夢ノ終ワリ Part1
2018年1月29日にpixivに投稿したものを再編したものです。
武装神姫の二次創作のSSです。苦手な方はご注意ください。
↓以下本文
「お嬢様、そろそろお帰りになられた方が良いかと」
こんにちは。剣士型MMSのレヴィアです。まだまだバトルを始めたばかりの若輩者ですが今日も今日とてゲームセンターで戦いに興じています。
今回は私とマスターだけ。いつも一緒の後輩さんとその神姫、マドカさんやバトルの中で知り合った方々は誰も一緒にいません。
そのゲームセンターの中、現代には似つかわしくない燕尾服を身に纏った男性が私たちの前に立ち塞がっているのでした。
「……あんた、どういうつもり? 私の一人暮らしには不干渉って話だったでしょ」
こちらが私のマスター、明晰な頭脳に優れた運動技術、そして極度の機械音痴でもある華の女子高生マスターです。
この方とは知り合いのようですが、その険しい目つきからは悪い想像しかできません。
「ええ、そのように旦那様からも言われていましたが、エミリーの報告によれば毎日毎日ゲームセンター通いになっているようではないですか。
なんという堕落! そんなことでは御家の名前に傷がつく、と危惧した私がこのようにお迎えに上がった次第でして」
「……迎えって、“実家”に戻れって話なわけね、やっぱり」
「当然です。元々わたくしはずっと反対していましたもの。ようやく時が来た、と感じる側面の方が大きいですが」
燕尾服の男性の胸ポケットから踊るように肩へと移動したのはメイド服を身に纏ったサイフォス型の神姫でした。
「ご機嫌麗しゅう、お嬢様。僭越ながら三年間、このエミリーがずっと御身を守らせて頂いておりました」
「監視ってことでしょ。……まあそうなるだろうなー、とは思ってたけど」
マスターはサイフォス型の神姫、エミリーさんには非難というよりも呆れたような目を向けます。燕尾服の男性よりかは距離が近しいということなのでしょうか。
「えっと、マスター。話がいまいち見えないのですが……?」
「私、ずっと一人暮らしだったでしょ。アレ、半分家出みたいなもんでね。
親と喧嘩して飛び出した結果ああなってたんだけど、とうとう連れ戻されそうになってるってわけ」
「このエミリー、お嬢様のために一人暮らしの援助をさせて頂きました。ですが最近の非行には目が余ります、とマスターが言いましてね。
私的にはもっと自由でもいいんじゃないかと思うくらいなのですけれど、まあマスター立っての提案ということですし、それにこの人はこの人なりにお嬢様の心配をした結果なんだろうなー、ということを思うとそれを無下にするのもなんだか可哀想かなって思いまして。あっ、可哀想と言えばこの人の泣きそうな顔ってとってもかわいいんですよ、なんというか母性をくすぐられるというか、もうこの神姫たらしーって感じなので」
「エミリー、ちょっと黙っていてください」
ちょっと顔が赤くなりながらメガネを上げる燕尾服の男性。なんだか、第一印象よりかは大分やわらかい印象になりました。
「とにかく、お嬢様には御屋敷に帰って頂きます。……ちなみに、この際多少力づくでも構わないと思っているのが私の考えでございます」
「マスターに何をする気ですか!」
思わず私も前のめりになります。……結果的に肩からは落ちるわけで。
マスターがだしてくれた手のひらにポンッと収まりました。恥ずかしい。
「落ち着いてください、レヴィアさん。このエミリーもマスターも、お嬢様に危害を加える気も傷つける気も毛頭ございません。
第一、これはマスターの独断ですし。これ以上暴走したらお仕事的にもピンチですし」
「そう、だから私は適度に自重しなければならないのです。
本当ならばお屋敷に無理矢理お連れして、助けに来た方々とバトル! ということもやってみたくはありましたが、強引な案はお嬢様を傷つけるか旦那様がお怒りになるかの二択の結末しか見えませんので全てボツに致しました」
「……マスター、この人悪い人じゃないですね」
「むしろ、ぶっちゃけすごく良い人よ。ただ、後輩君よろしく神姫バカなのとそれ以上に――」
「そのため、今回は神姫バトルで話の決着をつけることと致しました。
