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・ファンケル(4921)「82歳の創業者」がキリンと組むわけ(上)(中)(下)
「私は今年で82歳。私が判断できるうちに、信頼できる会社に、わが社の将来を託したほうがよいと思った」
ファンケルの創業者である池森賢二会長は8月6日、東京都内で行われた記者会見で、キリンホールディングスと資本業務提携をした胸の内をこのように明かした。
■キリンは池森氏らから33%の株式を取得
ファンケルは同日、キリンと資本業務提携契約を締結したと発表した。キリンは、ファンケルの筆頭株主である池森会長と親族、池森氏の資産管理会社などから議決権ベースで33%の株式を取得する。株式の取得予定日は9月6日で、取得総額は1293億円になる。ファンケルはキリンの持分法適用会社となる予定だ。
また、キリンはファンケルの常勤取締役、非常勤取締役および常勤監査役の各1人ずつの候補者を指名する権利を有することで合意した。
ファンケルの前2019年3月期は、売上高1224億円(前年同期比12.4%増)、営業利益123億円(同46.6%増)と絶好調だった。主力のファンケル化粧品は基礎化粧品が堅調で、訪日観光客による爆買いがサプリメントの売上も押し上げた。
業績好調のこのタイミングでキリンと資本業務提携した理由について、池森会長は「私が死んだら社員が困る。インバウンド需要もあり、足元は業績がよいが、消費者行動は大きく変化しており、現代社会のこの変化に合わせていかなければ企業は存続できない。社員のことを考えると、成長余地を残したこの段階しかなかった」と、力を込めて話した。
ファンケルは池森氏が1980年に創業。当時化粧品による女性の肌トラブルが増加していたことから、無添加化粧品の開発・販売に乗り出したのがきっかけだ。
池森氏は2003年に会長を経て、2005年に名誉会長に就任し、経営の第一線から離れる。その後、競争が激化するなどしてサプリメント事業が低迷。主力の化粧品事業もブランド再構築に失敗し、2013年3月期に21億円の最終赤字に転落した。
■池森会長の復帰後、業績は上向き始める
池森会長の退任後は、社長も定まらなかった。2003年から2006年まではダイエー取締役を経てローソン会長から転身した藤原謙次氏が社長に就いた。その後、2007年からは同じくダイエー出身の宮島和美氏、2008年からは蛇の目ミシン工業出身の成松義文氏と、毎年のように社長が交代した。こうした状況に業を煮やした池森氏は、2013年1月に名誉会長兼執行役員として経営に復帰した。
池森会長が再登板してほどなくすると、2015年4月には食品に健康の効能を表示できる「機能性表示食品制度」がスタート。これを好機ととらえ、日本で初めて目の機能性表示食品「えんきん」を2015年6月に発売。目のぼやけを緩和するこのサプリメントは、同社のコア製品へと育っていった。さらに、広告宣伝を積極化したことやインバウンドの恩恵も受け、業績は上向き始めた。
ファンケル株を8.7%保有(2019年3月時点)する筆頭株主でもある池森会長は、3年前から保有株の譲渡先を検討し始めた。池森氏は「息子は画家。弟2人も70代を超えている。いずれはどこかに持っていただかないといけないという気持ちもあった」と漏らす。
真っ先に頭に浮かんだのがキリンだった。「品位のある企業として好印象を持っていた。この企業の下ならば、ファンケルの独自性を維持しながら成長を続けることができる。交渉相手は最初から1社に絞った。私が勝手に選んで、勝手に交渉を申し込んだ」(池森会長)。キリンの磯崎功典社長と初めて会い、保有株の譲渡先として考え始めたのは今年に入ってからだという。
「大変満足している」とキリンの磯崎社長が語るように、両社は今回の提携には補完関係があることを強調する。キリンは中期経営計画において、「食(酒・飲料)から医(医薬品)にわたる領域」の強化を掲げる。4月に子会社化した協和発酵バイオを軸に、飲料事業と医薬事業の中間にあたる領域を育成しようとしている。
その領域に当てはまるのが、まさしくファンケルが得意とするサプリメント事業だ。両社は今後、キリンの酵母・発酵技術を生かした化粧品やサプリメントの共同開発、生産面での協業、販売チャネルの相互乗り入れなどを模索する。
■経営の独立性を保つため、キリンを選んだ
ファンケルはキリンを選んだ理由として、経営の独立性が保てることを挙げているが、これは思惑通り進展するとは限らない。「わが社の独自性を生かすことが最大の条件。キリンはこれから先、うちの株を買い増す時に、ファンケルの取締役会に諮り、役員の了解を得る必要がある。あくまでファンケルの独自性を守ったうえで、大きな会社の傘下に入ることが私の望みだった」(池森氏)。
ただ、ファンケルの元社員は「池森氏が現場から一線を引いた時期は業績も低迷。当時の社員は力不足だったという思いも(池森氏に)あったから、今回、実質的にキリンの傘下に入る決断をしたのだろう」と指摘する。
後継者不足に悩んだ末に、池森氏は実質的にキリンの傘下に入る決断をしたというわけだ。池森氏は会見では進退を明言していないものの、「池森退任後」にファンケルの社員たちがモチベーションを保ちつづけることができるかどうか。
大手ビール会社と業績好調なオーナー会社との資本業務提携。首尾良く相乗効果を出すことができるのか、未知数だ。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2019.03 122,496 12,387 12,348 8,649 68.8 45
連本2020.03予 131,000 15,000 15,100 10,200 85.0 34
連本2021.03予 141,000 17,000 17,100 11,500 95.8 34-40
連中2018.09 60,288 7,082 7,172 4,850 76.2 30
連中2019.09予 65,200 7,450 7,500 5,100 42.5 17
「私は今年で82歳。私が判断できるうちに、信頼できる会社に、わが社の将来を託したほうがよいと思った」
