前回のコラムでは、J-REIT投資を行う際の用途分散の一つとして、投資市場および収益構造の観点から見た「オフィスビルの特性」についてまとめました。今回は、「住居の特性」について解説します。
住居は、REITが運用する不動産の中で、オフィスビルに次いで2番目の資産残高を持つ重要なセクターです。オフィスビルがパブリックスペースであるのに対し、住居はプライベートな空間を提供します。従って個人には最も身近な不動産と言えるでしょう。
そこでREITの運用対象となる住居は主として「賃貸マンション」です。1棟4戸程度の低層の小さなマンションもあれば、500戸以上の超高層マンションなど、さまざまなタイプが存在します。代表的な資産は、日本アコモデーションファンド投資法人<3226.T>が運用する「大川端リバーシティ」賃貸棟(東京都中央区/取得価格297億円)や、森ヒルズリート投資法人<3234.T>が運用する「元麻布ヒルズ」(東京都港区/当初取得価格273億円)があります。そのほかの住居として「サービスアパートメント」「学生寮」「社宅」等があります。建物の外観は普通の賃貸マンションと変わりませんが、稼働率とは関係なく賃料が固定であることが一般的です。
<住居の投資価値>
住居のメリットとしてマーケットが広域であることが挙げられます。オフィスビルであれば、都市の中心部や企業集積地に限定されますが、住居は比較的広い地域で投資対象となることが可能です。その意味では立地を選ばず、地方でも投資対象になりやすい用途です。そして2番目に重要なメリットは、オフィスビルと比較して1棟当たりのテナント(入居数)が多い=テナント分散が効いている点です。
例えばオフィスビルの場合、大企業に1棟貸しするケースがよくあります。その場合、もしその企業が退去してしまったら1棟全体が空室になるリスクが高いです。しかし、住居の場合は1棟全体が空室になることはまずありません。REITの運用資産を見ると、オフィスビルの稼働率の変動の大きさに対し、住居の稼働率はおおむね90%台で安定しています。
<住居の収益特性>
オフィスビルと同様に、基本的に賃貸借契約は2年となっています。オフィスビルと比べて入退去の回転は早いですが、前述のとおり分散されているため、1棟全体の稼働率は安定しています。
さらに稼働率の安定性に加え、賃料水準の安定性も高いです。オフィスビルの場合、企業業績によって需給環境が変わるため、景気の変動に影響される傾向があります。一方、住居の場合は、いきなり人口動態が変化することはありませんから、需給が大きく変動することはありません。従ってオフィスビルに比べて賃料の変動は小さくなります。このため、景気が良いときのメリットは小さいですが、景気が悪いときに強さを発揮する住居系REITはディフェンシブ銘柄と言えるでしょう。
ただし、収益が季節に影響される側面があります。例えば、例年3月は入学や入社転勤によって引っ越しが重なります。従って礼金や更新料の一時的な収入が増えます。REITは基本的に6カ月毎の決算のため3月を含む決算期の収入が増える傾向にあります。
<投資のポイント>
住居系銘柄を見るときは、ポートフォリオがどれだけ分散しているか、稼働率が極端に低い物件が含まれていないかを見ることが重要です。また築年数が経過していると、競争力が低下し稼働率が低下する要因につながりますので、築年数をチェックすることも手掛かりになるでしょう。同じような物件が多く入退去の回転も早いため、いったん競争力が低下すると回復することは難しいです。従って日々の建物管理によって資産の価値を維持向上を図るプロパティーマネジメント会社の果たす役割が非常に重要となります。
次回は「商業施設」の投資価値・収益特性について解説します。
藤浪容子【ふじなみようこ】
アイビー総研株式会社
経歴:
不動産会社にて不動産の賃貸・管理業務を担当。その後不動産証券化に関する情報サイトを立ち上げ、REIT創設時よりREITの記事執筆及び 分析を行う。
2007年アイビー総研株式会社設立に参画し、不動産投資ポータル「JAPAN-REIT.COM」の設立・運営を担当。
保有資格:
不動産証券化協会認定マスター
活動歴:
