僕は今日詐欺師になったーー


今日、個別指導塾の方で、体験授業を任された。僕の勤めている個別指導塾では、無料で体験授業を行っている。この塾に入ろうかどうか悩んでいる場合に、まず体験してから決めてもらおう、そういうものである。

いわば、こういう言い方もできる。
「その生徒が入るかどうかは体験授業次第だ」

もっと言い換えてみよう。
僕の塾の授業料は授業数にもよるが、だいたい月に3万~5万らしい。それが1年通うとなると、12掛けることの、40万近い数字となる。
「40万を手にするか、パァにするかは体験授業次第だ」ということだ。

僕が任されたのは中1生だ。つまりそろそろ新2年生となる。出来は正直なところいまいちらしい。そう、室長から伝えられた。

僕はその生徒が来る前にある程度の準備をして待つ。例えば、どの範囲をやろうか、最初にどんな雑談しようかな、とか。

いよいよその生徒が来た。ちょっと大人しめな感じの男の子。まあ、慣れたものだから、適度に学校のことについて雑談したりする。
そして、それが終わって普通に問題を解く流れになったのだが、ここで僕の口から本人も驚きの発言が飛び出す。

「個別指導と集団指導ってどう違うと思う?」

その子は中学受験のために小学生の頃集団指導塾に通っていたそうだった。

「集団指導が個別指導に敵わないところってどこだろう?わかりやすいところ?質問がすぐできるところ?
そうだね、僕が思うのは生徒のレベルに合わせることができるところだと思うんだ。さっき、僕は君と同じ学校の中3生を教えていてね…」

ここで僕はこのブログでも書いたような話をした。いわゆる、初めは中1レベルだったけれど、三ヶ月くらいで一気に偏差値60近くなったエピソードだ。

「その子は夏に君と同じくらいのところから勉強し始めたんだ。だから僕も、その子のレベルに合わせて授業をしていった。月の単語とか、数字の単語とか三単現とかそういったことだ。そうして彼はものすごいスピードで周りに追いついた。僕はね、おそらく彼は集団指導塾にいたらこうはなってなかったと思うんだ」

こんなことが僕の口からベラベラと飛び出した。それはまるで有能な詐欺師が、無垢なおばあちゃんを騙すかのように。

体験授業における講師の使命は、その生徒をこの塾に入りたいかと思わせるかどうかだ。表沙汰にはっきりとは言われないが間違いなくそうだ。僕がでたらめな授業をすれば言葉は悪いが、塾は網にかかった魚を逃すようなことになってしまう。そしてそれは何十万という利益を持つ魚なのだ。

僕はその使命を愚直に果たしたのであった。僕の塾講師で経験したエピソードや、君がこの塾に来てどう成長していけるかなどを、自分でもびっくりするくらい流暢に語ったのだ。それも、ここまで言ったらさすがに中1でもいやらしく感じるだろうな、というところまでを考慮に入れながら。
もちろん、授業をしっかりとこなし、親にもしっかり挨拶し、室長と同じ角度で頭を下げ、生徒をお見送りした。

こんな一日である。

僕は、塾業界にある種のジレンマを持ちながら働いている。僕が思うのは、正直な話、実績第一を掲げているようにみえて、それは結局はお金儲けしたいだけなんだと。
生徒は全てお客様だし、その生徒が成績が伸びようか伸びまいが、どれだけ講習のコマ数を買わせるかに彼らは集中しているような気がする。

僕が頭を抱えるのは、中3生である。
彼らは塾業界にしたら格好の的である。なぜなら、ほとんどが受かろうが落ちようが、受験が終われば塾をやめる。高校の指導はしません、という塾も山ほどある。
わかるだろうか。
どうせやめるんなら、それまでにどれだけ金を使わせるか、という要素が塾側には少なくともあるのではないか。そのために使われるのは僕たち講師である。
めちゃめちゃなコマ数の講習を買って、勉強している生徒をみるとたまに虚しくなる。

というのは、「どうせやめるんだから、できるだけコマ数とらせよう」という塾側の思考がどうしても見え隠れしてしまうからだ。

「その生徒を受からせる」ということに取り組む仕事なのに、結局の目的は、「生徒を受からせる」という名目の元にお金儲けをする仕事なのだ、塾というのは。

何度も言いたくなることだが、勉強なんてやろうと思えば自分でなんとかできる。特に高校受験ほどちょろい勉強なんてない、と僕は思う。

それなのに、生徒の不安につけこんで、どんどんコマ数を増やしていくスパイラルに落とし込む塾業界なんてのは、インチキ極まりない仕事だ。

もちろん塾業界がインチキばかりだとは言いすぎな節もあるかもしれない。生徒のことを第一に思って経営する塾だって大勢あるだろう。
だけど、僕が言いたいのは、インチキ思想が入り込む隙間がある業界であることは間違いない、ということなのだ。

僕だって実はインチキ詐欺師なのだ。
目の前の生徒がたくさん講習をとってくれればその分自分の担当コマ数が増えるから、僕もお金を稼ぐことができる。だから、正直、生徒がコマ数を増やすことは、嬉しい。

でもだ。でもなのだ。
僕はこんなことがしたいわけではない。こんな思考が少しも紛れ込まない仕事がしたい。
純粋に生徒を指導したい。

だから僕は、塾業界、予備校界には死んでも入らない。これは僕個人の意見だ。僕はこの業界には合わない。
僕は生徒を生徒としてみたいのだ。お客様としてではなく。

予備校のカリスマ講師。僕個人の意見ではインチキばっかりだ。自分の担当講習をなるべく多くの生徒にとらせようと宣伝ばかりする講師もたくさんいる。もちろん、僕には尊敬している予備校講師に西きょうじ先生という方がいる。僕は彼のことが好きだ。インチキだとはまるで思わない。でも僕は彼がいる予備校界はインチキだと思う。難しいけれど要はそういうことだ。

カリスマ講師が自分の担当講習を宣伝する。
「少し高いけどなんとなくとろうかな」と生徒は思う。

「だって勉強のためだから」
ここなのだ!!ここが僕が1番インチキだといいたい!!

塾、予備校は商品として授業を提供する。でも、それらはとってもうまい具合に守られている。
例えばネットショッピングで欠陥商品を売ってしまったり、必要以上の数を送ってしまったりすれば、即座にクレームがくる。
だけれど塾業界においては、生徒が全然わからないような、欠陥授業だったり、必要以上のコマ数だったとしても、世間にはそれがインチキだとは見なされない。

「ちゃんと勉強しなかったからだ」
こうみなされるのだ!!!

こんな逃げ方がまかり通っていいのだろうか?
始まりは生徒の弱みにつけこんで、コマ数を買わせ、終わりには、生徒が勉強しなかったせいだ、と逃げる。
「私たちは生徒さんの合格を第一に頑張ってきましたが至りませんでした。申し訳ございませんでした」
こう言ってしまえば
「あなたたちの授業のせいよ!!」なんていう親はでてこない。
「うちの子がもっと頑張ればね…」
こう思うのだ。

なんて酷いんだ!!なんてインチキなんだ!!

繰り返すが僕は生徒を生徒としてみたい。
インチキ思想が入り込む隙間もない職場に行きたい。
僕はインチキ沼にもうすでに片足を浸からせてしまっている。それでも今はお金を稼がなきゃいけないし、この業界が教師の仕事の大きなプラスになることは間違いない。
でも僕は、時期がくれば、すぐさまインチキ沼から去らねばならない。

だから、強く言わせていただく。

僕は教師になりたいのだ。



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