2019年6月30日 9時0分 東洋経済オンライン
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舞浜駅から見える花火。写真はイメージ(写真:kaz_i/PIXTA)
「好きなことを仕事にできれば最幸だけど、選んだいまの仕事を好きになる幸せもある」
働き方改革が始まり、「働き方」について考える場が増えています。みなさんも、1度や2度、考えたことがあるのではないでしょうか。「仕事がつまらない」「行きたい会社に行けなかったから楽しくない」「こんなはずじゃなかった」「生きていくために仕方がないから働いている」……、仕事についてどう思うかというアンケートでよく出てくる言葉です。なぜか、仕事は大変なもの、苦行だと思っている人が多いようです。しかし、本当に仕事は「生活のための苦行」なのでしょうか。
「仕事は、自分で勝手に楽しんじゃえばいい」
70回もの増刷を重ね、20万人もの方が手にした名著『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった 新版』の著者、香取貴信さんは言います。ディズニーランドに入った当初、香取さんは、バイト代のために仕方なく働いていたそうです。ところが、途中から働くことが楽しくなり、好きになっていたとのこと。それは、働くことについて、ディズニーランドで考えさせられたことによって意識が変わったことが理由だそうです。香取さんが影響を受けたことの中から、とくに大事な4つについてご紹介いただきました。
いつもゲストが中心にいる
①「大切なもの」を本当に大切に思う
ディズニーランドでは、「仕事」=「ゲスト」でした。いつも会話の中心にゲストがいたのです。遅刻をしたスタッフに対して、「遅刻や欠勤は、なぜいけないのか」を説明するとき、たいてい、まわりの仲間に迷惑がかかるとか、そういった理由を挙げるでしょう。
しかし、こんなことを言う人がいました。
「あのね、香取さん。遅刻してほしくないのはさぁ、オープンのときに、この場所に香取さんにいてほしかったからなんだよ。だって、香取さんが今日あの時間に通常どおりに立っていたら、今日のゲストのなかで何人かは香取さんと会って楽しい思いをしてもらえたかもしれないでしょ!!
いつもそうやってポジション配置を考えているんだ。だから時間には来ていてほしいんだよ。ほかのキャストなんて、誰も迷惑だなんて思ってないよ。でも、ゲストにとって私たちキャストの存在って、それぐらい大事なんだよね……」
厳しく叱られたり、面白い発想で指導してくれたりと、やり方は違っても、いつも「ゲスト」が中心にいました。
「ゲストに楽しんでほしい」「楽しい時間と思い出を……」。たとえ、コスチューム交換カウンターのような表に出ないセクションでさえも。
最初は「アルバイト=適当」と考えていた私ですが、そこに「ゲスト」が存在することで、「アルバイト」であっても「仕事」だし、「仕事」であれば真剣さと責任を持って「ゲスト」に接しなければならない。そこには「アルバイト」も「社員」も関係ない……ということが感じられたのだと思います。
ディズニーランドでは「ゲスト」でしたが、どんな仕事にも「大切にしなければならないもの」があるはずです。その「大切なもの」を本当に大切に思うこと、それが「働く」っていうことなんだ、と教えてくれたのです。
② 一緒に繰り返し考える
ディズニーランドで働きはじめたとき、かなりやんちゃをしていたので、「バイト代」、あと「ディズニー好きな彼女を喜ばせること」以外、興味はありませんでした。
そんな人間がさまざまなシーンでよい教育を受けられたおかげで、いまのような仕事ができるようになったのですから面白いものです(笑)。
なかでも忘れられないのは、コンサルタント会社時代の上司が教えてくれた言葉です。
「人だけが、インプットを超えたアウトプットをできるんだよ!!」
機械は、インプットした数だけ確実にアウトプットすることはできるけど、人間は、たった1つインプットをしても、そのアウトプットの量は無限だというのです。
でも、その無限のアウトプットをできるようにするためには、ただ伝えるのではダメ!! なぜ、この手順なのかを一緒に考えるってことが大事……と。
例えば「身だしなみ」。これを「会社の規定だから守りましょう」と伝えたのでは、「スキあらば!!」となってしまいます。そこで、一緒に繰り返し考えてみるんです。
「なぜ身だしなみを守らなければならないと思う?」
↓
「会社の規則だから……」
↓
「なんで、そういう規則があるんだろう?」
↓
「ゲストに不快感を与えないため」
