アメリカというのは本当に厄介な国だ。もちろん僕は日本国民だし、父母双方から純粋な日本の血を受け継いで産まれたわけだし、お酒だって飲む。
僕はアルコールが大好きというわけではない。でも、バイト終わりとかに一人で飲むビールはやっぱり美味しいなと心から思うし、友だち何人かで酔っ払って、アツい言葉を交わすのも結構好きだ。
それに僕は飲みたての頃に比べれば、幾分か強くなった。今まで一度も記憶を無くしたこともなければ、吐いたこともないというのが僕の一つの誇りである。酔い方のマナーにはとても自信があるのだ。だけれど、お酒ビギナーの僕ときたら、大分面倒臭いものがあった。ほとんどのケースにおいて、3%の缶一杯で酔っ払って寝転んでしまっていたのだ。とんでもないやつである。そんなやつが飲み会にいたら正直「何しにきたんだ?」というレベルだ。「乾杯!」という掛け声の20分後くらいには寝転んでいるのだから。まだテーブルにはシーザーサラダくらいしか届いてないんじゃないか?
とにかく、当時の僕は本当にそういう意味でひどいやつだった。友達に聞けばわかる。
だけれど、人間は成長する生き物だ。アルコール耐性についても同様に。今となっては、僕はむしろ平均より強いくらいなんじゃないかと自負している。嘘だろう?と思うが、同じ量を飲んでも明らかに僕の方の様子の方が良好なのだ。相変わらず顔は誰よりも先に赤くなるのだけれど、それでも、もう人前でダウンすることは全く無くなった。
それはアメリカに来てから顕著に表れた。アメリカのお酒は日本のお酒よりアルコールが強めである。ビールも7パーセントくらいが主流だろうか。日本ではビールくらいしかお酒を知らなかった僕はこっちで平気でウォッカやらラムを飲む。もちろんスプライトかなんかで割るのだけれど。
というわけであの日も久々にみんなで飲み会でもしようかということで、お酒を買いに行ったのだった。行き先はウォルマートだ。天下のウォルマートだ。大型スーパーだ。アメリカでは結構バンバンCMが流れてるくらいに有名なスーパーだ。なんてったって安いからだ。それでも同時に悪名高いのもウォルマートのウリである。ウォルマートは好かれてもいるが、結構な度合いで嫌われてもいる。まあ、マクドナルドを嫌う理由と似たようなものだろう。客層が相当に悪いのと、労働条件が酷いことが挙げられる。
客層はたしかに悪い。20人に1人は、半ケツの客が歩いている。お尻の割れ目の5割を露出する。オフストリップとはなんと贅沢な、、、。とはならない大きさのお尻なのだが。それと、食料品の袋が開いてることも日常茶飯事だ。これ買おうと思って手に取っても開封済みなのだ。ひどい。また、全然関係ない棚に、オラフのぬいぐるみが急に顔出すこともあるからやっぱり笑っちゃう。わりに無法地帯である。
労働条件については結構男尊女卑とか、人種差別みたいなことが多いらしい。僕のホストマザーが言ってた。女の人は、幹部にあがりにくいそうだ。つまるところ、ウォルマートは内からも外からもヤバイのである。もちろん、僕はウォルマートと1年間しかお付き合いをしないから、あんなに安価で色んなものを買える分には、十分嬉しい存在なのだけれど。
とりわけ、僕はあの日に、ある種ウォルマートの犠牲にあったのである。
僕はウォルマートに入って、お酒のコーナーに行った。そしてジャックダニエルを手にして、会計に向かった。その途中、日本人の友達に偶然出会ったのだ。同じ国籍の人間と、アメリカの地で偶然出会うというのは結構嬉しいものだ。僕は挨拶をし、ちょうど彼女も会計をするところだからということで、一緒の列に並んだ。このチョコレート美味しそうだね、みたいなたわいの無い会話をしながら並んでいて、僕の順番が来た。お酒を買うので、年齢確認できるものを見せる。オーケー、アメリカは日本のように簡単にいかないことくらいハロウィンで学んだ。この国は相当に未成年飲酒に厳しいのだ。日本にいて罪悪感を覚えるほどに。というわけで、22歳のぼくは何事もなくお酒を購入できるはずだったのだが、店員の口からなんとも信じがたい一言が飛び出す。「一緒にいるその子もIDみせてくれないとダメだよ」と行ったのだ。「ファッ!?」どういうことだ!?まだ彼女は品物を彼女のカゴに入れてるから、明らかに僕たちは会計が別だし、何しろ僕は彼女と偶然ここで出会ったわけだし、もとよりなにより、僕が会計をするんじゃないか。そして、どうして僕がこんなに焦ったかといえば、偶然にウォルマートで出会った友達は未成年だったからだ。よって彼女のIDを見せることはできない。そして僕は店員にこう言った。「She is not my friend」。
店員は首を振る。見せなきゃダメだよ、売れないんだと首を振る。僕は、いやいや、と会計は別だし、彼女と僕は偶然出会ったのだ、と主張したが、まったく話を聞いてくれなかった。僕が買うはずだったジャックダニエルを取り上げ、ハイ次、と僕を押しのけた。あ~あ~、これはひどい。彼女は責任を感じて謝ってくれたが、僕たちの何が悪いのだろう?現に彼女はアメリカでは未成年だとしても、20歳じゃないか!
