同期には、組合活動の中で憧れの人ができたらしい。
喫煙所で会話のほとんどは、その人の事だ。
同期は、憧れの人の髪型、仕草、話し方、仕事振りを事細かく熱弁している。
「でね、毎日LINEしてるんだけど、これ見て見て!」
満面の笑みを浮かべ画面を見せる。
「ツーショット!彼、カッコいいでしょ!」
赤面しながらも、その人の魅力を話し続けている。
私は同期の顔を見ながら静かに話す。
「最近、雰囲気変わったよね?」
「そう?変わったかな?」
「うん、職場内でもベテラン達に意見するようになったし、雰囲気も恋する乙女?みたいな」
「えー、そう?お花咲いてる??」と同期は照れたように笑っている。
組合活動に参加してから同期は自信がついたのか、物怖じすることがなくなった。
時にはベテラン達と言い争いになる事も多く、新たな悩みでもあった。
時に、上の空でもあり仕事のミスも多くなった。
「旦那さんは大丈夫なの?」
同期はため息をつく。
「組合活動にいい顔しないんだよね、服装とか、仕事の事とか最近、うるさいの」
同期は夫婦喧嘩が多くなり、夜に家を出て1人で居酒屋に行く事もあった。
「彼ね、奥さんとうまくいってないんだって。家の事しないらしくてね、可哀想なんだよね。
離婚も考えてるみたい」
「結構プライベートな事も話してるんだね、周りに誤解されないように気をつけないとね」
私は心配になり、つい言葉にでてしまった。
同期は気が付いてないが最近、噂の的になっていた。
同じ組合員からも、同期の言動を心配していると話していた。
「大丈夫だよ。仕事ぶりに憧れてるだけだから」
同期は笑いながら話す。
それから数ヶ月が過ぎた頃だった。
いつものように休憩中に喫煙所にいると、少し遅れて同期が来た。タバコに火をつける。
「今度ね旅行行くの!!これ見て!舟盛り!豪華じゃない?」
「家族旅行かぁ。いいね」
「そうじゃなくて、彼と一緒に行くの」
私は一瞬驚いて、タバコを落としてしまった。
「ん?え?」
変な声がでる。
混乱してる中、同期は話を続けた。
「実はね、私達、両思いになってね。お互い離婚しようって話してるの」
それでね、と、まだ同期は話をしていたが頭に入ってこなかった。
(落ち着かないと…)
小さく深呼吸をした。それから、ゆっくりタバコに火をつけた。
「聞いてる??それで、今度の休みに行こうと思って!温泉饅頭買ってくるね!」
同期はそう言い終わると、組合活動があるらしく急いで向かっていた。
今度は深いため息がでる。落ち着くにはまだ時間が足りなかった。