泣き止み、風呂からあがった奴は、やはり獣の臭いがした。

「きみと一緒に行きたいと思ってる。」

唐突に奴は言った。

何となく予想はついていたから黙って頷いた。

「なんで急に、とか、聞かないの?」

「どうせ、大佐にフラれたからだ。」

拳が飛んできたので、言葉を切って避ける。

「危ない。」

「五月蝿い、無神経。」


憮然とした表情をして、俺の肩に頭を預けた。

手入れされた艶やかな髪が首から落ちてその白さが眩しい。

意識的に、目を逸らした。色っぽくて、困る。

「お前...頭..その..。」

「あ。ごめん。つい癖で。」

どんな癖だよ。本当に女みたいな奴だな。。。。。と思う。

「・・・・・俺、女豹と配合されたから、普通の男より男らしくないのかもしれない。」

「男だけどメス?」

「そんなかんじかな。」

なんとんも悲劇的な話である。強制同一性障害、という造語が俺の頭の中に浮かんで、消えた。

「俺はたった一体でライオンの一隊を皆殺しにした凶悪な雄虎だと。」

俺がそう言うと、奴は恨めしそうな顔で俺を見たが、すぐに真剣な顔になる。

「そんなことより。いつ、どうやって脱走するかだ。」

「いや、それよりも。お前の名前だ。」

奴は瞬きをした。・・・睫毛が長い。

口を開きかけて、ふ、と閉じた。

「自分から名乗るものだよ。」

俺は溜息を吐いた。

「覚えてない。記憶が無いんだ。」

ハッとしたような顔をした。この後、同情のまなざしを向けてくるのだろう。今まではいつもそうだった。

しかし、奴は寧ろ眉を寄せた。

「そう。じゃぁ、製造NO,は?もったいぶらないで。」

製造ナンバーは配合人間に付けられる番号で、失敗作にも番号は付けられているため、成功第一作目である俺の番号もケタが半端無い。

「・・・UG987529.」

ケタから考えると、猿や犬といった人外の実験も数に入れられているようだが、それにしても、これだけの数の命が今まで失われてきたということだ。この番号を言われる度、言う度、俺は気分が悪くなった。

「UG・・・。」

それを知ってか知らずか、奴はそう呟いた。そして、目を潤ませた。

「UGがなんだよ。」

「幼馴染がユージって言うんだ。懐かしくて..。っていうかきみ、彼に凄く似てる。」

UGからユージに話が飛躍した上に、俺の顎のラインをなでてくる。

「・・・ユージって呼んでも良いかな。」

なんとなくそういう方向に話がいくと予想していたから、別に驚かなかった。

「ユージ、ねぇ。」

奴は不安げというか若干申し訳なさそうな顔をしていた。

「あ、いや...やっぱりいいよ。・・・失礼だよな。」

「別に。お前の大切な人なんだろ。名無しの化け物の俺には勿体無いくらいだ。」

大して考えもせず、言った言葉だったが、奴は少しムッとした。

「そういう風に言わないで欲しい。きみが良ければ、そう呼ばせてくれないかな。きみが配合実験を受けた日に彼は死んだんだ。」

別に悲観している様子は無かったが。その“ユージ”を懐かしむ様子も愛しむ様子も無く、ただ淡々としていた。

どうやら、奴は俺とユージを重ねているらしい。そして、恐らく、ユージとの死別が、奴が自ら配合実験を受ける動機になったらしい。大事な友人を失った後、優しくしてくれた大佐に靡くのも無理は無いだろう。

・・・やっぱり、相当哀れだ。

「・・俺はそれで良いよ。俺はユージ。次からそう名乗る。」

深い緑色の目が和んだ。

「俺のことはリョウって呼んで欲しいな。製造番号はUH000112。きみの弟だ。」

手が差し出されたから、軽く握った。

柔らかい手だった。

やっぱり女みたいだなと思った。