2020年3月29日 8時32分 HARBOR BUSINESS Online
テレビ電話会議で語る岩田健太郎教授
安倍政権(首相)の後手後手で場当り的な新型肺炎対策で、国内での感染収束の見通しはまだ通っていない。感染が発覚した初動の時に専門家抜きで意思決定し、「検査陰性=感染なし(実際は感染者で陽性になるのは50%以下)」「下船者の14日間隔離はしない」などの“素人判断”を連発、他国では考えられない対応をしていたことに海外からも批判が噴出しているのだ。
今回の新型肺炎対応では「危機管理能力抜群」と評されてきた“番頭役”の菅義偉官房長官の影は薄く、安定した政権運営を支え続けてきた官邸が機能不全(崩壊)状態に陥っているようにさえ見えるのだ。
安倍政権の対応のどこが問題で、どう改善していければいいのかをハッキリさせるためには、現場経験豊富で感染症対策の“国際標準”を知り尽くしている専門家の話を聞くのが最も有効に違いない。そこで、岩田氏と野党議員の電話会議内容を3回に分けて紹介していく(第3回)。
◆感染症対策が専門ではない学者が政治家決定を「追認」
「新型コロナウイルス合同対策本部」代表代行の逢坂誠二政調会長(立憲民主党)と泉健太政調会長(国民民主党)らは2月21日、菅官房長官に申入れをした。逢坂氏は面談後、囲み取材で「(クルーズ船の下船者の)2週間隔離をしなくて大丈夫なのか」と海外と異なる決定を問題視、「政府の場当たり的な対応で国民に不安が広がっている」とも指摘しながら、専門家の活用や予算大幅拡充や医療体制整備などを要請したことも明らかにした。
筆者が「菅長官から岩田教授の動画についてのコメントはなかったのですか」と聞くと、逢坂氏は「まったくない」と回答。「14日間隔離なし」という海外に比べて甘い対応を早急に改める姿勢が政府にあったのかについては、次のように答えた。
「政府の方から『改める』ということはありませんでした。一昨日(19日)に下船された方に健康カードが出されていますが、『2週間の対応』については書かれていなかった。ところが昨日(20日)出された健康カードには『2週間の健康管理を徹底する』『不要不急の外出を控えように』ということが2日目になって付け加わった。その意味でいうと、政府の当初の見通しは非常に甘い。『二週間(隔離)』という海外の国が取っている対応への認識がなかったのではないか。それで、専門家の意見を聞いて朝改暮令のように2日目に対応を変えていることを見ても、政府の認識は非常に甘いのではないかと感じる」
専門家の意見が素早く意思決定に反映されない“官邸崩壊状態”が目に浮かんでくる。これまで2回にわたって紹介してきた「野党議員による岩田氏へのヒアリング(電話会議)」でも、このことが問題視されていた。科学的判断で意思決定をする米国のCDC(疾病対策センター)とは違って、日本では感染症の専門家でない学者が、政治家の“素人判断”を追認している形になっているというのだ。
驚くべき実態を浮彫りにする質問をしたのは、国民民主党の原口一博国対委員長だった。「自分たちは専門家の意見を聞いているのだ」という安倍政権の主張を疑問視したうえで、「その専門家が江戸時代の関所の地頭のような感じで、他の人(岩田氏ら)を全部排除して、タコツボの中で目の前の最適性を追うものだから、世界から猛烈な批判を受けている。この専門家の嘘の壁をどうやって突破すればいいのか」と助言を求めた時のことだ。
◆日本政府の新型肺炎対応の致命的欠陥
原口氏の問いかけに対して岩田教授は「感染症研究所は基本的に研究機関です。基本的にはウイルスの研究をしたり、細菌を研究したりということで、学者の集団なわけです。感染対策にはぜんぜん専門性がありません」と指摘した上で、こう続けた。
「いま安倍首相が招集した専門家委員会も、委員長は感染症研究所の方です。彼もウイルス学者です。ウイルス学者は感染症対策についての知識を全く持っていないので、結局、あれは偉い人を呼んで集めて、政府のやっていることを追認するだけの追認組織になっているように私は感じます。
そうではなくて、本来ならば政府から独立して、独立性を発揮して感染症対策を実務的に行うのが『CDC(米国の疾病対策センター)』です。官僚や政治家は何をやればいいかというと、例えば、ロジ(スティック=資材調達・輸送・管理)をやるべきなんです。
予算をつけるとか物品を提供するとか、医療機器を準備するとか、そういったことは官僚は得意なので、そういう周辺のアレンジメントはいい。ですが、科学的意思決定とか隔離解除基準というのは政治家マターではなくて、科学者マターなのです。科学的なことを政治的に決着してしまうことが、今までの感染症対策の非常に大きな問題でして、そこをきちんと区別できるのかが大切になります」
安倍政権の新型肺炎対応の致命的欠陥――科学者マターを政治家マターにしていること――をズバリ指摘するものだった。
◆情報公開していた中国と対照的な日本の隠蔽体質
「専門家の意見を聞いている」と言うところの専門家委員会の委員長は、感染症対策には専門外のウイルス学者にすぎず、感染症対策のプロを欠いた“素人集団”が政府方針の追認しているように見えるというのだ。CDCが科学的決定をする米国と政治家主導の日本との決定的な違いともいえる。原口氏は情報公開の重要性について、こんな質問をした。
