(19 4)  「軍隊生活の一日」 ① 新兵さん

 徴兵検査を受けて初めて軍隊に入る兵隊は「初年兵」とか「新兵」と呼ばれ、先輩の二年兵、三年兵の兵隊は「古兵」と呼ばれていた。 補充兵もその「新兵」の一員である。

 〇補充兵について

 「補充兵」とは戦前の日本男子が平和時に徴兵検査を受けて合格しても、現役兵として入隊せずに一般社会人や大学生として生活していた者が、戦争勃発に伴い「臨時召集令状・いわゆる赤紙」を受けて陸軍二等兵として入営する兵隊の事を言う。彼らはそれまで一般社会人として過ごしてきたので、年齢的にも高く、社長族や教師や医師など社会的地位も高い者も多かった。

 「召集令状」は印刷された赤紙に必要事項を記入してあり、封筒に入れて郵便で送られてくる。
、「兵隊の命は一銭五厘」とよく言われたものだが、これは葉書一枚でいくらでも兵隊を補充できるから兵隊の命ははがき代の一銭五厘しかない、・・という意味だが、このように「補充兵」は赤紙一枚で調達された全くの消耗品扱いであった。

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                         (臨時召集令状・見本)

 その「補充兵」は二等兵という最下位の兵隊なので、軍隊生活では食事も休息もみんな最後で、すべての雑用をこなさねばならない。最前線の補充兵は年齢による体力の衰えもあり、補給が途絶えた戦争末期には、敵弾に倒れる前に真っ先に栄養失調で死んで行ったそうである。もちろん、爆雷を抱いて敵戦車への体当たりを命じられるのも、最下級の補充兵が一番最初であった。

 
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                                           (昭和初めの旧式戦車)


(*シランも予備士で亀のような形の破甲爆雷を竿竹の先に括り付けて、敵の戦車のキャタピラの下に差し込む対戦車攻撃の訓練を受けたことがある。もちろん成功する前に戦車の機銃で撃ち殺されたり、爆雷もろとも自分も吹っ飛んでしまう、いわば決死の特攻攻撃だった。

 イメージ 3しかし、訓練に使う戦車ががない。演習場の隅に、雨ざらしの戦車があるが、これがまた年代物で、壊れていて全く動かない代物である。だから、もっぱら大八車→ を戦車に見立てて、対戦車攻撃の真似方をするだけだ。

 我々は長い竿竹の先に括り付けた「みなし破甲爆雷」を持って草むらに潜んでいて、戦友が引いて走ってくる大八車の前に飛び出して、その車輪の前に爆雷を突き出すという訓練である。何だか子供の遊びのようなマンガチックな光景ではあるが、我々は、吹き出しもせず真剣に訓練に励んだものだ。もし、ニヤニヤでもしていたら、頭の上から区隊長の怒声と共に、サーベル(指揮刀)で殴り飛ばされるのである)

    閑話休題・・ここで軍隊生活の一日を簡単に説明しよう。

   〇軍隊の一日

   〇「起床」    
 
 午前6時、訓練で疲れ果てて眠りこけている所を突如「オキロヨ、オキロ、ミナミナオキロ~、オキネーと古兵ドンニドヤサレルゥ~」と鳴り響く起床ラッパに叩き起される。

  イメージ 4大急ぎで袴(ズポン)と靴下を履き、戦闘帽を被り、上靴(スリッパ)を営内靴に履き替えて営庭に集合する。

 この上靴から営内靴に履きかえる時が大変で、各自の名前がそれぞれ入っているのだが、どうして無くなるのか分からないが、自分の右足がなかつたり、左足がなかつたりする。

 それに毛布のたたみ方が大変だ、毛布は5枚あり、下に2枚を敷き、残りを上にして状袋状にして潜り込んで寝るのであるが、朝、これをたたむのが一苦労、急いできれいに四角に畳んで寝台の足の方に置かねばならない。
 

  予備士では冬の極寒期にはあと3枚毛布が追加支給されたが、それでもドアのない開けっ放しの兵舎の夜は深々と寒く、のちには上着とズポンを毛布の上に乗せて寝るのを許されることもあった。

 この寝台に備え付けの布団代わりの毛布は、明治時代物などばかりで、明治38年製などと書いてあったりするほど、とても古くて、毛が抜けてしまってドンゴロス(麻袋)のようにゴワゴワになって居るが、その隙間にノミやシラミが湧いている。そこで虫干し(南京虫退治)のため、寝台を兵舎から営庭に運んで日に干すことがあるが、この時もグズグズしているというだけで、古参兵に殴られることもある。

     〇 「点呼」

 点呼とは、一人一人の名を呼んで、人員が揃っているかどうか調べることであるが、軍隊では朝、夕この点呼が行われた。日朝点呼、日夕点呼という。全員が班内に整列して、班長が巡回してくる週番士官に対して「週番士官殿に敬礼!頭(かしら)右!」と敬礼して「第一内務班、総員14名、事故1名(入院など)現在員13名、ほか異常なし、番号!」と号令をかけると、班員は下士官以下、順次番号1,2,3,4・・と、声高に叫ぶ。 ここで整列の兵隊が番号を唱え終わると、週番将校が兵隊の一人一人を見て周り服装、態度などを点検する。


 ところがこの点呼中に週番将校に班員の誰かが服装やらで注意されると、その後が大変である。班長の監督不行き届きということで、上官からの体罰が待っている。罰として営内一週の駆け足ならまだ良い方で、注意された者へのビンタだったり、時には班員全体のビンタだったりする。特に新兵への風当たりが強かった。

    ○ ビンタ には三つの種類がある。

  片道ビンタ 大抵右利きだから、左の頬を殴られる
  往復ビンタ 左右の頬を殴られる
  対向ビンタ 差し向かいでお互いを殴る

 然しビンタも手で殴られるのならまだましで時には上靴(室内履きのスリッパで、軍靴の古くなったものから作る)でやられる場合があるが、これは誠に強烈で頬にアザができたりする。    
   
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