↓
「それじゃあ、君の身だしなみはどう?」
↓
「んー、べつに不快じゃないと思うけど……」
↓
「不快じゃないのか。じゃあ、清潔感はどう?」
↓
「見る人によって違うかもしれないけど……、僕はそれなりにと思って……」
↓
「見る人みんなが清潔感を感じるにはどうしたらいいと思う?」
こうやって、自分で考えて納得しながら身に付けてきたことは、その後のアウトプットが無限となるわけです。「教える」というと、なんとなく学校の授業のように一方通行な感じがしますが、本当は教える側と教わる側が「一緒に考える」ということなのかもしれません。
ゲストの大切な思い出となるために自分ができること
③ いま目の前にいる相手・仕事に全力で接する
今はなくなってしまったのですが、「シンデレラ城ミステリーツアー」というアトラクションがありました。このアトラクションではゲストの1人を「ヒーロー」に選び、最後に魔法の剣で悪の大王をやっつけてもらいます。そしてヒーローには、ヒーローメダルがプレゼントされます。
その昔、たまたまヒーローに選んだゲストのなかに、難病でもう2度とディズニーランドに遊びに来ることができないかもしれない子どもさんがいたそうです。
その子は、見た目では病気とはわからないため、私たちキャストも、お母さんからの手紙を読むまで、この話を知りませんでした。ヒーローに選ばれたその子は、最後にもらったヒーローメダルを首からさげて、大喜びだったそうです。病院に戻ってからも、病院の先生や看護婦さん、お見舞いに来た人たちに、「僕はシンデレラ城で悪の大王をやっつけたんだ!! だから、病気だってやっつけちゃうよ!!」と、いつも自慢げに話していたそうです。
しかし、その子は天国へ……。この話を先輩から聞いたとき、その子の短い人生のなかで、ディズニーランドでの出来事が大切な思い出になっていてほしい……と、心から願いました。
ゲスト一人ひとりにとって、ディズニーランドでの出来事が大切な思い出となるために自分ができることは、「いつでも絶対に手を抜かないこと」「いま目の前にいる相手に全力で接すること」だと気づいたのです。
だって、いま私たちの目の前にいるゲストは、もう2度と来られないかもしれないのですから。
④ 一緒に働く人と共通の判断軸を持つ
仕事をしていると、現場であれ経営であれ、判断に迷うことってありますよね?
当然その状況一つひとつに対して、「この場合はこっち、その場合はあっち」なんてしていたらそれこそ数も多くなり大変です。みんなが同じ考え方で同じ気持ちで、同じ判断基準をもって動けたら、すごいと思いませんか?
そんな魔法みたいなことがディズニーランドにはあるんです。
それが、ディズニーの4つの鍵 The Four Keysです。Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の4つが行動規準となるのです。

僕がいちばん驚いたのは、旅行で行ったアメリカのディズニーランドのキャストと話をしたときにした質問の答えでした。
「現場で究極、判断に迷ったときには、何を基準に判断しているんですか?」
「う~ん……、もし自分の後ろにウォルト・ディズニーがいたとしたら、これからやることが、ウォルトにグッジョブって笑顔で言ってもらえるかどうかかな!!」
実はこれ、僕も同じことをしていたんです。別に、そう考えろなんて教わったわけじゃないんです。まったく同じ答えに鳥肌が立ったのを今でも覚えています。その後もほかの国のディズニーキャストに同じ質問を投げかけましたが、僕が質問したキャストはみんな同じ答えだったんです。
創業者はこの世にいなくても、その想い“スピリッツ”が今にも伝わるその仕組みが、ディズニーのスゴさなのです。
でも、これはディズニーだからできたことではないと思います。みなさんの会社でも同じことができるはずです。
今の仕事を好きになり、楽しむと決めること
私たちが仕事を通してできることは、たくさんあります。
あなたがいることで、たくさんのことが生まれ、変わります。
ただ、それにはとても大切な最低条件があります。
それは、「全力で仕事を楽しむこと」です。
だって、いま、この時は2度と戻ってきませんし、着実に人生の残り時間は減っています。だったら、いま、この時を楽しんでしまえばいいのです。
いまのあなたが職場に存在することの意味、それが「働くことの本質」です。好きなことを仕事にできれば最幸だけど、それがかなわないこともあるでしょう。でも、選んだいまの仕事を好きになる幸せは、誰しもが手に入れられるのです。今の仕事を自ら好きになり、楽しむと決めること。それも働き方改革なのです。