月刊プロパティマネジメント(綜合ユニコム刊)にて「J-REIT MONTHLY DATA FILE」連載。
住居は、REITが運用する不動産の中で、オフィスビルに次いで2番目の資産残高を持つ重要なセクターです。オフィスビルがパブリックスペースであるのに対し、住居はプライベートな空間を提供します。従って個人には最も身近な不動産と言えるでしょう。
そこでREITの運用対象となる住居は主として「賃貸マンション」です。1棟4戸程度の低層の小さなマンションもあれば、500戸以上の超高層マンションなど、さまざまなタイプが存在します。代表的な資産は、日本アコモデーションファンド投資法人<3226.T>が運用する「大川端リバーシティ」賃貸棟(東京都中央区/取得価格297億円)や、森ヒルズリート投資法人<3234.T>が運用する「元麻布ヒルズ」(東京都港区/当初取得価格273億円)があります。そのほかの住居として「サービスアパートメント」「学生寮」「社宅」等があります。建物の外観は普通の賃貸マンションと変わりませんが、稼働率とは関係なく賃料が固定であることが一般的です。
<住居の投資価値>
住居のメリットとしてマーケットが広域であることが挙げられます。オフィスビルであれば、都市の中心部や企業集積地に限定されますが、住居は比較的広い地域で投資対象となることが可能です。その意味では立地を選ばず、地方でも投資対象になりやすい用途です。そして2番目に重要なメリットは、オフィスビルと比較して1棟当たりのテナント(入居数)が多い=テナント分散が効いている点です。
例えばオフィスビルの場合、大企業に1棟貸しするケースがよくあります。その場合、もしその企業が退去してしまったら1棟全体が空室になるリスクが高いです。しかし、住居の場合は1棟全体が空室になることはまずありません。REITの運用資産を見ると、オフィスビルの稼働率の変動の大きさに対し、住居の稼働率はおおむね90%台で安定しています。
<住居の収益特性>
オフィスビルと同様に、基本的に賃貸借契約は2年となっています。オフィスビルと比べて入退去の回転は早いですが、前述のとおり分散されているため、1棟全体の稼働率は安定しています。
さらに稼働率の安定性に加え、賃料水準の安定性も高いです。オフィスビルの場合、企業業績によって需給環境が変わるため、景気の変動に影響される傾向があります。一方、住居の場合は、いきなり人口動態が変化することはありませんから、需給が大きく変動することはありません。従ってオフィスビルに比べて賃料の変動は小さくなります。このため、景気が良いときのメリットは小さいですが、景気が悪いときに強さを発揮する住居系REITはディフェンシブ銘柄と言えるでしょう。
ただし、収益が季節に影響される側面があります。例えば、例年3月は入学や入社転勤によって引っ越しが重なります。従って礼金や更新料の一時的な収入が増えます。REITは基本的に6カ月毎の決算のため3月を含む決算期の収入が増える傾向にあります。
<投資のポイント>
住居系銘柄を見るときは、ポートフォリオがどれだけ分散しているか、稼働率が極端に低い物件が含まれていないかを見ることが重要です。また築年数が経過していると、競争力が低下し稼働率が低下する要因につながりますので、築年数をチェックすることも手掛かりになるでしょう。同じような物件が多く入退去の回転も早いため、いったん競争力が低下すると回復することは難しいです。従って日々の建物管理によって資産の価値を維持向上を図るプロパティーマネジメント会社の果たす役割が非常に重要となります。
次回は「商業施設」の投資価値・収益特性について解説します。
藤浪容子【ふじなみようこ】
アイビー総研株式会社
経歴:
不動産会社にて不動産の賃貸・管理業務を担当。その後不動産証券化に関する情報サイトを立ち上げ、REIT創設時よりREITの記事執筆及び 分析を行う。
2007年アイビー総研株式会社設立に参画し、不動産投資ポータル「JAPAN-REIT.COM」の設立・運営を担当。
保有資格:
不動産証券化協会認定マスター
活動歴:
月刊プロパティマネジメント(綜合ユニコム刊)にて「J-REIT MONTHLY DATA FILE」連載。