ファンケルの創業者である池森賢二会長は8月6日、東京都内で行われた記者会見で、キリンホールディングスと資本業務提携をした胸の内をこのように明かした。
■キリンは池森氏らから33%の株式を取得
ファンケルは同日、キリンと資本業務提携契約を締結したと発表した。キリンは、ファンケルの筆頭株主である池森会長と親族、池森氏の資産管理会社などから議決権ベースで33%の株式を取得する。株式の取得予定日は9月6日で、取得総額は1293億円になる。ファンケルはキリンの持分法適用会社となる予定だ。
また、キリンはファンケルの常勤取締役、非常勤取締役および常勤監査役の各1人ずつの候補者を指名する権利を有することで合意した。
ファンケルの前2019年3月期は、売上高1224億円(前年同期比12.4%増)、営業利益123億円(同46.6%増)と絶好調だった。主力のファンケル化粧品は基礎化粧品が堅調で、訪日観光客による爆買いがサプリメントの売上も押し上げた。
業績好調のこのタイミングでキリンと資本業務提携した理由について、池森会長は「私が死んだら社員が困る。インバウンド需要もあり、足元は業績がよいが、消費者行動は大きく変化しており、現代社会のこの変化に合わせていかなければ企業は存続できない。社員のことを考えると、成長余地を残したこの段階しかなかった」と、力を込めて話した。
ファンケルは池森氏が1980年に創業。当時化粧品による女性の肌トラブルが増加していたことから、無添加化粧品の開発・販売に乗り出したのがきっかけだ。
池森氏は2003年に会長を経て、2005年に名誉会長に就任し、経営の第一線から離れる。その後、競争が激化するなどしてサプリメント事業が低迷。主力の化粧品事業もブランド再構築に失敗し、2013年3月期に21億円の最終赤字に転落した。
■池森会長の復帰後、業績は上向き始める
池森会長の退任後は、社長も定まらなかった。2003年から2006年まではダイエー取締役を経てローソン会長から転身した藤原謙次氏が社長に就いた。その後、2007年からは同じくダイエー出身の宮島和美氏、2008年からは蛇の目ミシン工業出身の成松義文氏と、毎年のように社長が交代した。こうした状況に業を煮やした池森氏は、2013年1月に名誉会長兼執行役員として経営に復帰した。
池森会長が再登板してほどなくすると、2015年4月には食品に健康の効能を表示できる「機能性表示食品制度」がスタート。これを好機ととらえ、日本で初めて目の機能性表示食品「えんきん」を2015年6月に発売。目のぼやけを緩和するこのサプリメントは、同社のコア製品へと育っていった。さらに、広告宣伝を積極化したことやインバウンドの恩恵も受け、業績は上向き始めた。
ファンケル株を8.7%保有(2019年3月時点)する筆頭株主でもある池森会長は、3年前から保有株の譲渡先を検討し始めた。池森氏は「息子は画家。弟2人も70代を超えている。いずれはどこかに持っていただかないといけないという気持ちもあった」と漏らす。
真っ先に頭に浮かんだのがキリンだった。「品位のある企業として好印象を持っていた。この企業の下ならば、ファンケルの独自性を維持しながら成長を続けることができる。交渉相手は最初から1社に絞った。私が勝手に選んで、勝手に交渉を申し込んだ」(池森会長)。キリンの磯崎功典社長と初めて会い、保有株の譲渡先として考え始めたのは今年に入ってからだという。
「大変満足している」とキリンの磯崎社長が語るように、両社は今回の提携には補完関係があることを強調する。キリンは中期経営計画において、「食(酒・飲料)から医(医薬品)にわたる領域」の強化を掲げる。4月に子会社化した協和発酵バイオを軸に、飲料事業と医薬事業の中間にあたる領域を育成しようとしている。
その領域に当てはまるのが、まさしくファンケルが得意とするサプリメント事業だ。両社は今後、キリンの酵母・発酵技術を生かした化粧品やサプリメントの共同開発、生産面での協業、販売チャネルの相互乗り入れなどを模索する。
■経営の独立性を保つため、キリンを選んだ
ファンケルはキリンを選んだ理由として、経営の独立性が保てることを挙げているが、これは思惑通り進展するとは限らない。「わが社の独自性を生かすことが最大の条件。キリンはこれから先、うちの株を買い増す時に、ファンケルの取締役会に諮り、役員の了解を得る必要がある。あくまでファンケルの独自性を守ったうえで、大きな会社の傘下に入ることが私の望みだった」(池森氏)。
ただ、ファンケルの元社員は「池森氏が現場から一線を引いた時期は業績も低迷。当時の社員は力不足だったという思いも(池森氏に)あったから、今回、実質的にキリンの傘下に入る決断をしたのだろう」と指摘する。
後継者不足に悩んだ末に、池森氏は実質的にキリンの傘下に入る決断をしたというわけだ。池森氏は会見では進退を明言していないものの、「池森退任後」にファンケルの社員たちがモチベーションを保ちつづけることができるかどうか。
大手ビール会社と業績好調なオーナー会社との資本業務提携。首尾良く相乗効果を出すことができるのか、未知数だ。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2019.03 122,496 12,387 12,348 8,649 68.8 45
連本2020.03予 131,000 15,000 15,100 10,200 85.0 34
連本2021.03予 141,000 17,000 17,100 11,500 95.8 34-40
連中2018.09 60,288 7,082 7,172 4,850 76.2 30
連中2019.09予 65,200 7,450 7,500 5,100 42.5 17
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※投資の最終的な判断はご自身でお願い致します。
このブログに掲載の情報は、投資を保証するものでは一切御座いません。

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