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舞浜駅から見える花火。写真はイメージ(写真:kaz_i/PIXTA)
「好きなことを仕事にできれば最幸だけど、選んだいまの仕事を好きになる幸せもある」
働き方改革が始まり、「働き方」について考える場が増えています。みなさんも、1度や2度、考えたことがあるのではないでしょうか。「仕事がつまらない」「行きたい会社に行けなかったから楽しくない」「こんなはずじゃなかった」「生きていくために仕方がないから働いている」……、仕事についてどう思うかというアンケートでよく出てくる言葉です。なぜか、仕事は大変なもの、苦行だと思っている人が多いようです。しかし、本当に仕事は「生活のための苦行」なのでしょうか。
「仕事は、自分で勝手に楽しんじゃえばいい」
70回もの増刷を重ね、20万人もの方が手にした名著『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった 新版』の著者、香取貴信さんは言います。ディズニーランドに入った当初、香取さんは、バイト代のために仕方なく働いていたそうです。ところが、途中から働くことが楽しくなり、好きになっていたとのこと。それは、働くことについて、ディズニーランドで考えさせられたことによって意識が変わったことが理由だそうです。香取さんが影響を受けたことの中から、とくに大事な4つについてご紹介いただきました。
いつもゲストが中心にいる
①「大切なもの」を本当に大切に思う
ディズニーランドでは、「仕事」=「ゲスト」でした。いつも会話の中心にゲストがいたのです。遅刻をしたスタッフに対して、「遅刻や欠勤は、なぜいけないのか」を説明するとき、たいてい、まわりの仲間に迷惑がかかるとか、そういった理由を挙げるでしょう。
しかし、こんなことを言う人がいました。
「あのね、香取さん。遅刻してほしくないのはさぁ、オープンのときに、この場所に香取さんにいてほしかったからなんだよ。だって、香取さんが今日あの時間に通常どおりに立っていたら、今日のゲストのなかで何人かは香取さんと会って楽しい思いをしてもらえたかもしれないでしょ!!
いつもそうやってポジション配置を考えているんだ。だから時間には来ていてほしいんだよ。ほかのキャストなんて、誰も迷惑だなんて思ってないよ。でも、ゲストにとって私たちキャストの存在って、それぐらい大事なんだよね……」
厳しく叱られたり、面白い発想で指導してくれたりと、やり方は違っても、いつも「ゲスト」が中心にいました。
「ゲストに楽しんでほしい」「楽しい時間と思い出を……」。たとえ、コスチューム交換カウンターのような表に出ないセクションでさえも。
最初は「アルバイト=適当」と考えていた私ですが、そこに「ゲスト」が存在することで、「アルバイト」であっても「仕事」だし、「仕事」であれば真剣さと責任を持って「ゲスト」に接しなければならない。そこには「アルバイト」も「社員」も関係ない……ということが感じられたのだと思います。
ディズニーランドでは「ゲスト」でしたが、どんな仕事にも「大切にしなければならないもの」があるはずです。その「大切なもの」を本当に大切に思うこと、それが「働く」っていうことなんだ、と教えてくれたのです。
② 一緒に繰り返し考える
ディズニーランドで働きはじめたとき、かなりやんちゃをしていたので、「バイト代」、あと「ディズニー好きな彼女を喜ばせること」以外、興味はありませんでした。
そんな人間がさまざまなシーンでよい教育を受けられたおかげで、いまのような仕事ができるようになったのですから面白いものです(笑)。
なかでも忘れられないのは、コンサルタント会社時代の上司が教えてくれた言葉です。
「人だけが、インプットを超えたアウトプットをできるんだよ!!」
機械は、インプットした数だけ確実にアウトプットすることはできるけど、人間は、たった1つインプットをしても、そのアウトプットの量は無限だというのです。
でも、その無限のアウトプットをできるようにするためには、ただ伝えるのではダメ!! なぜ、この手順なのかを一緒に考えるってことが大事……と。
例えば「身だしなみ」。これを「会社の規定だから守りましょう」と伝えたのでは、「スキあらば!!」となってしまいます。そこで、一緒に繰り返し考えてみるんです。
「なぜ身だしなみを守らなければならないと思う?」
↓
「会社の規則だから……」
↓
「なんで、そういう規則があるんだろう?」
↓
「ゲストに不快感を与えないため」
↓