それに伴い御屋敷を完全再現したバトルステージと特設会場を用意しましたので、そこでチーム対抗のフラッグ戦を行いましょう。
お嬢様が勝ったらこれまで通りの生活をして結構です。私が勝ったら御屋敷に帰って頂く……という名目で決闘を行いましょう。名目ですので、実際はご一考頂くか前向きに善処する形で構いません」
「それ以上に、ゲーム好きなのよ」
こうして、事情のわりに微妙にゆるい決闘が幕を開けたのです……。
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「それで、俺達が呼ばれたわけですか」
事情を聞くなり納得した顔をしているのは後輩さんです。
……私たちは今ゲームセンターの近くの空き地に、突如としてできた特設会場にいます。
「楽しみデス!」
(≧▽≦)……このような顔をしてはしゃぐのは年齢不詳の金髪ちびっこ、もとい神姫専門技術屋の都野泉リビアさん。
……燕尾服の男性、どうやらマスターやそのお父様の執事をやられている方はここの土地を自腹で買い取り、あっという間にプライベートな会場を作ってしまったとのことです。
「いやー、私のような職で参加しても良いのですかなぁ。あ、やる気は満々ですよ!」
あっはっはと笑っているのは後輩さんの担任教師さん。
……この会場では通常のゲームセンターの筐体とは異なり複数の個室型の特性操作盤で神姫に指示をだすようです。ただしその分マスター間でのコミュニケーションは非常に難しくなっています。
「あ、あの私まで呼んでくださりありがとうございます……」
そして筐体の陰に隠れながらこちらを伺っているのは後輩さんのクラスメイトさんです。
……今回の試合は執事さんの独断ということでごく限られた人数で行っています。当然観客は無し。相手もマスターは不在で御屋敷で働いている方の神姫さんや職業神姫さんを連れてきているとのことです。結構無茶苦茶やりますね、この執事さん。
というわけで、後輩さん、リビアさん、教師さん、クラスメイトさん、この四人がこの試合に際して駆けつけてくれた方々でした。
当然それぞれがパートナーの神姫をお連れしているわけで……。あっ、ちょっとマドカさん、大人数は楽しいねぇってヂェリカンを配らないでください! パーティをはじめないでくださいぃ!
「ごめんね、うちの事情に付きあわせちゃって。学生組とリビアちゃんにはあとでジュース奢るから! 神姫たちにはヂェリカンね!」
ああ、マスターそんなことを言うとマドカさんがさらにヒートアップしてしまいますので!?
「ルールは五対五の変則フラッグ戦。人数はそちらに合わせております。
貴女方の勝利条件は私たちの守るフラッグに触れること。
フラッグですが、お嬢様の部屋にお嬢様を模った像を置いておきますのでそれを奪いに来てくだされば結構です。
ただし、制限時間を設けます。一バトル最長五分と想定し、移動時間も加味した上での三十分間! ……この制限時間以内に達成してください。これがお嬢様たちの勝利条件です」
「何かご質問があれば御気軽にお申し付けください」
執事さんの肩の上でニコニコとエミリーさんが微笑みます。その脇には不機嫌そうに腕組みをしたメイド服を着たウェスペリオー型神姫が控えます。
「ところで、先輩のうちって神姫いっぱいいたんじゃないですね。先輩の反応的に無縁なのかと」
確かにそれははじめてエミリーさんを見たときから思っていました。機会に不慣れなはずのマスターですが、神姫の心得があったことに驚きです。
「うん、昔は友達がいなかっし、エミリーとかとよく遊んでいたんだけれど……」
なんと遊び相手にもなっていたとは。サイフォスは確かに初期よりの神姫。小学生のマスターの遊び相手でいてもなんの不思議もないというわけです。
「正直妖精かと思ってた」
前言撤回。マスターの遊び相手に神姫を用意した執事さん、大失敗な気がします。
「うわあ、機械音痴こわい」
流石の後輩さんもドン引きです。
「もうそういう次元じゃなくないー?」
はい、私もマドカさんに同意です。
「さて、それじゃあ本題に戻りましょう。早い話が作戦会議ですね」
「ひとまず地理に関しては私……レヴィがナビゲートするわ。無駄に迷いやすくなってるし、部屋の場所まで確実に案内できるし。勿論共有はしておくけれどね」
