サイレンは鳴り響くよ,いつまでも・・・・・ | 『しのゼミ』

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日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

うーーうーーうーーーーーー

ちょうど正午を知らせるサイレンが辺りに鳴り響く。

あ~もう12時か・・・・・

そろそろお昼ごはんかな。

サイレンを聞いてなのかどうか,家路に急ぐ小学生が,腰を浮かして自転車をこぎ始める。

農作業に精を出す近所のヒトも,腰を伸ばして一息つく。

自分の田舎では,物ごころついた時からの変わらぬ風景だ。



自分が通った小学校は,平野が終わって山中に入る手前にのんびりと位置していた。

ちょうど山麓に小学校が建っており,その2階の窓から見渡すと,30km先の街の建物までが一望できた。

お昼に鳴り響くサイレンは,その小学校の裏山から発しており,「サイレン山」と呼ばれていた。

おそらく,そのてっぺんにサイレンをかき鳴らす装置が置いてある筈・・・・・

しかし,その「装置」を見たものは,自分たちの周りには居なかった。

「サイレン山に行ったら,クマが出るそーやで」

「クマに出会ったら最後,どんなに早足で逃げても追いつかれるそーやで」

「サイレン山に登って,サイレンが鳴りだしたら,あまりの音の大きさに耳が悪くなるらしーで」

「以前に,サイレン山で自殺したヒトがおるらしいで」

そんな噂が,小さな子どもたちの冒険心を削ぐことに成功していた。



なぜかは忘れたが早めに下校となったとある日の午後。

通学路から外れて,山麓の用水路わきを,道草して帰る子供らが7~8人。

「サイレン山に登ってみよっか?」誰かが思いついて言いだした。

「う~~ん,どうする?」行ってみたいけど,ちょっと怖い。

「オレ,ちょっと用事があるねん」

「オレも帰るわ」

「オレも・・・」

二人,三人・・・と参加者は少なくなる。

結局残ったのは,言いだしっぺと中途半端な勇気をもった三人のみ。



ちょうど小学校裏からサイレン山に向かって,辛うじてヒトが通れるような登り道が一本あった。

そこを登れば,サイレン山に行けるハズ・・・・・

そうは分かっていても,行ってはいけない場所だと当然の如く思っていた。

「じゃあ行くで」

初めて踏み入る,ジグザグとしたきつい傾斜の山道。

途中で出会うヒトなど居ない。

いつしか道が分かりにくくなってきて,少し心細くなってくる。

3人居ればなんとかなるか・・・・・とにかく上へ上へと向かっていく。

しばらく登り続けると山稜に達する。

そこから尾根づたいに進むと,そこが「サイレン山」だった。



その頂には,刈り取られたのか樹は生えておらず,4本の柱を組んだ櫓だけが立っていた。

櫓の上には,少し大きめなスピーカーが設置されていた。

たったそれだけ。

それが「サイレン山」の正体だった。

そこから眺める下界のパノラマは素晴らしかった。

「よく見えるな・・・」

どこまでも広がる眺望は,少々登った程度では掴むこととて叶わないこの世界のデカさを感じさせた。

しかし,そんな登頂の余韻にいつまでも浸っている余裕はなかった。

こんなところに居ることが誰かに見つかれば,きっと大目玉を食らうだろう。

それに,いつサイレンが鳴りだすか分からない。

サイレンは正午だけでなく,火事やダムからの放水などの緊急を知らせる役目も担っている。

どこまでも鳴り響くあのサイレンを,こんな至近距離で聞いたとしたら,鼓膜が破れるかもしれん・・・・・

「さ,もう帰ろか」

誰かがそう言い出したのを幸いに,とっとと下山した。



そんなサイレン山からのサイレンが,今日も鳴り響く。

農作業従事者が少なくなり,時間を知るには腕時計を見れば事足りる時代なのかもしれん。

最早,サイレン山伝説など語られないし,ひょっとして近づく子供など居ない時代なのかもしれん。

が,サイレンは定時になるとサイレン山からどこまでも響いていく。

腹減った~~~