僕は怒って、この国はなんてダメなんだと手ぶらでウォルマートを出た。そして彼女と別れて、僕は別のスーパーを探した。どうしてもウイスキーが必要だったのだ。そこで、夜12時まで営業してる店を思い出し、そこまで、別の友達の車で向かった。おめあてのジャックダニエルは無かったが、似たようなウイスキーがあった。
僕と友達はどちらもしっかり成年なので、先ほどのような事は今度は起こらず、全てが順調かのように見えた。店員さんは、ウイスキーをビニール袋に入れてくれて、僕は代金を払った。「ついにだ」と僕は友達と話しながらウイスキーを手に提げながら店を出た。そして友達の車のところまで向かうのだが、そこには、階段一つほどの段差があり、もちろん僕は、一段降りたのだが、その瞬間、ウイスキーがビニール袋の底を突き破り、コンクリートに叩きつけられ、僕たちの汗と涙の結晶をぶちまけながら地面を転がり始めたのだ。僕は一瞬何が何だかわからなかった。ただ、僕はウイスキーの入ったビニール袋を手に提げて、階段一段降りただけなのだ。たったそれだけの重力でビニール袋を突き破るだと?僕たちが店を出たわずか1分後の出来事である。
友達はその光景をみて、頭を抱えながら、「Ohhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!! Shittttttttt!!!!」と叫んだ。さすが外国人である。僕も、目の前をウイスキーをぶちまけながら、転がっていくウイスキーのあまりの画の強さに、腹がよじれるくらい笑い転げた。はっきり言って、この状況は面白すぎた。たしかに誰の目からみても、残念な状況であるのは間違いないが、この場合は残念さより面白さが勝った。そしてさらに、友達が「抗議に行くぞ。これはあいつらのファッキンビニール袋のせいだろ!」と息巻いて、僕たちは、この有様を店員に抗議するために、割れたガラスと、破れたビニール袋を集めた。そして僕はそのときに親指を激しく切った。不思議と痛みは無かったが、血はとても出た。僕たちは、亡骸を持って、店員に抗議しに行った。店員はアイムソーリーとは言ったが、「店の外で起きたことは何もできないんだ」と言うことだった。ヒドい。そして、僕はあたかもその瞬間に自分の手が切れていることに気づいたかのように、「オオオオオゥ、メーン、、、オオオオゥ」とハリウッド顔負けの演技を見せたが、もちろん無駄に終わった。
店員は「買い直すかい?」と尋ねたが、血だらけの客に向かってよくそんな残酷なことが言えるなと心の中で思いながら、「いやいいわ」と僕たちは言った。
僕たちは、久々に飲み会ができると息巻いていたから、今日の悪夢のような出来事の連続に絶望すると同時に、このアメリカという国にうんざりした。
あまり、自慢のようにいうものじゃないが、お酒に関しては、日本ほど緩い国は無いと思う。年齢確認なんか、よほど見た目がちびまる子ちゃんみたいでもなければ、平気で居酒屋に入れるし、外でお酒だって飲める。アメリカでは、野外で飲み歩くことはご法度だ。ほとんどの子供が、小学生ぐらいの頃に、親の影響で軽く一口くらいはお酒を飲んだことはあるし、その話を小学校の先生が話題にするなんて奇妙な出来事が平気で起きる。
こりゃあ、たまらん。この違いはたまらん。
もうその時間に開いているお店は一つもなかった。僕たちは静かに二人でジンジャーエールを飲んだ。そして、僕たちはウイスキーを買うべきじゃなかったのだ。これは間違いなく、運命だったのだ、という言葉で締めて、僕たちはそれぞれの家路についたのだった。