原口氏:情報が正しく開示されて、みんなが同じ認識を持つのは極めて大事だと思います。情報公開の大切さについて教えていただけるとありがたいのですが。
岩田教授:私は2003年に北京にいたのですが、当時SARSが流行っていて、その時に中国がものすごく批判されたのは情報隠蔽でした。SARSに対する情報を諸外国にちゃんと伝えていないと。それからウイルスの情報などを科学者に回してくれないとか、ものすごい批判を受けたわけです。当時、中国はそんなに巨大な国ではなかった。
しかしコロナウイルスについていうと、中国は良かったところも悪かったところもあると思うのですが、少なくとも、このコビッド(COVID19=新型コロナウイルス)に対して徹底的に戦う姿勢を示しています。
そして、これはBBCの報道でよく聞くのですが、記者会見をやると、公開性と透明性を、情報公開を徹底的にやるのだと明言されています。隠し事はしないということです。武漢などのデータで、中国にとっては都合が悪いデータがもちろんたくさん出ています。患者さんの死者もたくさん出ています。
しかしながら中国は、都合の悪いことも全部ちゃんと開示するからこそ、国際社会の信用が得られるのだという教訓を多分SARSから得たのだと思います。そして今、中国版CDCが2002年にできて、SARSの教訓を得て、そして徹底的な科学的分析と専門家による介入と情報公開をしている。
ひるがえって日本は、最初の頃はコビッド(COVID19=新型コロナウイルス)が出てきた時、中国はまた隠していると揶揄することがあったわけですけれども、蓋を開けてみると何のことはない。隠しているのは日本の方でして、情報公開はしない。中の状況も教えない。専門家を入れないし入れてもすぐに追い出し、理由も説明しない。
本当にひどい状況です。SARS の時も2009年の新型インフルエンザの時も日本は感染症対策で大変だったのですが、当時と今は何が違うかというと、当時は世界中がSARS問題、新型インフル問題に関わっていたので、日本がどうやっているのかに対してまったく見ていなかった。
しかし今は違います。中国がコビットと戦って感染を減らそうとしています。他の国も感染対策がうまくいっていると言われています。その中でいちばん問題になっているのが、このクルーズ船、プリンセス・ダイヤモンドです。世界中が見ています。
その時に、DMAT(災害派遣医療チーム)なら入っていいとか、入ってはダメだとか、誰から横槍が入ったとか、そういった寝技的な伝統的な厚労省の論理というのは国際社会にはまったく通用しない。
ですから今日もCNNとかBBCとか、ニューヨークタイムスから取材を受けましたが、「厚労省はいったい何をやっているのだ」ということで皆さん、ものすごく不可思議に思っていて、「国際社会的にはありえない」と。
中国が透明性と公開性を主張しているのと翻って、日本はここで自分たちに都合が悪いことは全部公開して、うまくいかなかったことを認めないといけない。全部100点満点にはいかないので、時にはうまくいかないことがあるのです。
それを認めて公開してこそ、国際社会の信頼が得られる。そこを隠して、あたかも全部うまくいっていることになっているような戦時中の放送のようなことをやると、国際社会の信用はガタ落ちになります。今、それがどっちの方向に行くのか。すごく大きな問題なので、省益などのつまらない小さなことで判断してほしくないと強く思っています。
◆都合の悪いことも公開して初めて、日本は信用してもらえる
締め括りの質問として原口氏が「国民の皆様、政治家に向けて今の時点でいちばん訴えたいことをおっしゃっていただけないでしょうか」と問い掛けると、岩田教授は次のように答えた。
岩田教授:この問題は非常に重要な問題で、そして日本のコビッドがどうなるかを世界中が注目しています。いま、これをきちんとやれば、世界も日本の対策を認めてくれるでしょう。それは、都合の悪いことを隠すのではなくて、都合のいいことも悪いこともちゃんと公開して初めて、日本のアカウンタビリティ(説明責任)を信用してもらえると思います。
みんながそれを願っていると思います。ぜひ、すべての方がそういう原則に基づいて、世界の方も「日本は大丈夫だな」と思っていただけるような対策を我々はするべきだと思いますし、頑張りたいと思います。
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ここで終了となる流れであったが、原口氏が冒頭で岩田教授の経歴紹介をしてなかったことに気がつき、自己紹介でヒアリングを締めくくることになった。
「岩田健太郎と申します。神戸大学に勤めていますが、今日言ったことは私の見解で、神戸大学の見解を代表するものではありません。感染症を生業にして、この仕事を20年以上やっていますが、いろいろな感染症の問題が起きる度に考えさせられることはあったのですが、今回の問題も何とか、しっかりと対応できるように頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」
<文・写真/横田一>
【横田一】
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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