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中川さんの下記発言があったのは、筆者のメモによれば、2008年10月20日である。10月11日のワシントンG7出席から帰国して一週間後のことだ。

日経新聞は先日の9月29日付けで、当時の麻生太郎首相(現財務相)にリーマンショック時のことを聞き出している。それによれば、ブッシュ米大統領は日本時間の10月11日夜に麻生首相の秘書官の携帯に電話し、金融危機対策のためのサミットを開きたいと相談してきた。G8に中国、インドなどを入れたら、と麻生氏は助言した。そして11月14日から2日間、ワシントンで初の20カ国・地域(G20)サミットが開かれた。そのサミットで麻生首相は日本が1000億ドルを国際通貨基金(IMF)に緊急融資すると約束した。

10月20日の時点で中川さんは当然のように、麻生首相からブッシュの電話と金融危機対策サミットの開催の件は知っている。「日本はキャッシュディスペンサーにならない」とのホワイトハウス向けメッセージは、サミットが開かれても日本は米国に言われるまま気前よくカネを出すつもりはないという、激しい反発気分が籠められているわけである。

 米国に限らず、国際金融市場はしかし、世界最大の資金の出して、日本に強く期待していた。

 上記の日経記事によれば、10月下旬に来日した米投資アドバイザーのリチャード・メドレー氏が、元財務官の内海孚と財務省国際局長の玉木林太郎と会食した際に、「英国のブラウン首相や投資家のジョージ・ソロスが、IMFの資金基盤を強化できないか議論している」と伝えた。内海氏は「日本がまず動き、流れをつくるべきだ」。

 そこで玉木氏は東大同期で旧知の中川氏と話し合って1000億ドル融資提案が決まったようだ。

 この記事通りなら、やはり国際金融マフィアの代理人、メドレー氏が英首相、ヘッジファンドのソロス氏の意向に沿って日本に働き掛けたことになる。

 中川氏はどうか。

 上記の通り、中川氏の本音は現金自動支払機にならないぞ、だが、1000億ドルのIMF向け融資自体は「現金自動支払機」ではない、と思い直したのか。

 それとも、この1000億ドルは米国債購入など米金融市場そのものの救済ではない、IMFなら別だと割り切ったのか。

 本人が亡くなっている以上、確かめようがない。

 



【お金は知っている】「日本は現金自動支払機ではない」 ホワイトハウスに猛抗議した中川昭一氏をしのぶ

9.27 夕刊フジ



 2008年9月のリーマン・ショックから5年。当時、「日本は黙ったまま、世界のキャッシュ・ディスペンサー(現金自動支払機)になるつもりはない」と、ホワイトハウス向けに伝言した男がいる。中川昭一財務・金融担当相(当時)だ。



 中川さんはリーマン・ショックの直後、財務相に就任。同年10月10、11日両日、ワシントンを訪問、先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議などに出席した。



 10日昼には、ポールソン米財務長官と会談。長官はリーマンの余波で経営危機に見舞われた金融大手、モルガン・スタンレーの破綻阻止で頭がいっぱいだった。当初は中国の国家投資ファンド、中国投資有限責任公司(CIC)に救済出資を求めて交渉していたが、返事ははかばかしくない。



 そこで、ポールソン長官はブッシュ大統領に対して「大統領の方から直接、胡錦濤国家主席に電話して協力を要請することになるかもしれません」と打ち明けるほどの窮地だ。米大統領が中国共産党のボスに頭を下げるのは前代未聞、以降の対中外交上の力関係に響く。それでも計算高い、北京のこと、断られる可能性だってある。ワシントンにとって政治的リスクが極めて高い取引になる。



 中国に代わる「白馬の騎士」候補が三菱UFJフィナンシャル・グループだが、三菱側は渋る。ポールソン長官は、「中川さん、あなたから三菱に救済に応じるように話してくれませんか」と頼み込んだ。



 長官の回顧録によると、中川さんは「力添え」の明言を避けたが、「注視していく」と返事した。長官は「これ以上期待できないほどありがたい言葉だ」と安堵(あんど)した。実際にその後、三菱は救済出資に応じ、モルガンは生き残った。



 舞台は一転して、翌日の11日午前、中川さんはブッシュ大統領主催のホワイトハウスのローズ・ガーデンでのG7財務相歓迎式典に出席。そこに飛び込んできたのは、北朝鮮に対する米国の「テロ国家指定解除」という重大ニュースだった。



 中川さんはそれを耳にするや、ブッシュ大統領に走り寄った。「大統領、どうしてですか。日本人などの拉致問題をどうするのか」と詰め寄る。大統領は「あそこにいるコンディ(コンドリーザ・ライス国務長官)に聞いてくれ」と逃げ出した。



 中川さんは帰国の翌週、訪ねてきた米共和党の要人に向かって、口頭でホワイトハウスへの伝言を託した(筆者はこの場に居合わせた)。その内容が冒頭の言葉である。米国や世界のために資金面で貢献するのに、対北朝鮮制裁解除のように蚊帳の外に置かれる。そこで捨て身の覚悟で抗議した政治家は、他にいない。



 翌年の10月3日、中川さんは不覚の死を遂げた。その後、デフレは加速し、余剰マネーが外に向け以前に増す勢いで流れ出る。アベノミクスの「脱デフレ最優先」の看板も、来年4月の消費増税で色あせるだろう。ほくそ笑むのは、財務官僚と米欧国際金融資本か。(産経新聞特別記者・田村秀男)