0と1で構築された電脳世界。その中に縮小再現された都心のビル街が立ち並ぶ。
「お姉ちゃん、特訓に付き合ってくれてありがとっ♪」
今回のバトルステージ、都市。この戦闘シミュレーションのために造られた空間だ。
「こちらこそ。
こんな辺鄙なところへわざわざどうも。
……さて、早速ですまないが始めようか。
私としても久々の戦闘訓練でね。……腕がなる」
ここには誰もいない。いるのは向かい合う武装を身に纏った二人の姫のみだ。
ジールベルンアメジスト型神姫、ジルが一歩前に出ると、ゆっくりと構えを取る。
「じゃあ……」
ストラーフMk2ラヴィーナ型神姫、チアキが呼応するように踏み出す。
Ready? Go!
「行きますよ、『チアキさん』!!!」
「全力で来るがいい! ジル!」
開始の合図と共に、二人はほぼ同時に行動をとる。
片や手にした武器から光弾を撃ちだすジル。
片や、どこからか取り出した無骨なレーザーライフルを放つチアキ。
空中で激突した二つの光は互いの力を打ち消しあい、眩い光と共に消滅する。
「…っ!?」
光が消滅するとジルの目の前にはチアキの顔が。
この一瞬でチアキは弾けるように前進、急接近をしていたのだ。
「この右腕、味わってみるか?」
巨大なチアキの右腕で薙ぎ払われるとジルの軽い身体は宙を舞う。
ジルは咄嗟にだした武器で直撃は免れたもののビルへと吹き飛ばされ、身体をしたたかに打つ。
「まだだッ!」
追い打ちをかけるようにレーザーライフルから短い光の筋が数発放たれると、体制を崩したジルを襲う。
「こんなもの……っ!」
だがジルの紫色の武器、アメジストロッドはバリアーを周囲に張ると瞬く間に破壊の光を打ち消してしまう。
光の筋は周囲に瓦礫を飛び散らすだけに留まった。
「……ほう、面白いものを使うな」
「アメジストロッド。これが今の私の力です!」
翼をマントのようにはためかせるチアキ。起き上がると同時にロッドを構えるジル。
初手の動きはチアキが優勢。
だが、まだ勝負は始まったばかりだ。
じりじりと互いの距離を調整するジルとチアキ。
「はッ!」
チアキのレーザーライフルが火を噴く。
「お見通しですっ!」
ジルは光弾をロッドで受け流すと踊るように回転、チアキへと接近する。
回転の勢いもそのままに、両手剣と化したロッドの一撃が振るわれる。
「やるな。だが……ッ!」
バックステップで大きく距離をとるチアキ。
目の前を切っ先が掠めるが、ジルの刃はあと一歩のところでチアキへ達していない。
ステップである程度距離を稼いだチアキはアスファルトに爪を立て、無理矢理身体を静止させると、背のブースターを用いて蹴りを放つ。
一転攻勢、槍のような足技がジルを襲う。
「これでっ!」
しかしジルのロッドはその蹴りを防ぐ。さらにロッドを再度振りかざし、チアキへと一閃を放つ。
強烈なカウンターがチアキの肩を切り裂く。
バランスを失い回転しながら吹き飛ばされるチアキ。
「くッ……!?
……少し変化球といこうか」
背の巨大な翼を開くと宙へ浮かぶチアキ。
ブースターを点火させるとジルへ急接近。右腕を振りかざすと高速の一撃を空中から見舞う。
さながら猛禽のように右腕を振り下ろすチアキへジルは己の剣を振り上げ、その剛腕を防ぐ。
だがチアキの攻撃はそれだけで終わらなかった。一旦更に上空へブースターを吹かして舞い上がると回転をしながら真下へ急降下。
竜巻のような両翼がジルを襲う。
ロッドを駆使してチアキの連撃を流し、防ぐジル。
「捕まえます…っ!」
ジルは回転攻撃が終わった隙をつくとロッドを鋏状の形態、クローモードへと変形させチアキへ繰り出す。
ブースターを吹かし、無理矢理姿勢を制御するとチアキは剛腕を振りかざす。
上空のチアキと対空を行うジル。二人のクローと右腕が中空で衝突する。
「クロー対決で、そう簡単に負けるわけにはいかないな……ッ!」
「くっ…!」
背後のブースターと歪なフレームに内蔵された動力を駆動させ、力任せに競り圧すチアキ。
ギリギリという音と共に剛腕は圧力となってジルを上から抑え込む。
圧力はやがてジルの膝を折らせる。
一度体制が崩れてしまえば耐えきることは難しい。
チアキは掴んだロッドごとジルを上空に持ち上げるとアスファルトへその身体を叩き付ける。
「んあっ!?」
再度身体を持ち上げると、力任せにジルを近くのビルへと放り投げる。
受け身も取れず、叩き付けられるジルの身体。
勢いでめりこんだ身体がゆっくりとビルからはがれると、どさりと地面へ落ちる。
HPもかなり減ったことだろう。暗くなりつつある意識の下ジルは思考を巡らす。
(絶対に…負けたくない!)
(大切な人を守るため、愛する人を守るため…私は強くなる!)
(だから…お姉ちゃんを…!!!)
「ベルンカリバー!!!」
想いの力が素体にも変化をもたらした。
ジルの身体が光に包まれた一瞬後、そこにはアメジストロッドとは異なる両手剣を構えたジルがいた。
「これが…私の力。愛する人を守るための力」
上空からそれを見下ろすチアキ。
「……キミは強いな。普通はもう諦める頃合いだろうに」
その右手には機械仕掛けの姫に持たせるには随分と大きなグレネードランチャーが握られていた。
「だが、私も大概負けず嫌いでね」
今の彼女の最大の武器。それが立ち上がるジルに対するチアキなりの礼儀だった。
「ベルンスプリームゥゥ…」
ジルの両手剣、ベルンカリバ―が光り輝く。
「砕け散れ……」
チアキのグレネードランチャーが照準を合わせる。
「カリバァァァァァァァ!!!!!!」
「ヘルスポーンランチャー、ファイアッ!!!!!」
ベルンカリバーの剣先から光の奔流が、グレネードランチャーから巨大な弾頭がそれぞれ繰り出される。
お互いの最強の攻撃、紫色の光と銀色の弾丸がぶつかる。
爆風が辺りに広がるが、紫色の光は瞬く間にチアキの鋼鉄の翼を包み込む。
通常では耐え切れない紫色の光はチアキのHPを瞬く間にゼロにする程の攻撃。
勝者が決まった瞬間、そのはずだった。
「え…」
ジルの身体が衝撃で宙を舞う。
光に飲まれたはずのチアキは翼をパージ、地面に降り立っていたのだ。そして、その手にはレーザーライフル。
チアキの光弾がジルの胸を撃ち抜いたのだった。
「……強いな。その剣を抜くタイミングが違ければ、間違いなく私は負けていた」
勝負を制したのはチアキだった。
チアキ WIN!