<権力の陶酔 ('Ivresse du Pouvoir・仏・2006)> ★★★★

 

 

冒頭に「この映画はフィクションであり、実在する人物に似ていてもそれは偶然の一致である。」と思わせぶりのテロップが流されます。フランスで2000年に実際に起こった石油会社エルフ事件を基にしているそうですが、該当人物から名誉棄損で訴えられないための予防線のようです。イザベル・ユペールがヒロインの辣腕な予審判事を演じていますが、予審判事は日本には存在しない役職ですが、フランスでは刑事事件で裁判が行われる前に、裁判が長引かないように予審が行われ、予審判事が警察の捜査に基づいて自ら現場検証や事情聴取を行い、裁判を行うか否かを決定する重要な役職だそうです。

 

>ジャンヌ・シャルマン・キルマン予審判事は、ある会社の政界を巻き込む資産の不正使用事件の調査を命じられ、綿密な捜査を開始し、巨大グループのトップのユモー社長を逮捕して尋問します。彼女の厳しい追及に屈して、贈収賄の一部を告白してしまいます。政界では懸念が高まり、彼女の上司への働きかけを強めます。彼女の車に手を加えて、彼女が衝突事故を起こして軽傷を負いますが、逆に彼女の闘争心を煽ることになります。関連する他の実業家の家庭を強制的に家宅捜査を実施します。そんな彼女の身の安全を図るため、2人の護衛が24時間、彼女の周辺に貼り付けられますが、夫のフィリップはそれがプライバシー侵害と考えて疎ましくなり、彼女につらく当たり、遂には別居に至ります。影の力は彼女の上司にも及び、ジャンヌに昇進を口実に彼女に助手をつけて、職務からの離脱を示唆します。彼女はそれでも事件の全容解明を主張し、遂に裁判にまで持ち込みます。それは傍から見れば、予審判事という権力に陶酔しているように見えます。そんな中、フィリップが自宅の2階の窓から飛び降り自殺を図って病院に搬送され、彼女も駆けつけますが、生命は救われたものの意識は戻っておらず愕然とします。それでも、彼女はやはり見舞いに来た同居するフィリップの甥にまだ捜索を続けるのかと聞かれて、まだ汚職は残っている、と毅然として告げます。

 

イザベル・ユペールが、尋問される相手から見れば鬼判事でしょうが、煙草を吸いながら尋問するあたり、如何にもフランス的だと思いました。

 

映画全体は尋問や会話が多く、極めて地味で、あまり一般受けしないように見えますが、フランスでは大きな社会問題となった事件だけに関心度が強く、映画化されたものと思われます。セリフの中で、「キックバック」と言う言葉が登場します。この映画が公開された当時、日本ではまだ自民党議員のキックバック事件は明るみに出ておらず、政財界のキックバックと称する贈収賄は当たり前の存在になっていたようです。