取り押さえられた。 

 暫くすると警察が店に着き手錠をかけられた。

 

「乗れ」

そして彼らが乗ってきた護送用の船に押し込められた。