「それじゃあ、君の身だしなみはどう?」
↓
「んー、べつに不快じゃないと思うけど……」
↓
「不快じゃないのか。じゃあ、清潔感はどう?」
↓
「見る人によって違うかもしれないけど……、僕はそれなりにと思って……」
↓
「見る人みんなが清潔感を感じるにはどうしたらいいと思う?」
こうやって、自分で考えて納得しながら身に付けてきたことは、その後のアウトプットが無限となるわけです。「教える」というと、なんとなく学校の授業のように一方通行な感じがしますが、本当は教える側と教わる側が「一緒に考える」ということなのかもしれません。
ゲストの大切な思い出となるために自分ができること
③ いま目の前にいる相手・仕事に全力で接する
今はなくなってしまったのですが、「シンデレラ城ミステリーツアー」というアトラクションがありました。このアトラクションではゲストの1人を「ヒーロー」に選び、最後に魔法の剣で悪の大王をやっつけてもらいます。そしてヒーローには、ヒーローメダルがプレゼントされます。
その昔、たまたまヒーローに選んだゲストのなかに、難病でもう2度とディズニーランドに遊びに来ることができないかもしれない子どもさんがいたそうです。
その子は、見た目では病気とはわからないため、私たちキャストも、お母さんからの手紙を読むまで、この話を知りませんでした。ヒーローに選ばれたその子は、最後にもらったヒーローメダルを首からさげて、大喜びだったそうです。病院に戻ってからも、病院の先生や看護婦さん、お見舞いに来た人たちに、「僕はシンデレラ城で悪の大王をやっつけたんだ!! だから、病気だってやっつけちゃうよ!!」と、いつも自慢げに話していたそうです。
しかし、その子は天国へ……。この話を先輩から聞いたとき、その子の短い人生のなかで、ディズニーランドでの出来事が大切な思い出になっていてほしい……と、心から願いました。
ゲスト一人ひとりにとって、ディズニーランドでの出来事が大切な思い出となるために自分ができることは、「いつでも絶対に手を抜かないこと」「いま目の前にいる相手に全力で接すること」だと気づいたのです。
だって、いま私たちの目の前にいるゲストは、もう2度と来られないかもしれないのですから。
④ 一緒に働く人と共通の判断軸を持つ
仕事をしていると、現場であれ経営であれ、判断に迷うことってありますよね?
当然その状況一つひとつに対して、「この場合はこっち、その場合はあっち」なんてしていたらそれこそ数も多くなり大変です。みんなが同じ考え方で同じ気持ちで、同じ判断基準をもって動けたら、すごいと思いませんか?
そんな魔法みたいなことがディズニーランドにはあるんです。
それが、ディズニーの4つの鍵 The Four Keysです。Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の4つが行動規準となるのです。

僕がいちばん驚いたのは、旅行で行ったアメリカのディズニーランドのキャストと話をしたときにした質問の答えでした。
「現場で究極、判断に迷ったときには、何を基準に判断しているんですか?」
「う~ん……、もし自分の後ろにウォルト・ディズニーがいたとしたら、これからやることが、ウォルトにグッジョブって笑顔で言ってもらえるかどうかかな!!」
実はこれ、僕も同じことをしていたんです。別に、そう考えろなんて教わったわけじゃないんです。まったく同じ答えに鳥肌が立ったのを今でも覚えています。その後もほかの国のディズニーキャストに同じ質問を投げかけましたが、僕が質問したキャストはみんな同じ答えだったんです。
創業者はこの世にいなくても、その想い“スピリッツ”が今にも伝わるその仕組みが、ディズニーのスゴさなのです。
でも、これはディズニーだからできたことではないと思います。みなさんの会社でも同じことができるはずです。
今の仕事を好きになり、楽しむと決めること
私たちが仕事を通してできることは、たくさんあります。
あなたがいることで、たくさんのことが生まれ、変わります。
ただ、それにはとても大切な最低条件があります。
それは、「全力で仕事を楽しむこと」です。
だって、いま、この時は2度と戻ってきませんし、着実に人生の残り時間は減っています。だったら、いま、この時を楽しんでしまえばいいのです。
いまのあなたが職場に存在することの意味、それが「働くことの本質」です。好きなことを仕事にできれば最幸だけど、それがかなわないこともあるでしょう。でも、選んだいまの仕事を好きになる幸せは、誰しもが手に入れられるのです。今の仕事を自ら好きになり、楽しむと決めること。それも働き方改革なのです。