「ソルハ、行っちゃうの?」

その夜ベットに横になると子ども達はソルハの服を引っ張った。

「えー?なんでえ」

「なんで?なんでえ?」

 

今日が最後の晩。

明日は朝早い。

もうお別れだ。

 

「用が済んだらまた遊びに来るよ」

 ソルハは子ども達の頭を順番にクシャッと撫でた。

「行っちゃ嫌だ」

「ソルハ、家の子になって」

「そういうわけには……」

「えー、なんでー?」

「なんでー?」

 その光景を見てマリラが苦笑した。

「懐かれ過ぎるのも困りものだね」

「俺も……別れがたいよ」

 ソルハは言った。

 

「私も朝は会えないかも知れないんだ。気をつけて行くのよ」

 マリラは仕事に行く支度をしている。

「……あ!」

 ソルハはベッドに正座すると背筋を伸ばした。

 

「いろいろありがとうございました」

 そう言ってペコリとお辞儀をする。

 隣に座る亮一も頭を下げた。

 

「やあだ!何よ、急に」

 ソルハ達の態度にマリラは手をぶんぶんと横に振った。

 

「あたしも助かったよ。畑仕事ははかどるし、夜は子どもを見てくれるから安心して仕事に行けた。……あっと、そろそろ行かなきゃ」

 そう言いながらマリラはドアを開けた。

「湿っぽいのは苦手だからさよならは言わないよ。アリスは市から真っ直ぐ仕事に行くって言ってたし、後頼んだよ」

「あ……」

 

 バタン

 

 ドアが閉まる。

 

「ふう」

 ソルハはため息をついた。

 

「ソルハア」

 子ども達はまだソルハの服を掴んだままだ。

「弱ったな……」

 

「皆もう寝なさい。明日は早いんだ。……元気でな」

 父親はそう言うと薄っぺらい毛布を頭までかぶった。

「ありがとうございます。お父さんも元気で」

 父親はそれには答えなかった。

 

「ほら、お前らも寝ろ」

 ソルハは子ども達をポンポンと叩くと自分も隣に横になった。

亮一はろうそくの火を消した。

 

暫くすると静かに寝息が聞こえてきた。

 

そしてソルハもいつの間にか眠ってしまった。