
うがみやびらん。
私には、一人の尊敬する仲間がいます。時にはダブルスで組み、時には団体戦で応援し合い、時にはシングルスのライバルとなるチームメイトです。
数多の勝利で以てチームを支え、仲間のみならず観衆も対戦相手も魅了し、時には笑わせすらするようなエンターテイニング・スタイルを持つ彼は今でこそ、こう、なんと言うか、体積に比して表面積の少な目な体型の関係もあってですね、私なんぞでも相手になるのですが、ジュニア時代はフィリピン三位とかなんとか、まあムチャクチャ上手いわけです。そんな奴がパートナーに私を指名してくれたりする事があるのは光栄極まりない。
しかしネットを挟めば勿論お互い倒す気百パーで対峙するわけで、奴はシングルスの練習の前には「前回負けたから今日は倒すからな!」とわざわざメッセージを寄越すお茶目な一面を見せてくれたりもするのですが。
この日ばかりは、格の違いを見せ付けられた。
彼とのスパーリングで私は接戦の末に2ゲーム落としてしまったんですね。試合本番だったら0-2で完敗、終了です。競っただけに悔しさ千万だった私に彼は予想外の追い討ちをカマしました。
「2ゲーム目は俺、トレーニングラケットでやってた」
何ですと。
普通のラケットは85-90gくらいなんですが、トレーニングラケットは筋力増強の為にわざと重く作られてる練習用の得物でして、その重さ150g. ゲーム形式の練習での使用を想定しているとは思えない。ていうか素振り用ですよ。

試しに借りて暫くラリー練習してみたら、手先が数十グラム重いだけのはずなのに体幹から揺らいで一瞬で全身が疲れるわけ。何だこれ。あいつ2ゲーム目も殆どパフォーマンス変わんなかったじゃないか。
「ちょっと重かったね…でもやってると慣れちゃうね!」
だって。正気の沙汰じゃない。なんちゅう体幹。なんちゅう筋肉量。あの体には夢と脂肪…もとい、夢と希望が詰まってるだけではなかった!スタミナ多少落ちても強い訳だ…簡単に勝てる相手じゃないわ…
意地張ってトレラケ練習をこなし、心身が疲労した所でもう2ゲームのスパーリングをやってやっとこさその日の戦績をドローに持ち込んだは良いものの、落ち込むやら決意を新たにするやら複雑な気持ちで、帰ったら今日のスパーリングの記録動画見てあいつの動き研究しよう…なんて考えながら帰路に就きました。
彼とも一緒だったから、トレーニングラケットの事含めいろんな話しながら歩いてまして「あれ使ってもパフォーマンス全然変わらんのは凄いわ」「折角だから一番重いの買ったんだ」なんて会話も交わしたのです。流石だ。彼への尊敬の念が強まる。
しかし私が彼の底力を知るのはこの後なのでした。
帰宅してみると、彼から
「髙井さん、今日撮った動画を観たら笑うよ」
とメッセージが入ってたのです。ははーんあいつまたやりやがったな。いつの間にかヒトの動画に自分の顔のクローズアップ写り込ませてピースして視界塞ぐやつ。そういうオフザケが好きなやつなのです。
動画を再生するとしかし、そんな場面は見当たらず。なんか変なやりとりあったっけ?彼の娘さんがはしゃいでんのが写ってるのかな?等思索を巡らせるも、そこには至って真面目に練習する二人が写っているだけでした。
そして動画が2ゲーム目に差し掛かった所で私は本当に彼があの黒紫のトレーニングラケットを使ってるのか、伝説を目の当たりにせんと注視すると…
『ラケットは今日も、白かった』
やられた。トレーニングラケットどころかお気に入りのベストラケットじゃねえか。
メッセージを再び確認すると
「気付いた?」
ってアンニャローーー
「髙井さん相手にトレーニングラケット使える訳ないじゃん!あはははは」
ってコンニャローーー
悶えと感嘆を返せ。
人が注意を向けてなかった部分の情報というのは、目に入っていても全然記憶されない。例えばこの動画と同じ原理ですね。元スリが、聴衆の注意を自在に操る技を見せてくれます。
https://youtube.com/watch?v=QSjD5gOIys4
人間の注意がどうしても相手の体やラケットの動きに惹きつけられ、従ってその分羽根から散逸するのを利用して、体やラケットの向きと違う方向に羽根を飛ばすのが所謂フェイントとかデセプションとかいう技なわけですが、彼はそういうのが得意です。私は彼の数時間掛かりのフェイントに引っ掛かってしまった訳ですね。
やられたわ。かなわんわ。やっぱり君がナンバーワンだよ。
彼は来年初頭、再びフィリピンへと旅立ちます。残りの時間、彼と目一杯楽しもうと思います。
取り敢えずトレーニングラケット買ってトレーニングラケットで倒してやる。
人を信じ易い素直な私が奏でる、素直な音色をご堪能頂けるのが、下記のライブです。ソリストに注意が行きがちだけど、他の奏者がその裏でコッソリ粋な事やってるかもよ?いろんな所に注意を向けてみたら楽しいかも知れません。
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【7/27(木)Mental Urbanity vol.3 "Almost Like Being In Jazz"】
@荻窪Rooster North Side
19:00open/20:00 start
¥2500
髙井汐人sax/中嶋錠二pf/永見寿久b/田中教順d
半分アルト、半分テナーの予定です。アコースティック編成に合う過去の名曲を選んで演奏します。
