そして9日間、全て順調に過ぎた。
ソルハと亮一は次の日もそのまた次の日も約束通り畑仕事を手伝い夜は家で小さな子ども達の面倒をみた。
アリスは隣に住む男の子の名前でレース参加の申し込みをしてくれたし、警察が何度かソルハ達を探しに来たけれどその度父親がうまく誤魔化してくれた。
近所の人達もアリスの家にソルハ達がいる事を知っているのに何も言わなかったようだ。
明日は遂に祭りの日だ。
「あ、れ?この道はさっき通った、かな……?」
亮一は道に迷ってしまい帰るに帰れなくなってしまっていた。
市場に行った帰り道、巡回中の警官に見つからないように脇道にそれたら帰り道が分からなくなってしまったのだ。
「参ったな」
道端のレンガの上に座り込む。
「くすくす」
後ろから笑い声が聞こえる。
振り向くとアリスがそこに立っていた。
笑っているところを見ると先程からの独り言を全部聞かれていたようだ。
アリスはちょこんと亮一の横に座った。
「仕事に行くまでちょっと時間があるから休んでこうと思ってたとこ。亮一すぐに帰らなくても平気でしょ?ちょっと付き合ってよ」
「ああ」
どうせもう足がくたくたですぐには帰れない。亮一は頷いた。
「あー、疲れたあ」
アリスが大きく伸びをする。
その拍子にアリスの首にかけてる小さな袋が揺れた。
「それ」
「え?」
「それいつもしてるな」
ふいに亮一は前から気になっていた物を指差した。
「これは……」
亮一の知る限りアリスはいつもそれを首から下げていた。
「これはとても大事な物なの。昔1番大切な人からもらったのよ」
愛しそうに、でもどこか寂しそうにアリスはその袋を撫でた。
どうやらその大切な人は今近くにはいないようだ。
「また妹探してたの?」
アリスはふと顔を上げた。
「ああ。今日も収穫なし」
「ねえ、考えた事ないの?その子死んでるかも知れないって」
亮一は少しだけ困ったように笑った。
こういう質問をされたのはこれが初めてではなかった。
それは今まで友人知人他の星で出会った人達から投げかけられてきた質問だった。
その度亮一はこう答えて来た。
「ないよ」
「1度も?」
「1度も」
会えると信じていればいつかきっと会える。
亮一はそう思っていた。
「その子はきっと……生きてるわ」
「え?」
「あ、えっと、きっと……きっと今頃お金持ちに拾われて幸せに暮らしてるの。だから、もう探さなくていいのよ」
探すのをやめろ、無理だ、あきらめろ。今までそう言われ続けてきた。
お金持ちの元で幸せに暮らしていたらどんなにいいか、亮一はアリスが妹探しを諦めさせようと言ってくれたセリフを頭の中で反芻させた。
「優しいな」
亮一は笑ってアリスの髪をクシャッと撫でた。
「でも半分妹の為じゃないんだ。俺が、会いたいんだ。だから諦めないよ」
亮一は立ち上がった。
「そろそろ帰るよ。ソルハ達が心配してる」
「私もそろそろ仕事に行くわ。そこの角を曲がって3つ目の角を左に曲がって。家の畑に出るわ」
アリスも立った。
「ああ、サンキュ」
亮一はアリスの説明通り歩き始めた。
その亮一の後姿を見送ってからアリスは自分も歩き始めた。
夜の街で客を待つために。