すこしまえ、スターダムの新木場大会で、須佐さんが試合中にダウンした。

須佐さんは意識はあっても自分の意志で身体を動かせない状態だった。



須佐さんは場外で仰向けに横たわっていた。

試合中、そのシーンをカメラに収めたマスコミは1人。それは仕事ですから、当たり前です。


試合が終わったあと、その前に撮っていたカメラマンをのぞき、あとのすべてのカメラマンが須佐さんにカメラを向けました。当然です、仕事ですから。



ただ、その中で1人だけ、須佐さんを見て、ニヤっと笑ってから、写真を撮ったカメラマンがいました。





ウィリアム・サローヤンというアメリカの作家が書いた『笑い虫サム』という短編小説があります。

生真面目な新聞売りの少年が『戦争でいっぱい人が死んだよ。アハ、アハ、アハ、アハハハ』と大きな声を出していた。

ただし、最後の笑いは人が死んだときにするものではないからと、注意を受けた。
しかし、『僕は、笑ってないよ』と少年は言った。


サムは、同じ年頃の新聞売り達から理不尽なことをされても、わらっていた。


ユダヤ系のこのサムという少年は、笑っているように見えても、実はそうじゃなかったって、物語でした。





あのカメラマンもサムと同じかもしれない。


ただ、少年と大人は違う。


そして、マスコミなら、マスコミならしくふるまってください。



誤解される表情をしないでください。










あの時、僕は、唖然としたんです。


情けないですね、すぐに、動けなかった自分が。




時間がたってからでも行けばよかったのかどーか。








でも、次はないですから。

大会がそこでストップしても、頭を勝ち割り行くからね。




僕が口だけかどーかは……
ヒカルにでもきいてもらえればわかるさ。












僕には、ニヤって完璧にわらったあの顔が脳裏に焼き付いている。