それは突然のことだった。
各都道府県から集まった猛者たちで構成された異色のチーム、‘鋭徒’。
一人一人が高い実力を誇り、地元で名を轟かせている者もいれば地元を離れ東京にある超有名ヤンキー女子高である馬路須加女学園通称マジ女にやって来る者もいる。
一時は髪の色を茶色に変え、そして黒髪に戻し髪型はショートカット、端正で中性的な顔立ちの少女もマジ女にやってきた鋭徒のメンバー。
少女が歩を進めやってきたのは東京にやってきた鋭徒のメンバーたちが集会として集まる廃れた地下ライブハウス。階段を降り、ギイっと鳴らしながらドアを開ける。
「あ、来た来た。つっちゃーん。」
そう言って手を上げ、つっちゃんと呼んだのはこの鋭徒を作った小栗有以。他には岡部麟、太田奈緒、小田えりな、山田菜々美がいた。
山田以外はマジ女では小栗派の一員として小栗と共にマジ女で勢力を広げている。
そんな小栗派の面々を見た後女は山田を見て少し驚いたように目を少し見開く。
「あれ、成美たちは?」
山田「あー‘なる’たちはあの激戦で一番動いてたから各自家で寝てるよ。私は一応充分寝たから来たんだけど。」
成美と呼ばれた女の名前は倉野尾成美。周りからは‘なる’と呼ばれている。山田はその倉野尾派の一員だ。
「山田はまじめだからね。まぁ改めてお疲れ様。」
山田「お疲れ‘つむぎ’。」
そう言って二人はフッと笑いながらハイタッチをする。女の名前は早坂つむぎ。マジ女ではどこのグループにも属しておらず、氷のようにクールに戦い、一人で数人を蹴散らせるほど実力が高い。
最初はまさに氷のように無表情で周囲にもチームのメンバーにも壁を作っていたが、次第にその壁は崩れ、氷のような表情もだんだん和らぎ、打ち解けていった。
特に倉野尾派の山田とは派閥関係なく親交が深い。
何故この場所に集まったかというとチーム鋭徒は少し特殊で、地元やマジ女ではチームの名前を使わない条件で好きに活動していいが、チームとして動くときは派閥関係なく力を合わせて他のチームと抗争を繰り広げていた。
全国制覇を目指そうとする大規模のレディースチームとの抗争を終え、その二日後の今日にここに集まったのだ。
小栗「いやぁ改めて思い出すと結構大変だったねぇ。」
小栗があの激戦を振り返る。周りのメンバーもうんうんと頷く。早坂はその様子を一歩引いた位置で見ている。
太田「やっぱなぁ、地元で動いてるメンバーとの情報収集が肝やったな。そんで地方で傘下のチーム潰していったのがまた総当たりで助かったとこやな。」
関西エリア出身の太田がそう言うと、また周りはうんうんと共感する。
早坂「……」
そんな思い出話に花を咲かせている時、山田は早坂の様子がどこかおかしいことに気づく。
山田「つむぎどうした?なんか浮かない顔してるけど。」
早坂は笑っていたつもりだったが、長く一緒にいる仲間にはその変化は見逃さなかったなと頭を掻く。
早坂「実は……」
その後の言葉が出て来ず、周りは首を傾げる。しかし早坂は閉じた口にグッと力を込めさせ、再び開かせる。
早坂「私、このチームを抜けることにした。」
その発言に今までの楽しいムードが一気に静まり返り、集まったメンバーたちもポカンと口を開ける。
親交が深い山田でさえその発言に言葉も出なかった。
早坂「あの抗争が終わって地元に戻ったメンバーには後で連絡するんだけど、ますここに集まったメンバーに最初に言っておきたかったんだ。
本当に急なことでごめん。」
そう言って謝る早坂。しかし、彼女の目には迷いがなかった。誰も言葉を発さない中、小田が最初に言葉を発する。
小田「え、な、なんでだよ…訳を聞かせてくれよ。」
戸惑いを隠せないまま、早坂にそう尋ねた。
、
早坂「みんなとあの抗争をを戦い抜いて、どこかこのチームにいることに満足した自分がいたんだ。
今までも一歩引いた感じでみんなを見てきた。こんなに楽しく笑って、真剣に互いに高め合って、仲間を大切にするみんなを見て、中に入って関わって、マジ女に入るまでの私の中で確かに何かが変わったんだ。
みんなが私を変えてくれた。変わったからこそ見えてくる景色がどんどん違くなってきて、だんだんそれに気を遣うようになってきて、このままだと次第にみんなに迷惑を掛けちゃうかなって思った。
