(181) 「御所言葉」
暑い暑いと言っているうちに、もう8月も終わり、昨夜来の小雨のためか、今朝はちょっとだけ涼しい朝になった。今日は堅ぐるしい話は止めて、少し柔らかい言葉の遊びでもしてみよう。
今日は8月31日、75年ほど前の中学時代、夏休みの最後に宿題のスケッチブック一冊を、一日で描き上げたのを思い出す。
残る一日間だけでは、遠くの山野までスケッチに出かけるわけにもいかず、家の裏の木戸を開けて丸太橋の上から小川の右、左や向こう岸の田んぼから、はるかに遠い多布施川の松並木などの風景を、いい加減に、手当たり次第に描きなぐって何とか仕上げて学校に持って行った。
残る一日間だけでは、遠くの山野までスケッチに出かけるわけにもいかず、家の裏の木戸を開けて丸太橋の上から小川の右、左や向こう岸の田んぼから、はるかに遠い多布施川の松並木などの風景を、いい加減に、手当たり次第に描きなぐって何とか仕上げて学校に持って行った。
やかましいT先生の事だ、これじゃーきっと最低評価のDだろう、と思っていたら、何と、なんと・・めったに呉れないA評価ではないか。。
以来、絵の評価は個人的なもので、実にいい加減なものだと悟った次第。。
以来、絵の評価は個人的なもので、実にいい加減なものだと悟った次第。。
中学を出て進学した大阪外語は外国語が専門の学校だったので、もちろんお絵描きの時間はないのでほっとした。
外語では、専攻の夫々の外国語のほか、第二外国語の英語などがあるが、その他、国文、漢文はもとより法律、経済、地理、歴史から簿記やタイプライターまで何でもありの詰め込み授業だった。これは海外で活躍するために必要な一般的教養のためだったのだろう。
外語では、専攻の夫々の外国語のほか、第二外国語の英語などがあるが、その他、国文、漢文はもとより法律、経済、地理、歴史から簿記やタイプライターまで何でもありの詰め込み授業だった。これは海外で活躍するために必要な一般的教養のためだったのだろう。
その中には「言語学」という学科があった。
東洋語部、西洋語部の全生徒が、それぞれ大教室で京大の高畑彦次郎教授の出講(出張講義)を受けたが、これがあまりにも学問的、高踏的でちっとも面白くない。
↑高畑教授
いつもうとうとと居眠りばかりしていたが、いかめしい風貌に似ず、温厚な先生は少しも怒らず、淡々と講義を続けられていた。 おかげでシランも多少は言葉について関心を持つようになった。
夏目漱石の「吾輩は猫である」の中の珍野苦沙弥先生夫婦の会話の中に「オタンチン・パレオロガス」という珍妙な言葉が出てくる。「オタンチン」も「パレオロガス」も人の意表を突く言葉なので普通の人にはなかなか分からない。
(*ちなみにオタンチン・パレオロガスが、最後のローマ皇帝の名前コンスタンチン・パレオロガスに引っかけたしゃれ言葉であることを知ったのは、70年も経ったこんにちのパソコン社会のおかげである)
こんな珍妙な言葉に似たものに昔の「御所言葉」や「女房言葉」がある。今でも宮中で使われているという、いわゆる「御所言葉」は、我々普通人に取っては雲の上の言葉のようで、何が何だかさっぱり分からない。
この「御所言葉」のエキスパートが母校の数期後輩の堀井さん である。堀井さんは外語から京大文学部の言語学科に進まれたが、外語では英語部出身なのに京都生まれのせいか古い日本の「話し言葉」に詳しく、いつか同窓会・咲耶会の会誌「咲耶」に、宮中で使う「御所言葉」について投稿されていたので、少しご紹介してみよう。
*ついでながら、この同窓会の「咲耶」という名称は卒業生の司馬遼太郎、陳舜臣、両氏の命名によるもので、むかし、朝鮮の百済から「千字文」と「論語」を初めて日本に伝えた「王仁」が大阪に上陸した時詠んだと言われる「難波津の歌」から採られたものです。
難波津に 咲くや木の花 冬こもり
今は春べと (咲くや)木の花 王仁
(↑咲くや→咲耶・・ この木の花は梅の花のこと)
難波津に 咲くや木の花 冬こもり
今は春べと (咲くや)木の花 王仁
(↑咲くや→咲耶・・ この木の花は梅の花のこと)
堀井さんは、先年放映されたNHKの大河ドラマ「篤姫」で使われた御所言葉の指導も担当されているが、もともと、この御所言葉は今から600年ほど前の室町時代から京都御所の中で天皇のそばに仕える官女たちが使ってた言葉である。
〇 御所言葉
御所の中での朝、昼、晩の挨拶では「ゴキゲンヨー」と言い、お父さんは「オモーサン」お母さんは「オターサン」と呼ぶ(*我々、庶民の感覚では、なんだか逆のような気もする)
御所の中での朝、昼、晩の挨拶では「ゴキゲンヨー」と言い、お父さんは「オモーサン」お母さんは「オターサン」と呼ぶ(*我々、庶民の感覚では、なんだか逆のような気もする)
「餅を焼いて下さい」という時は「オカチン(餅)をアモジ(網)でオヒドリ(焼いて)アソバシテイタダカレ」と言うそうである。また「駕籠から出てください」は、「出マシャッテイタダカレ」というそうだから、御所言葉はなかなか難しい。
特に、発熱を「オヌル」 血のことを「アセ」と言うに至っては、まことに難解である。
しかし「アラシャイマス」と言う言葉は今回の篤姫や新撰組などの大河ドラマで公家たちがよく使うので今は一般的になった。
御所言葉には、「オスルスルと済みましゃりまして」と言う時の「オスルスル」などの重ね言葉が多い。たとえば 「数の子」は「カズカズ」 団子は「イシイシ」 あられは「イリイリ」と言い、取り込んで忙しいさまは 「オモヤモヤ」 賑やかな様子はなんと 「オニギニギ」と言うのだそうだ。
*基本的な御所ことば
〇(あいさつ) ごきげんよう
〇(語尾) あらしゃいます。くだしゃれ。くだしゃりませ
〇(語尾) あらしゃいます。くだしゃれ。くだしゃりませ
〇(たべもの)
あか(小豆)、あも(餅)、いしいし(お団子)、おかべ(豆腐)、おまわり(おかず)、かちん(餅)、
あか(小豆)、あも(餅)、いしいし(お団子)、おかべ(豆腐)、おまわり(おかず)、かちん(餅)、
こわくご(赤飯)、すもじ(鮨)、そもじ(そば)、ぞろ(そうめん)、まな(魚)等など
〇(家族)
おもうさん(お父様)
おたたさん(お母様)
おたあさん(おかあさん)→幼児語、親愛の情がこもっている)
おもうさん(お父様)
おたたさん(お母様)
おたあさん(おかあさん)→幼児語、親愛の情がこもっている)
〇(一人称)
(男性)
*殿上の公家→身共(ミドモ)身(ミ)
*殿上でない公家→ まろ
(女性) ここもじ、わもじ
(男女共通) こなた
(男性)
*殿上の公家→身共(ミドモ)身(ミ)
*殿上でない公家→ まろ
(女性) ここもじ、わもじ
(男女共通) こなた
〇(二人称) まろ
〇(三人称) まろ
(夏の名残り)
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