京都自死・自殺相談センターの竹本了悟さんに聞く

 死にたい。消えたい。神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件は、「死」を思うほどのつらさを抱える若者の姿を浮かび上がらせた。そのような心に寄り添うには、どうすればよいのか。京都市で7年以上、自死問題に取り組む民間団体がある。電話とメールで受ける相談は年に約4千件。その代表を務める僧侶の竹本了悟さん(39)の言葉は、ひとつのヒントになるかもしれない。

【写真】竹本了悟さん


《この団体はNPO法人「京都自死・自殺相談センター」(愛称・Sotto〈そっと〉)。電話相談は毎週金・土曜の夜7時~翌朝5時半に受け付けている。夜から明け方は、死にたい気持ちが強まる時間帯とされる。》

 かかってくる電話の一言目は聞きづらいんですよ。深刻な内容のときは特に。か細い声です。ずっとひとりきりで、人としゃべっていないのでしょうね。もしかしたら、すでに死ぬ準備をしているのかもしれません。だから受話器をとって最初に発するひと言から、精いっぱいのぬくもりを伝えようとします。

 私たちは「死ぬより生きるほうがいい」という価値観を大前提にしていますよね。今回の事件でも「『死にたい』というのは本当は『生きたい』のはずだ」というコメントに納得したくなる。でも当事者が「死にたい」というときは、やはりその方向に振れているのだと思いますし、まずはその心を感じ取ろうとすることが大切です。

 こちらからは「そうか、死にたいんか……」としか言えないかもしれません。それでも、ぴたりと相手の横にいて心の波に一緒に揺られようとします。小さいころ、親に痛いところを触れてもらっているだけで、痛みが和らぐ気がしたでしょう? けがをしている心も「手」を当てればぬくもりが伝わると信じています。

《メールでの相談も受け付ける。6割近くが20代以下で、小・中学生と思われる相談もある。一つの返信案ごとに複数の相談員が話し合って文面を練り上げる。》

 文字なので心を感じ取りづらい面はあります。ひと言だけ「死にたい」と書いたメールもけっこう多く、心配になります。何千字も書いてくる方もいますが、何往復でも応じます。心の居場所をつくるという意味で、臨む姿勢はメールも電話もまったく一緒です。

《月に1度、つらさを抱える人が集まる「おでんの会」も開いている。食事をしたり、悩みを語り合ったり。参加した20代の女性はこんな感想をつづった。「おでんの会に来させてもらった時は楽しいひとときを過ごすことが出来ますが、一人になるとまた死にたい気持ちがわきおこってきます。でも、定期的におでんの会があることで、どうにか生きることができているように思います」》

 おでんの会は、しんどいときに「自分のことを分かってくれる場がある」という感覚を持ってもらうため。大海原を泳いでいて、浮いている丸太につかまってちょっと休憩する感じでしょうか。その程度しかできないけど、「その程度」が今の社会に必要とされているのだと思います。

 生きることは誰にも代わってもらえない。生老病死(しょうろうびょうし)というように生きること自体が「苦」の一つです。人って本質的に孤独であるうえに、「誰にも分かってもらえない」という絶望的な孤独感はつらいですよね。

 みなさんの職場や家族にも「死にたい気持ち」を抱える人がいるかもしれません。気付かれまいと隠している場合も多いでしょう。もし打ち明けられたら、あるいはSOSに気付いたら、丁寧に接してください。何かせねばと気負わなくていい。他者を丸抱えすることはできないものです。ただ、温かく隣にいてあげてほしいと思います。(聞き手・構成 磯村健太郎)


     ◇

■「死にたい」と打ち明けられた際の対応例

▽戸惑っても話をそらさずに、まずは丁寧に聞く

▽死にたい気持ちを大事に受け取り、「死んではだめ」と否定しない

▽「こうしたら」と助言するよりも一緒に考える

(同センターによる)


     ◇

 〈京都自死・自殺相談センター〉 竹本さんら浄土真宗本願寺派の僧侶が中心となって2010年に設立。ただし宗教色はない。昨年は電話相談が2543件、メール相談は1382件。相談用の電話番号は075・365・1616。詳しくはホームページ(http://www.kyoto-jsc.jp)で。