「それで、指示系統ですが……」
「マドカさんがいるなら安心ですね!」
マドカさんは歴戦のベテラン神姫。今回のような変則的なルールにもきちんと順応してくださるはずです。
「いや、私はやらないよ」
「え?」
珍しくヂェリカンから手を離し、言い切ります。
「えっと、それじゃあサーシャさんに」
「そういうことじゃない」
真剣な態度にしどろもどろになってしまいます。
「レヴィア、君がリーダーをやるんだよ」
「で、でも私は一番の若輩者で……」
泣きそうになり、思わずマスターを見つめます。
「……先輩でも先達ではない。後輩でもいつまでも後追いではない」
「……え」
「そゆこと♪ さっすがお嬢」
「私たちもいつまでも引っ張られる側じゃないってことよ。気がつけばもう一年以上経ってるしね。やりましょうレヴィ、貴女なら、いいえ、私たちならやれる!」
マスターの強く、優しい視線に心を動かされます。こう、CSCの奥からふつふつと何かが沸き上がってくるのです。
――私とマスターなら、やれる。
「……わかりました。お引き受けします」
「了解、じゃあ指示を任すよ、レヴィ」
「よっろしくねー、リーダー♡」
……かくして、私とマスターを司令塔にした作戦がたてられました。
間違いなく目的地に辿りつける私をマスターの部屋へと最速で向かわせ、他の方々は相手の神姫の足止めをする。日常的に過ごし地の利がある相手と違い、こちらは伝えるにも限界がありますからね。長期戦になればなる程待ち伏せなどの不意打ち、防御が固められた際の対応、いずれにせよ不利になるのは避けられません。なによりタイムリミットに間に合わない可能性が多分にでてきてしまいます。
端的に言えば速攻作戦。これで勝負をつけます。
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マスターが細かい屋敷の図面を皆さんに共有しに行っている間、私と後輩さん、マドカさんはこんな話をしました。
「お嬢の実家ってアレっしょ、外資企業の最大手」
「本当にお嬢様だったのですね……知りませんでした」
「知っているやつは少ないけどな。知られたくなかったみたいだし」
やはりそうなのですか。オンオフをしっかりするマスターのことです。まだ起動して間もなかった頃とはいえ一緒に生活していても生徒会長だったことにすら気づけなかったのです。実家のこととなるとなおのことわかりませんでした。
「入学してしばらくたっても友達がいなかった俺によく話しかけてきててな。
授業サボって学校の中庭で寝てた時とかに、よく怒られた。
で、友達いないなら私がなるから毎日を楽しく生きろってな」
……今にして思えば、マスターは後輩さんに自分を重ねていたのかもしれません。
人にレッテルを貼られて、そこだけが見られる世界。そこで取り残されてしまったはぐれモノ。
……もしかしたら私も同じように思われて買われたのかもしれませんね。
人の都合で終わらせられた、棚の片隅にあるはぐれモノ。
そういうものでしたから、私は。
「会って間もない頃、私がなんとなくお嬢って呼んだ時になんで知ってるのよー!? って自爆してねー。
呼び方変えようか、とも言ったんだけど知ってから変えられる方が嫌だって言われてね。悪いことをしたよ」
「でもその一件以来これまで以上に話かけてくるようになってな。今に至るってわけだ」
まあ本性知ってるの俺だけだし、と頬をかく後輩さん。
きっと理由はそれだけじゃありませんよ、そう言おうとした私にマドカさんがウインクをしながらその小さな唇に指をあてています。
ええ、そうですね。これは私の言うことではありません。
部活でもなければ生徒会でもない後輩さんとの繋がりが、ようやく見えた瞬間でした。
「ごめーん、お待たせ」
マスターが走って戻ってきます。どうやら図面の共有が終わったようです。
「準備ができたようですね。それでは筐体へ皆様お入りください。はい、マスターもどうぞ」
エミリーさんの案内で五人と一人が両側に置かれた筐体の搭乗スペースに神姫を連れて乗り込みます。
ここからが本当の戦い。私とマスターの集大成ともいえる戦いの始まりです。