札幌市南区 2万1000世帯に避難勧告
9月11日 3時28分

札幌市は土砂災害の危険が高まっているとして、札幌市南区の芸術の森と、石山、
藤野、それに簾舞の合わせて4つの地域の2万1000世帯4万5000人を対象に
避難勧告を出しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140911/j66149210000.html



これは僕の故郷の話だ。
まさか、自分が留学をしている間に、我がふるさとがこんなに大変なことになっているとは。
そしてよもやそれとほぼ同時に僕自身も留学先のアメリカでトルネード警報を受けるとは。

時刻は今日の午後五時頃に遡る。
いつも通り、陽気な外人ジェイソンの授業を受けていた矢先、突然、教室中にけたたましい音のサイレンが鳴り響いた。僕の隣に座っていたオーマーの携帯も、まるで日本でいう、緊急地震速報を受けたかのごとく、激しく不快な音を出して震えていた。

これが何の事態なのかがわかったのは、先生の言葉から『tornado』という単語が聞き取れた瞬間だった。
おいおい!!まじかよ?トルネード来たんかいな!!
と、一度はテンションが上がってみたものの、いまいちトルネードが何かよくわかっていなかった僕は、仏像のような顔をしたまま、状況が明らかになっていくのを待っていた。

教室内はお祭り騒ぎであった。
なにせ、警報が鳴った瞬間、僕たちは丁度テストを受けていたところだったのだから。当然、テストは中断し、教室の皆は、「BONUS!! BONUS!! BONUS!!」と大合唱。
ところで突然だが、僕はフアンという、中国人の女の子が結構好きだ。クラスの女子の中で唯一話す人なのだが、どう表現すべきか、彼女にはなんともいえない魅力があるのだ。つまりは、テスト中に堂々と携帯を出して単語の意味を調べたり、僕に問題の答えを聞いてきたり、さらには宿題をやってこなかったりする。そういう場合に僕と目が合ったときの『内緒だよ』と聞こえてきそうな、悪戯っ子特有の憎めない表情が僕はたまらなく気に入っている。もちろん恋愛的にどうだとかいう話では全くないのだが、オーマーに加え、彼女とわりかし仲良くできていることが結構嬉しかったりする。
いやはや、日本語というのは非常に便利である。 こんなこと普通は書けないからね。
話は戻るが、実はその「BONUS!!」の合唱の戦陣を切ったのは紛れもなく、フアンに他ならなかったのである。
さすが、奴だな。と一度は思ったものの、いくらなんでも常識的に考えてそんなことを先生に要求するのはいささか無礼ではなかろうか。僕だって塾講師をやっていたから先生の気持ちは少しくらいわかる。何時間も考えて、こんな問題を出したらどうだろう、と生徒のことを第一に思って一つのテストを作るのだ。そんなテストに対して、さらなる要求を出すだなんて、まったくもって考えられない。僕はそんな人間と仲良くしていくつもりはない。
というわけで、フアンが一声目を発したその直後には、僕も大声を出して『BONUS!! BONUS!! BONUS!!』と右手を高く天井に突き上げていた。「BONUS!! BONUS!! BONUS!!」 (というか、BONUSって何だ?)

結局のところテストは完全に中断され、回収。翌日に持ち越しとなった。そしてしてやったりのフアンの表情。最高だぜ。
とまあ、冗談はこのぐらいにしておいて、予定より二時間ほどはやく帰れることになり、ラッキーな気分で帰路につこうとしたのだが、どうやらアメリカのトルネードに対する感覚というのは、僕の感覚とは全く違うものらしい。

なにせ、僕はトルネードのことを台風のことだと思っていたのだから、もはや世紀末少年である。
トルネードは竜巻のことだ。台風ではない。 Wikipediaで調べたところ、結構な頻度でアメリカでは死者が出ているとのことだ。中でも、

2011年
4月14 - 16日、観測史上もっとも多い241の竜巻が14州で発生、45人が死亡した。サリー原子力発電所への電力供給が遮断され、原子炉2基が一時停止した(April 14–16, 2011 tornado outbreak)。
4月25 - 28日、アラバマ州を中心に米国の南部および東部の各州で425以上の竜巻が発生。5月4日現在、死者は少なくとも354人に達し1936年以来の大災害となった。ブラウンズフェリー原子力発電所が外部電源を喪失し、ディーゼル発電機により冷温停止した(April 25–28, 2011 tornado outbreak)[1]。
 (Wikipedia)

この2011年のトルネードは読むだけでことの重大さが伝わってくる。
無知は怖い。
結局、わりかし平気に家に帰ることができたのだが、ずっとサイレンは鳴りっぱなしなわけで、僕以外に外を歩いている人はほとんどいなかったし、それこそまるで、あのゲームの『サイレン』の世界に入り込んだ感覚である。おそらく、タイミングが良かっただけの話で、今となっては外は常に大雨が降り続いているし、トルネードそのものは見ることはなかったものの、やはり警報が鳴る当たり、それなりに死の危険性はあったのかな、と思っている。

つまりはこれが僕のトルネード初体験である。

そして同時期に僕のふるさとでは大洪水が発生。何万人もの人々に避難勧告。豊平川の恐ろしい反乱。

いったい僕になんの恨みがあるのだ。
もし僕がオセロの駒だったら、いったいどういうひっくり返り方をすればいい。

ともあれ、サイレンの鳴り響く中、オーマーが僕に向けて言ったひと言が今でも印象に残っている。
「今日は、僕がヒーローになる日だ」

帰るときに彼の姿を探したのだが見つからなかった。きっとヒーローになっているんだろう。うんうん。