世の中、新型肺炎の影響で演劇界も自粛の波には抗えず…、という風潮の中、公演を決行してくれた事にまず感謝。


各々、都合がある為、延期も中止も順延も難しい判断を迫られる訳であり、どの対応が正解か?なんて軽々しく判断は出来ませんが、


観劇好きとしては「演るなら観に行くし、演らなければ行けない」程度しか選択肢が無いわけで。


そういう中で観た作品という意味でも、記憶に残りそうな観劇かも




無論、内容も衝撃的でした。












親同士の再婚により、同じ敷地内に暮らす事となった、価値観も経験も違う「二つの家族」の物語。。。


片や不自由する事もなく、それぞれ恵まれた関係の絆で繋がり合う家族。もう片や、過去のある事件により家族の絆を歪んだものにされて幸福を知らない家族。




後者の家族が、かつて巻き込まれた「とある事件」。

知ってる人には直ぐにピンと来る実際の事件がモチーフとなってると思われ、前作品同様、観る人によってはよりリアリティを感じられた内容かも。



作内における第三者的な立ち位置の竹石悟郎さん演じる「小説家下妻修吾」が時には表現者という立場を越えて問いかける冷酷なまでの客観的な視点がより一層、隠された過去の事件の影響や、家族達の内に秘めた感情の抑制具合を際立たせて背筋がゾッとさせられました。



個人的な感想ですが、この竹石さんの「下妻修吾」という作家の思考や立場と人物像、どこか時間制作作品全ての脚本演出をされる谷碧仁さんとリンクしてる様に思えてしまい。。。



谷さんの作品では、ほぼ毎回、様々な「家族」が描かれてますが(特にここ数作品はほぼ家族絡み)、自分が初めて時間制作に触れた「きっとまた明日はくる」(2015年作品)の頃と比べると、その「家族像」はかなり変化してる様に感じてます。

下妻が作家としてデビューしてから次第に作風が変化していった理由を語る場面がありましたが、谷さんの作品の変遷も同様の思いで描かれてるのか、谷作品のファンとしてはとても興味があります。
「理解こそが愛」。決して軽々しい共感とかではない確実に存在する距離感。「他人だからこそなんでも描ける」。冷く聞こえても真理でもあるのかなと。

竹石さんが醸し出す雰囲気と冷酷なまでの好奇心も相まって、目の離せなくなるキャラクターでした。好きですね。


父親像も子供達も嫁も、そして従業員すらも理想的な関係を築いた「正明」という人物は恐らく出来た人間だったと思います。が、家族たちが危険に晒されても家庭を壊されても尚、理想を振りかざす姿勢を見て父との亀裂が顕著になる場面、あそこで観る側の感想というか評価が分かれた気がします。「頑固な父親」として映るか、「愛を貫く人」に映るか。







今回も両チーム観劇しました。Wキャストだと微妙に受け取るイメージが変わって見えるせいか、正直、良し悪しも含めて差を感じるのですが、不思議と共に同じ様に映りました。決してインパクトが無かった訳でもないのに、同じキャストで二度観たような。「役」そのものの個性があり過ぎたから?






どうしても注目してしまう小川麻琴さん。
「風雪の城」以来でしたが、それ以前の彼女を見てた身としては、まさかこんな「彼女」を見る事が出来る日が来ようとは。以前、時間制作作品を観に来られたのは知ってましたが、絶対合う!と勝手に思ってました笑。逆班の山本 夢さんも「お姉さん」味がかなり強めで印象的でしたが。家族愛に溢れるが故に感情的、閉鎖的になる「舞」という存在に染まりきってる、そんな風に映りました。



同様だったのが枝田譲二役の石井康太さん。お芝居されるのを観るのは初めてでしたがお調子者全開の前半、そしてラストの、最も見せ場だった下妻とのやり取り。あのシーンだけで譲二が「家族」という枠とは別のファミリーだった事を実感させてくれました。振り切れ具合では砂山さんもなかなかでしたが、両氏ともあの一瞬のカッコいい事!



井出少梢役のはら みかさん。稽古期間中のtwitterを拝見してて、演じるにあたり苦労されてる様子が窺えました。でも時間制作作品の場合、稽古期間中によくある風景というか、これも含めて時間制作なんですよね観る側としては(趣味悪く申し訳ないですが)。なので今回、一番期待して、一番注目したのがはらさんの「少梢」像でした。

勝手な思い込みであれですけど時間制作って、「時間制作作品に出ると入るスイッチ」みたいなのがあって、それは決してやる気とか上手い下手じゃなくて、ホント「ここでしか出ない何か」のスイッチがある様に感じるんですよね。各々の中にあるはずなんだけど中々見つからない様な。







最後の「井出家」の朝食場面。本人達は不愉快そうなんですが、不謹慎ながら面白く、少し切なく。笑ってしまうほど不器用な親子のやり直しの食卓の風景。彼らが今出来る、精一杯の団欒の様に見えてグッときました。



そして田名瀬さんの最後の場面。

田名瀬さん、過去、何度も色んなキャラの「学生」演じられてますが(前作もそうでしたが)常に瑞々しい「生徒」感滲ませてくるんですよね。
重苦しい展開が続いた空気を、あの「よっ!」って言う時の表情!それが全てひっくり返し、希望を感じさせてくれました。個人的には若者三人が顔を合わせる場面は最高のピリオドだったなと。

ホント、時間制作には珍しい、清々しい締め方でした(失礼!)




初見から作品にのめり込みつつも、中々イライラさせられるやり取りを観た時、自分ももしかしたら価値観を押し付けているだけなのかもと気付かされます。ただだからと言って価値観の違う相手を許容するのは自らの器が試されます。

時間制作は毎回、自身の価値観を揺さぶられるというか、突き付けるものが「現実」まで突き刺さって来るんですよね。そこに中毒性があるのか、今回、世間が感染症対策で右往左往するなか、マスク一つでノコノコやって来てしまいましたが、充分、価値はありました。ウイルスに感染しても悔いはありません!
次回作の公演までに完治すれば、ですが笑
見応えありましたね!




PS:目の前で見ましたが、トーストは本当に真っ黒焦げ、見事なウェルダンでした。
あれは食べたくないな笑