本当に勝手なこと言って申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど、私は新しい道を進む。」
山田「え、それって…」
早坂の言葉に山田は嫌な予感を感じる。
早坂「マジ女もやめる。中退ってことになっちゃうけど、一旦地元に帰ってまた関東圏内に戻って来て新しい道を探すつもり。」
すると突然のことで悲しい気持ちになるがそれを押し殺しながら岡部が口を開く。
岡部「それっていつなんだ?」
早坂「来週には去るつもり。」
岡部「早いんだよ!このバカやろう!」
抑えきれず早坂へ向かって足早になる。だがすぐに太田がそれを止める。
太田「落ち着きぃや岡部!つむぎだって私らが悲しむのを覚悟した上なんなのを汲んでやるんや!」
しかし岡部は歯を食いしばりフーッ!フーッ!と唸りながら早坂を睨む。受け入れようとしてもそう簡単にはいかない。頭でわかってても気持ちが抑えきれない。
早坂も申し訳ない気持ちでいっぱいなのを表すかのように拳を強く握っていた。
その後何も言えず黙る全員だったが、小栗は目を閉じ再び開くと口を開く。
小栗「その気持ちに嘘はないんだな?偽りもない‘マジ’なんだな?」
いつもほんわかしてる雰囲気を出している小栗の目は真剣そのものだった。
早坂「…あぁ、‘マジ’だ。今の発言に私の覚悟、決意が入ってる。迷いも何もない。
みんなを嫌いになったわけじゃない。私はみんなと関わってきて、自分で新しい道を見つけることができた。いや、最初は興味本位だったけどこのチームに入った時から私にとっての新しい道だったんだ。
こんな私を、変えてくれて、本当にありがとう。」
そう言って早坂は頭を下げる。ここまで言われて周りは受け入れるしかなかった。言葉から伝わる早坂のマジを。
小栗「ちゃんと抜けるまでみんなに報告しろよ。それがお前が鋭徒としての最後のやることだ。」
早坂「わかった。じゃぁ私は一度帰るよ。またマジ女で。」
そう言って後ろを振り返り、足を進める。
山田「つむぎ!例えチーム抜けて、マジ女辞めても私達友達だからな!また一緒にどっか出かけよう!」
山田がその場から去ろうとする早坂にそう叫ぶ。
早坂「……こちらこそだよ。」
立ち止まるが振り向かず、そう呟くと再び歩き出す。
岡部「辞めてもいつでも遊びに来いよバカやろう!」
小田「またな早坂!」
太田「ちゃんと辞めるまで風邪引くんやないで!」
その場にいるメンバーが次々とそう早坂に激励を込めた言葉を投げかける。
早坂は立ち止まらなかったが嬉しさに笑みがこぼれる。
小栗「マジに生きろよ!」
小栗の声が聞こえた後、もう早坂は出入り口のドアの前だった。そして廃地下ライブハウスから出て階段を上り外へ出る。
早坂「最後にやること、報告以外にもまだあるんだよね。」
そう呟くと、近くの建物の壁に一人の女が背中を寄せ腕を組んで立っていた。
「終わったみたいだね。」
女は壁から背中を離すと早坂に歩み寄る。
早坂「うん、お待たせ‘栞’。」
女の名前は佐藤栞。チーム鋭徒のメンバーの一人で普段は地元新潟で動いているが、早坂に会うため東京に来たのだ。
早坂と栞はチームで活動する際、お互い一人で動くことが多い方だったのでどこか気が合い連絡を取ることも多かったので仲が深まった。
栞「いいの?みんなに黙って動いちゃって。たかだか残党狩りでしょ?」
早坂「私に最初に報告した栞が悪い。まぁ辞める前にみんなに激励代わりってヤツ。」
栞「私も残ってるメンバー何ですけど…」
頭を掻きながらそう言う栞。早坂はハハッと笑う。
早坂「別にいいじゃん。どうせ暇だったんでしょ?」
早坂の発言に図星だったのか栞は苦笑いをする。
栞「ま、つむぎの最後の喧嘩に参加できるのは光栄だけどね。先に言っておくと、辞めてからのこれから頑張れよ。」
早坂「ありがと。」
二人は話ながら残党がいる場所まで向かって行った。
早坂なりの最後の贈り物だった。残党狩りだがその残党の数は20人はいた。だが二人は向かって行った。
その時の早坂は氷の女にふさわしいクールで敵の戦意が冷え上がるほどの凄まじい立ち回りで栞と共に残党たちを蹴散らしていったという。
終。チーム8山形県代表早坂つむぎ卒業記念短編。つっちゃん、言うのが遅れたけど卒業おめでとうございます。