＜赤い闇スターリンの冷たい大地で (Mr.Jones・波/英・2019)＞★★★★

1930年代、スターリンの支配するソビエト連邦に行き、禁制の地に決死の潜入取材を敢行した実在のイギリス人ジャーナリストのガレス・ジョーンズを主人公としたサスペンス映画です。

＞1933年、欧米は世界的不況に襲われ、ロイド・ジョージ首相の外交顧問をしてヒトラーにも取材した経験を持つジャーナリストのガレス・ジョーンズは予算削減で解雇されてしまいます。彼はかねてから、ソ連だけが経済躍進を吹聴しているのを疑問に抱いていたので、この機会にソ連を取材しようと、モスクワにいる友人の新聞記者ポールに電話しますが、ポールが何かを伝えようとした矢先、交換手に電話を切られてしまいます。モスクワに着いたジョーンズはニューヨーク・タイムズモスクワ支局長であるデュランティに会うと、ポールが数日前に何者かに射殺されたことを知り愕然とします。外人記者はモスクワを離れることを禁じられている代わりに、政府提供の歓楽施設を提供され、ピューリッツァー賞を受賞したデュランティもすっかり堕落していて失望します。

デュランティの部下の女性記者エイダ・ブルックスから極秘に、ポールがウクライナに行こうとして殺されたことを知ります。ジョーンズは当局の目を盗んでウクライナ行きの列車に潜入乗車します。厳冬のウクライナでは、路上に餓死者があちこちに放置されており、彼の持っていたパンも子供たちに奪われてしまいます。大衆の一人が彼をスパイだと言い、彼は懸命に逃げた末、広大な雪原をさまよって、とある農家にたどり着くと少女が焼肉の一片をくれ、夢中になって食べます。一息ついて少女に肉のことを尋ねると「兄さんが」と指さすばかりなので行ってみると、少年が凍死しており、彼の太ももがえぐり取られているのを見て、ジョーンズは食べたものを吐き出してしまいます。町に出て、ロシアの穀物蔵と言われたウクライナが何故こんな悲惨な状態になったかを道行く人に尋ねている最中、彼は逮捕されてモスクワに引き戻されます。彼と共に、たまたま訪ソしていたイギリス人技師5人も逮捕されていました。検察官は、彼をロンドンに帰すが、飢饉の実態を話せば技師らは処刑されると脅迫されます。彼を引き取りに来たデュランティは、「君はモスクワで記者をやることの難しさを知らない」と言われます。ソ連政府に迎合して真実を伝えないデュランティにジョーンズは失望します。ロンドンに帰ったジョーンズは、真実を伝えて、そのために無実な同胞技師の命を犠牲にして良いのかと悩みます。出会った作家ジョージ・オーウェルは、彼に真実を伝えるべきだと助言します。しかし、彼は。スターリンの大発展政策はウクライナの犠牲のもとに進行していることをロイド首相に報告しますが、首相は。自国の経済が不安定な状況でソ連との関係を悪化させるわけにはいかないとはねられてしまいます。彼の報告講演についても、マスコミ各社は、彼が誇張して言っており嘘つきだと批判されてしまいます。モスクワでは、エイダがデュランティに呼び出され、ポールのことをジョーンズに漏らしたことを叱責され、スターリン賛歌の記事を書くよう強制され、拒否して実家のあるベルリンに帰ってしまいます。マスコミから見放されたジョーンズは故郷のウェールズに帰り、ローカル新聞社に勤めますが、政治記事は禁止されます。ウェールズの別荘に世界的新聞王のハーストがやってきたことを知ったジョーンズは強引に彼に面会し、彼の見聞を話します。彼のウクライナに広がる死”という記事が公表されて西欧社会に衝撃を与えます。

ウクライナのシーンがこれでもかと少々だらけている割に、彼の逮捕が唐突なのに不満が残りました。

最近のロシアの武装組織「ワグネル」の指導者ブリゴジン氏の”墜落死“、民主化闘争のリーダー・ナリヌワイ氏の”獄中死“など、現在のロシアでも胡散臭い死亡が発生していて、リーダーの意向に反する者は誰でも弾圧するのは帝政ロシア時代から今に続くロシアの本性だと思っていましたが、この映画でも明確にそれを感じました。今、プーチンがウクライナにいる同胞を守るという屁理屈をつけて、ウクライナに侵攻しているのも、スターリンと同じようにウクライナの豊富な穀物の奪取を狙っているのだと思いました。

制作国がイギリス、ウクライナ、ポーランド共作となっているので、現地取材や撮影もかなり本格的だと思います。ただ、ウクライナのシーンでは、燃える炎以外はほとんど色がなく、あたかもモノクロ映画のような感じで、当時のウクライナの悲惨さを強調していました。全編を通じてサスペンスに満ちた良作でした。

＜赤い闇 スターリンの冷たい大地で (Mr.Jones・波/英・2019)＞

＜赤い闇スターリンの冷たい大地で (Mr.Jones・波/英・2019)＞