東急(9005) 東急田園都市線の混雑は「分社化」で解消するか(上)(下)
東京急行電鉄は9月2日、社名から「電鉄」を外し「東急」に変更した。鉄道事業は10月に分社化し「東急電鉄」として、事業を継続する。ホテルや百貨店などの事業はもともと分社化しており、新生・東急に残る主要事業は不動産のみ。つまり東急は、10月以降は不動産事業を行う事業持ち株会社としてグループ各社の経営を統括することになる。
東急の高橋和夫社長は2日の記者会見で「鉄道が中核事業であることは変わらない」としたうえで、東急不動産ホールディングスとの関係についても「急に変化が起きることはない」と話し、社名変更によって東急グループの経営構造は大きく変わらないと強調した。
■分社化する鉄道の今後は?
気になるのは、鉄道事業の今後だ。昨年9月の鉄道事業分社化の発表時に、東急の藤原裕久常務は、分社化する理由について「事業環境を取り巻く環境の変化へいっそうのスピード感を持って対応するため」と語っていた。分社化によって経営の意思決定を今までよりもスピーディーに行いたいという狙いがある。
首都圏のビジネスパーソンにとって、通勤路線の混雑度は気になるところだ。とりわけ、東急田園都市線は混雑する路線として悪名高い。
今年7月に国土交通省が発表した田園都市線の混雑率は182%。オフピーク通勤運動、大井町線へのシフト、定員数の多い新型車両の投入など、ソフト・ハード両面での努力が奏功して前年の185%から3ポイント低下したが、それでも首都圏の大手私鉄の中では東京メトロ東西線に次ぐワースト2位であることには変わりない。
通勤人口が減れば混雑率も下がる。この点については東急の沿線開発戦略が大きく影響してくる。
東急は社名変更と同時に「長期経営構想」を策定した。2030年に向けての経営スタンスと、さらにその先の2050年の未来像を描いたものだ。この長期経営構想を読み解くことで、今後の混雑率の動向が予測できる。
日本の人口はすでに減少に転じているが、長期経営構想では東急沿線17市区の人口は2035年ごろまで増え続けると想定している。同時に、田園都市線・溝の口―中央林間間を中心とする多摩田園都市(町田市、緑区、青葉区、都筑区、高津区、宮前区、大和市の7市区)の老齢人口(65歳以上)は、2015年の21%から2045年には35%へ上昇すると予想している。この老齢人口の増加ペースは同期間における東京都の増加ペース(22%から30%へ)よりも急ピッチだ。
■就業人口の減少は進む
このデータの出所は国立社会保障・人口問題研究所(2018年推計)。そこで同じデータを用いて、多摩田園都市の今後の就業人口(15~64歳)の変化を調べてみた。その結果は2015年から2030年にかけて4.2%減るというものだった。一方で同時期の東京都の就業人口は0.6%増えると試算されており、減少期に入るのは2045年にかけてだ。多摩田園都市の就業人口の減少ペースは東京都よりも明らかに速い。では、東急は多摩田園都市の就業人口を増やす施策を行うのだろうか
長期構想では渋谷を長期的にも最重要拠点であるとしている。また、横浜・新横浜周辺や五反田・目黒・大井町エリアでは再開発の可能性に言及しており、「沿線重点エリア」という位置づけである。
だが、多摩田園都市はどうかというと、「各事業の基盤地域であり、東急の街づくりのDNA」という位置づけだ。
多摩田園都市では、MaaSなどの新しい交通サービスに取り組んでいくことで、ほかの地域よりも早く進む高齢化という課題に対応していくが、「南町田(グランベリーパーク)に匹敵する大型の再開発計画はもうない」と高橋社長は話す。町田市など沿線の自治体は住み替えによる若年人口の維持に取り組むが、多数のファミリー世帯の移住につながるような大型の再開発計画でもない限り、就業人口の減少という流れを食い止めるのは難しいだろう。
2030年にかけての就業人口4.2%減とは、田園都市線の混雑率にどの程度のインパクトをもたらすだろうか。単純に掛け算してみると、混雑率は182%から174%へと低下することになる。中央林間から溝の口にかけての混雑率は、ゆっくりと下がることになりそうだ。
渋谷―二子玉川間は、東急側も「人口増加率が高く、クリエーティブ層が集積する」としており、実際、現在もマンション建設が進む。同区間の利用者はさらに増える可能性もあり、混雑率を算出する池尻大橋―渋谷間は、相変わらず混雑した状態が続くかもしれない。
■分社化で混雑対策も加速を
東急は田園都市線の混雑解消策として、渋谷駅ホームの増設による運行本数拡大の検討を始めている。高橋社長は1年前に「当社だけでできる話ではない。地域と協力して進めることが必要だし、多額の費用もかかるのですべて自前ではできない」と語っており、実現に向けて越えるハードルは多い。抜本的な解決にはこうした大がかりな対策が必要だ。
長期経営構想では2050年の未来として「世界が憧れる街づくり」を実現するとしている。満員電車の通勤を世界が憧れるとは到底思えない。長期経営構想には「安全・安心・混雑緩和などの快適性を追求する」という方針が記載されている。しかし、その具体的な方法については言及されていない。分社化により、スピーディーに経営ができるようになった東急電鉄には混雑緩和策にも果敢に取り組んでもらいたい。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2019.03 1,157,440 81,971 81,907 57,824 95.1 20
連本2020.03予 1,198,900 83,000 82,800 58,000 95.4 21
連本2021.03予 1,230,000 85,000 84,800 59,200 97.4 21-22
連中2018.09 572,099 44,819 45,164 33,276 54.8 10
連中2019.09予 592,000 47,000 47,000 33,700 55.4 10
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