つげ善治の漫画に出て来そうな鍼灸マッサージ店。


遠方の試合に参加する予定のあるチームメイトが、試合会場で会う人にお土産を渡すつもりらしい。日本各地から選手が集まる大会だそうで、前回北海道やら宮城やらから来た人達にお土産を頂いてしまったから今回は何かお返しをしないといけないそうだ。多忙の合間に買いに行かないといけないのが面倒だ、と言う。


とてもわかる。いや、わからない。


私は小学校の時のバレンタインデーを思い出した。光栄な事に、私にチョコレートをくれた女子が唯一人あったのである。学校で貰ったチョコを持って帰宅した私に、母は「ホワイトデーには何かお返ししなくちゃいけないね」と言った。生来ケチな性分の私は「嫌だ、お返しなんてしたくない」と答えた。面倒だ、とか、お返し目当てでくれてる訳じゃないんだからそんな事しなくて良いんだ、とも言ったかも知れない。勝手にくれたものだし、と。そんな私を、返礼をしない者に贈り物を貰う資格は無い!と叱った母の教育意図は、息子が健全な社会生活を送れるよう願い指導する親として、マトモだったと思う。"意図"は。


しかし、息子は生来ケチなだけでなく、頑固な性分でもあった。彼は翌日、学校でそのチョコを彼女に返却したのである。お返しをしたくないので要りません、と申し添えて。帰宅してその報告を聞いた母は結構な剣幕で怒っていたように思うが、何と言っていたかは憶えていない。少年にしてみれば、自分の行為は"返礼をせぬなら貰うべからず"という前日の母の言葉と矛盾してはおらず、怒られる筋合いは無いのである。言った事は言った事以上ではないし言っていない事で怒るべきでもなかろう。言いたい事は分からんでもないが、忖度してやる事でもない。


憶えているのは更に翌日、下校時にそのチョコが私のランドセルに「お返しはいらないよ」と書かれたカードと共に再び入っていた事だ。


ほら見たことか、お返し要らないって言ってるじゃん!と思った気もするし流石に彼女の優しさに心打たれた気もする、その両方かも知れないがともかく、最終的にはクッキーを買ってホワイトデーに彼女に渡し、喜んで貰えたし、その後も仲は良好だった。しかし、チョコを返却してそのまま返礼を免れてもべつに良かったという事も全然ありえなくはない。


母の教育は活きている。素直な息子は、他人に何かを贈る時、それが物品であれ行為であれ、その後に充分な返礼が為されているかどうかにたいそう敏感な人間に育った。お母さん言ってたもん。お返ししないなら贈物を貰う資格無いって。という具合である。......というのは嘘で、単にケチな性分がそのまま残っているのが実情だろう。どちらにせよ三つ子のソウルは百まで。


エスカレーターで自分の前に立った人の鞄が開いていたら教えて差し上げる。マフラーを落とした人があれば進行方向が自分と逆であっても追い掛けて届けて差し上げる。靴紐ほどけてますよ、と声を掛ける事だってある。道を訊かれたら分かる範囲で教えもする。面倒ではないからだ。結構親切な方なのでは?とすら思う。しかしやはり人生を総合的に見て、自分がかけた労力以上の報酬が得られているか、という事はいつも心の何処かで考えている。


顔も頭も性格も大して良くないくせにちょっとサッカーがうまくてキャラが目立つだけで十進法にして二桁に及ぶ数のチョコレートをバレンタインデーに貰っていた同級生達が報酬に見合う労力を費していたようには(私の基準では)思えなかったので彼等には今頃ありとあらゆる不遇に見舞われていてもらいたいものだが、多分そうもなっていないであろう事がこの上なく憤ろしい。格差とは、下方の立場からすれば何とも許し難いものである。


話が逸れた。


なので、うっかり私の親切等受けてしまった向きは、私に嫌われたくなければ出来る限りの返礼を尽くすよう注意されたい。只ならぬ好意を持って欲しいような相手(往々にしてこちらが只ならぬ好意を向けている相手)であれば、返礼が無くとも、私はその人にとってその程度の存在なのかと悲しくなりながらも尽くし続けるだろう。いつもたらされるとも知れない好意の返礼を夢見て。私はそうする事は吝かでない。I'm not yabusaka. しかしそのような相手でなければ投資対効果の薄い奴と見做し今後の交際を...と言うまでもなく、そもそも私になど嫌われても構わぬ向きが多かろうか。それもまた悲しいが仕方無い。


ケチな私だけでなく、頑固な私もまた生きている。冒頭のチームメイトの話に戻ると、お土産をくれた相手に何かお返しをせねば、という発想は私には無い。頼んでもいない親切を受けたとて返礼は自分の気分や相手から見込める利益次第でその都度決める。義理に従って自動的に面倒を被る事が確定するなんて御免だ。"義理って何?んなもん打算ぶっかけ火つけちまえ!"と言ったらシミラボに怒られるだろうか(怒られないと思うw)


価値観や発想の違いにより、怠惰でありながら義理堅い件のチームメイトには「面倒なら何もしなければ良い」という一言が通じなかった時点でその後数分の間はアーふーん大変だねーと上の空で相槌を打つ事しか出来なくなってしまった。


尚、見知らぬ人への親切な声掛けは、チームメイトは一切しないそうである。冷たい奴だな!略して冷奴!今からお前の名前は冷奴だ、いいかい、冷奴だよ!と私の心の中の湯婆婆が言っている。冷奴に「俺はエスカレーターで前の人の鞄が開いてたら教えてあげるよ。その中に自分のゴミ入れてからなwなんつってw」と冗談めかして言った所「お前マジでやりかねないからな......」と蔑んだ目で見られてしまった。豆腐のくせに。随分と品性に信用が無いものである。



写真は、今年のバレンタインに自分で買った久米仙チョコレート。買うしかなかった。素通り出来る訳がなかった。


冷奴のような、、とは言わないが滑らかな食感と豊かなカカオの風味、優しい甘味、かすかに香る泡盛の組合せは最高であった。まさい!まさいどーー!!


チョコを二桁貰うようなやつには絶対に食って欲しくない。おまえらにそんな資格はありません!お母さん言ってたもん!


Spank Happy(正確には菊地成孔feat.岩澤瞳)の"普通の恋"という曲の歌詞にもチョコレートが出て来ますね。好きな曲です。


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4/23()菊地成孔song-XX

@名古屋Blue Note


5/28() Septeto Bunga Tropis

@荻窪Rooster