冬、特有の肌を突き刺すような空気に身を縮めながら
俺は夕暮れ時の都会の喧騒の中にいた。
所用を済まし、手頃な店を見つけ
空腹を満たしてから帰路に着くのも悪くない。
左手に付けた腕時計に一度、目をやり
1軒ひっかけるくらいの時間は十分にある事を確認した俺は歩みを緩め、品定めをするように辺りを見渡した。
日常生活では訪れる機会の少ない土地に、幾分か気持ちの高揚がなかったといえば嘘になる。
繁華街には人が溢れ、飲食店や娯楽施設が活気に満ちていた。
キャッチや呼び込みもフィーディングタイムと言わんばかりの活性の高さを見せ、繁華街に一層の活気を灯していた
手頃なラーメン屋か……、あるいは串カツも……
などと、思案していると不意に肩を叩かれる。
肩を叩いた主を捉えるべく、振り替えると
そこには白髪の翁(じじぃ)が佇んでいた
体を小刻みに震わし、少し目線の高い俺に合わせるように翁は見上げ
粛々と質問を投げ掛けて来た
翁『はんきゅ…ハァ…うめだ…ぇき…は…ハァ…どっち…ハァ…ですか?』
にゃ「いや、満身創痍の化身!!」
歩く度にHP減る沼歩いてんのか!!
在宅療養レベルやぞ、おい。
ここでふと、思案する
このジジィ、道を説明しても理解できんやろし
案内してやらな、迷い散らかした挙げ句ノタレ死ぬの定期。
大学時代サッカー部 唯一の良心と謳われた、にゃん助にとって見捨てる選択は万に一つも無かった。
ということで
未開の地での晩餐は諦め、白髪の翁を阪急梅田駅まで導くことにしたにゃん助であったが
翁と並び歩くにあたって、何か手頃な話題でもと白髪の翁に質問をいくつか投げかけた
にゃ「今日は梅田に何しにきはったんすか?」
翁『仕事ですねん、警備員の仕事を。』
にゃ「警備員言うたら寒いなか1日外仕事で大変でっしゃろ。」
翁『そうでんねん。普段は違う現場で警備してんのやけど、なんや、コッチがごっつ忙しいみたいでな。猫の手も借りたいゆー事でやって来たわけでんねん。』
にゃ「いや、猫の手過ぎる!!」
こんな死にかけのジジィに警備させるて!!
【猫の手も借りたい】の比喩じゃないヤツ初めてやわ!!
その後、阪急梅田駅に到着するまでの10分程の間
にゃん助と白髪の翁は互いに言葉を交わし合った
年の差あれど、理解し合おうとする気持ちがあれば短時間でも言葉を視線を表情を通して心を通わせる事ができる。
現代人に最も必要なツールをこの翁は持っていた。
それは温かい一時だった。
そして別れの時。
阪急の三番街付近で、ここからは道がわかると言うことでお役目御免となり見送る俺に
白髪の翁は軽い会釈の後、笑顔で一言
翁『ほな、気を付けて帰れよ』
にゃ「いや、コッチのセリフ!」
プルプル満身創痍ジジィが何イチビったこと言うとんねん!!
なんやったらスタートライン立っただけやからな!?お前の場合!!
そう、ツッコむ
俺を含む、三番街のまわりにいた総勢50は下らぬ大阪人たちを見て
白髪の翁は今日一番の笑い声で人混みに溶けて行ったのであった。
やれやれ
最後まで俺はあのジジィの手のひらの上だったてぇことか……
間違って、天国行きに乗っちまわねぇようにな……
ジジィ……
~fin~
ジェッッ!!!!!