黒い上下のスーツ、黒い高そうな革靴。そのくせ靴下はゆるキャラのしかまろくん。せんとくんではないのか。

 

黒いサングラスのフレームの形は各人によって異なる。

私は拉致され、パイプ椅子に縛られた。

とは言っても彼らは一応紳士的で、私が捕まるときにやりかけていた耳掃除のつづきをしてくれる。

「あなたに辿り着くまでに、こんなに時間がかかってしまいましたよ」

と、耳掃除をしている欧米人風の男が英語で言った。

私は英語で答えられず。「HAHAN?」と言うばかり。多分「あっそ」という意味になるのではないか。

「奈良のことです。気づいてはいけませんでした」と未来銃をもった男。

「今までにも有史以来あなただけではなかった。何人かはいた。その度に私たちはこの仕事をしてきた」

私は当てずっぽうに万葉の歌人の名前を上げて探りを入れた。どこでどう主導権がとれるかわからない。

「大伴家持もそうか?」

英語では「AHAN? SHOHEI  OOTANI?」と言ったらしい。

彼らから動揺の色は隠せず、焦ったリーダー格の男が本題に入った。

「奈良を流れる川が海に注がれるには、周りの県境の山を越えなくてはならないことを、庶民は気づく必要はないのだ。認識さえなければ日本の古都の歴史のこのままでいられる。認識するな!記事を消せ!」

「誰も気づかなければ世の中はそのまま回っている?」

「そうだ。みんながそれ言い出したら、奈良盆地は水が溜まって巨大な鹿のバスルームになってしまう。我々はそれでもいいんだがな。日本の歴史は平安京から始めてもいいという学者もいるくらいだ。我が国よりも古い歴史がこの国にあるのも虫が好かない」

事態の深刻さにようやく気付く。

「そのこと、せんとくんは何と言っているのだ? (ハハン? ヌートバー イズ スパイスチョッパー?)」