私の車の前をペウゲオットが走る。 PEUGEOT

ペウゲオットと別れ、私は妄想理髪店に車を止める。

時のはざま前線が通過したらしく、昨日まで何とも思っていなかった髪が急に伸びて、切らずにおれないほどになっている。

 

また若い子が鋏を持ってくる。

人妻理容師が私の脳に直接話しかけてくる。ごめんなさい、私が切りたいけれど、私この子の担当なのよ、この子に練習させなきゃいけないの。

仕方がないよ。私は眼を閉じて練習台になる。若い男の理容師は鋏を引くときに髪をひっぱって痛いが我慢する。

目を閉じてはいるが、私の後ろを何度も往復する人妻理容師を感じている。胸が幾何学的に揺れているのがわかる。

顔剃りされるときの優しい手の感触で、ここで人妻理容師に交代したのかと思い目を開けると、近い距離で男の理容師と目を合わせてしまい、あわててまた目を閉じる。この感覚は前の車がダイハツのキャンバスであるときに運転者は女性だと思い込んで勝手に恋をしてしまうが、あとでおっさんだと知って無性に悔しい思いをしたときに似ている。だから、シャンプーの時も人妻と代わったなどと期待するのはやめる。

若い男はなぜだかシャンプーだけはうまいので、今日はこの子の夢を見るしかない。

 

小さい箒で私の体を掃く男。窓拭いときましょうか?と聞いて、走って駐車場に行き、私の車の窓を拭いてくれる。