＜セルビア・クライシス（Kralj Petar 1 ・セルビア・2018）＞　★★★☆

セルビアは旧ユーゴスラヴィアの一国です。タイトルは「ペータル１世王」です。第一次世界大戦はオーストリア皇太子がセルビア人青年に暗殺されたことに端を発しますが、その後攻めこんできたオーストリア、ドイツ軍にセルビアのペタール国王が自ら身を挺して戦かったと言う史実を描いて、愛国心を鼓舞する作品となっていました。そのため、国の援助があったのか、エキストラは豊富に使って厚みを出しています。

＞1914年6月28日、オーストリア＝ハンガリー帝国の皇位継承者が暗殺されたに起きた「サラエボ事件」をきっかけに、帝国はセルビアに宣戦布告し、第一次世界大戦が勃発します。皇太子に玉座を譲っていたペータル1世は復帰を請われ、戦線に赴きます。その頃、。地方の小さな村で暮らしていた青年マリンコは母を残して出征しますが、彼には軍隊経験がなく、先輩のジオータの助言を受けます。ある日、マリンコは帝国軍に家族を皆殺しにされた幼い少年モムチロと出会い、マリンコの隊に入って戦います。たまたまモムチロの存在を知ったペータル1世は彼を伍長に任命します。圧倒的な戦力の差でペータル1世は兵士や住民に撤退・避難を命じます。避難民の中にマリンコの母もいて、偶然に出会ったペータル1世を国王とも知らずに手編みの靴下を息子に届けて欲しいと依頼します。その頃、マリンコとジオータ、モムチロは冬の山中で飢えと寒さに瀕し、幼いモムチロは歩けなくなります。マリンコは倒れたモムチロを見捨てられず、ジオータを先に行かせます。マリンコと見られる兵士について報告を受けたペータル1世は、靴下を持って数人の部下を連れてその場に赴きますがマリンコは既に死んでいました。しかし、彼が最期まで守り抜いたモムチロは生きており、国王は彼を抱きしめます。多くの兵士や国民の死を悼みながらペータル1世は待機していた軍艦でアルバニアに亡命します。フランスやイギリスの参戦もあって連合国は勝利しますが、セルビアは人口の3分の1を失い、厳しい再建の道を歩み始めます。

タイトルは「ペータル国王」になっていますが、映画の中ではむしろ脇役で、マリンコ母子の情愛とモムチロとのいきさつが多くを占めていました。国民と共に戦った国王として、現在でも崇拝されているそうですが、戦乱の中で一兵士の母親に頼まれた靴下を渡す相手を探しに深夜の冬山を戻って行くなどということは現実離れしていてあり得ず、創作と思います。

しかし、険しい冬山を逃走避難する兵士や避難民の描写は厳しい状況を迫力を持って描いていました。国策映画とあって国からの支援もあったようで、エキストラの数も半端ではなく、臨場感を盛り上げていて、往年のソ連映画を想起させられました。