ホルマリン問題 | 『しのゼミ』

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

この3月から法改正があって,ホルマリンを使用する職場では,その管理や環境基準などが厳しくなる.

ホルマリンとは,少し前からいわゆる「シックハウス症候群」の原因物質として注目されてきた物質ホルムアルデヒドの水溶液のこと.

殺菌防腐作用などが知られており,病院では手術や生検をした組織を漬けて固定し腐らないようにする(いわゆる「ホルマリン漬け」)ために使われる.

病理に提出されてくる検体の多くが「ホルマリン固定」されてくるので,自然に病院内のホルマリンが集中する場所となる.

よって,病院病理はこの問題の該当部門であり,したがって無関心ではおれない.



法改正後には,職場におけるホルマリン許容濃度が0.1ppmとなる.

少し前に病理の部屋のホルマリン濃度を測ってもらったところ,おおむね基準値以下だったが,ホルマリン漬けした臓器保管室はちょうど0.1ppmとでた.

こりゃいかん・・・ということで,適切な対応が求められるのであるが・・・


まず,ちょっと文句を言っておくと・・・

ホルマリンには発がん性があるというのは,たとえ世界に冠たるIARCのデータをもとにしているといっても,ちょっとというかまったくナンセンスである.

自分も「毒性試験」に携わったことがあるのでわかるのだが,人間社会ではありえないような特殊環境(メチャメチャ高い濃度でホルマリンに長期間さらすなど)での動物実験の結果をもとにしているのであれば,たとえIARCの評価であろうとも発がん性をあまり強調すべきではない.

それに「ホルマリンは(現状の使い方という前提条件下では)発がん性が無視できる」ことは,すでに疫学的に実証されている.

なぜなら,これまでにず~~~っとホルマリンを使ってきて,病理関係者にがん発生率が多いなどの有意なデータはない.

そんなデータがあるのなら,自分自身病理なんてやっていない.

それから「0.1ppm」という数値基準が厳しすぎる.

この数値をいつどうやって測るのかあまり知らないが,病院でこれを厳格に守ろうとすると想像するにホルマリンが使えなくなってしまうんじゃなかろうか?.

たとえば医学生が行う「系統解剖」は,ホルマリン漬けにされた献体を解剖していくワケだが,今後はホルマリンが「危険」らしいので,医学生全員が「防毒マスク」装備の上に解剖を行う・・・という日がくるかもしれん.

まぁ病理の立場から見ると「この法律って・・・なんじゃらほい」なのであるが,あんまり言うと各方面から叱られそうだし,文句を言っててもしょうがないので,いかに対策を打つかということになる.



で,わが西日本大病理部でもこのホルマリン問題の対策を模索中である.

朝の全員ミーティングでもさっそく激論が交わされた.


K技師「ちょうどいい機会だから,仕事の仕方を見直して,ホルマリンがあまり出ないようにする“元を断つ”作戦をすべきと思いますが・・・」

主任さん「そうね・・・でも元をできるだけ断つと言っても,ホルマリンは使わざるを得ず,限界があるんじゃないの?それだったら,ホルマリン除去装置を病院に買ってもらったらいいんじゃない?」

K技師「出たものを除いても,元が対策してなかったらいかんでしょう・・・」

主任さん「元の対策よりも,やっぱり除去装置が大事だし,何より楽よね・・・」


・・・激論と言うよりは平行線と言ったほうがいいか・・・

自分としてはやはりピュアなにっぽん人ゆえ,どちらかと言えばK技師の「元を断つ」作戦に共感してしまう.

必要って言ってなんでもかんでも買ってもらえばいいっちゅうのもなぁ・・・

好きじゃないなぁ・・・


主任さん「どう思います?シノ先生?」

シノ「ん~・・・両方ともいいことだから両方ともやろうか・・・」


ここで一同から「さすがシノ先生の大岡裁き!」と感嘆の声が上がるかと思ったが・・・あるワケないか・・・