「新日本監査法人のお粗末経営」(後半) | 新人経営コンサルタントの奮闘記録-読書を通じての徒然日記-

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週刊ダイヤモンド 2010/10/23

「会計士増の旗振り役が採用減
新日本監査法人のお粗末経営」(pp.10-12)


では早速、本記事の内容に入っていきたいと思います。


少々ボリュームがありますが、どうぞ宜しくお願いいたします!


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公認会計士試験合格者の採用をゼロにする?
新日本の採用減少の背景 その1:ダンピング
新日本の採用減少の背景 その2:安易な過剰採用


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公認会計士試験合格者の採用をゼロにする?


昨今、金融庁をはじめ、公認会計士協会も一緒になって会計士増員を目指して頑張っています。そのように頑張るのは、2018年に会計士の数を現在の約2万人から約5万に増やしたいという思いがあるからです。


では、そもそもなぜ会計士をそれほど増やしたいのか?その内容が【こちらの報告書】


内容を読むと目指したい方向性(WHAT)はわかるのですが、ではどのようにすればその内容が実現できるのか(HOW)?この報告書には、監査制度や公認会計士試験の制度を改めることで、それを実現するという極めてオーソドックスな方法論が記されているのですが、ただ、いまいち内容が曖昧模糊でフワフワ状態。


それゆえに、現在も金融庁は【懇談会】 を設け、監査や試験に係る事項も含めて、公認会計士制度の改変を議論しています。


そんななか、四大監査法人(現在は三大監査法人とも言われていますが)の一角である新日本が今年の公認会計士試験合格者の採用をゼロにするというのだから、同業の監査法人や金融庁、公認会計士協会等がビックリ!(なお、四大監査法人とは「新日本」「トーマツ」「あずさ」「あらた」です。そして、「あらた」が現在では中堅監査法人に位置づけられています)


皆さんもご存知の通り、公認会計士になるためには、会計士試験に合格すればよいというわけではなく、そこにはいくつかのクリアしなければならない条件(例えば、会計に係る実務経験(業務補助)2年)があり、それをクリアして初めて公認会計士になれる。


監査法人というのは、企業の監査のみならず、試験合格者が晴れて公認会計士となれるように、そのクリアしなければならない条件を満たすための母体の役割を果たしているのですが、そんななかで、新日本が試験合格者の採用をゼロにするというのだから、新日本は完全にその役割を放棄する、と宣言したとみられても仕方が無い。


そのため、同業の監査法人のみならず金融庁も公認会計士協会も驚くのは当然。したがって、《「本音をいえば新人なんて採用したくないのはウチも同じ。新日本の姿勢は無責任すぎる」(別の大手監査法人関係者)》(p.10)と非難されるのも頷けるのです。


最終的には、新日本は今年の採用を100人程度とするようですが、ホントのところはどんなもんだか。私には、今は無き「中央青山」といい、新日本もそこと同様になんとなく怪しい存在に見えてきました…。


新日本の採用減少の背景 その1:ダンピング


新日本は、先にも述べたとおり、今年の試験合格者の採用をゼロにはしないまでも、100人程度にする模様です。ただ、この数字は、従来の採用数から考えると極端に少ない(ピーク時の採用はは2007年の700名)。


では、なぜ新日本はこれほどまでに採用を抑えているのか?


その理由の1つが「ダンピング」です。この「ダンピング」とは不当廉売とも言われ、要は、闇雲に安い値段で商品・製品・サービスを消費者に提供するということです。


本記事には、次のような記載があります。


《なりふり構わぬダンピングで顧客を獲得している例も目につく。たとえば(新日本は)オリンパスを、監査報酬を4億700万円から2億2500万円へとおよそ半減させてあずさから奪い取るなど、監査報酬を引き下げて得た顧客は枚挙にいとまがない。(中略)リーディングカンパニーであるはずの新日本によるダンピングとあって、顧客企業に限らず業界内でも「何を考えているのか」(別の大手関係者)とブーイングの嵐が巻き起こった。》(p.11)(カッコは小生追記)


このように監査法人の利益の源泉である監査報酬を意図的に下げてまで、新日本はライバル企業からクライアントを奪って受注をとるのですから、仮に売上はとれたとしても、たいして利益は稼げない。したがって、利益を減少させる会計士合格者採用というコスト(人件費増加)のかかるようなことはできない。


ただ、このような監査報酬の値下げは一見するとクライアントからすれば、喜ばしいことのように思えるのですが、しかし、決してそうでもないのです。そもそも監査報酬をおよそ50%もダウンするなんて、安売りの殿堂よろしく価格破壊もいいところで、そんなに安くしたら、品質の確保された監査サービスを提供できるのか?過不足のない監査人を導入して、監査(実査)を行っているのか?通常やるべき監査(実査)を、それこそ不当に削減して監査報告書に意見していないか?


異様に監査報酬を安くすれば、以上のような疑問が浮上してしまうのです。そんな疑問を抱いてしまえば、今後は監査人を監査する人を誰か(たとえば、クライアント)が用意しなければならない、かもしれない。


このダンピングという不当な監査報酬の値下げは、長期的な視点に立てば、実はクライアント側にとってコストのかかることであり、決して手放して喜べるようなことではないのです。


クライアントの皆さま、監査に限らずコンサルティングもそうなのですが、安いからといって、すぐに飛びついては(発注しては)いけないのです。


新日本の採用減少の背景 その2:安易な過剰採用


そして、採用減少のもう1つの背景が、過去の公認会計士の「安易な過剰採用」です。


《06年から08年にかけて、なんと毎年500人~700人もの試験合格者を採用し続けたのである。(中略)加えて07年に解散し新日本が継承した旧みすず監査法人出身の会計士の存在も重くのしかかる。新日本は旧みすずに所属していた会計士のうち、約半数の1000人強の雇用を引き受けた。》(p.12)


2006年から、新日本のみならず、監査法人全体が試験合格者並びに会計士の採用数を増やしました。その理由は非常に単純で、いわゆる内部統制バブルが発生したからです。


金融庁は、上場している会社全てに、2009年3月期以降の有価証券報告書に、財務報告に係る監査済みの内部統制評価報告書の添付を義務付けました。そのため、監査法人は通常の財務諸表監査に加えて、内部統制監査までする必要性が生じた。したがって、「これは業務が増えたぞ!だから、とにかく人を確保せい!」という流れで、とにかく人を増やした。


ちょうどこの時は、「会計士5万人へ」ということで、会計士試験の合格者も極端に増やしましたので(たとえば、2006年度の合格者1372名(合格率:8.5%)だったにもかかわらず、2007年度合格者は2695名(合格率:14.8%)と前年度比で倍近くに合格者を増やした)、それも手伝ってか、監査法人はとにかく調子に乗って人を増やしたのです。


しかしそんなバブルも長くは続かず、バブルゆえの宿命なのですが、2009年以降見事にそのバブルは木端微塵にはじけました。バブルに踊らされて安易に過剰採用したツケが、今現在やってきたということですね。


新日本は、今年5月に5年目から7年目の会計士100人を企業に出向させる旨を発表しました。目的は、監査業務のみならず、経営にも精通した会計士を育てるため、ということのようです。この発表を受けて、新日本の行いは斬新な試みだ、と評価する人もいました。


けれども、私にはこれは過剰在庫(仕事が無い会計士)を上手くさばくための口実にしか思えない。というのも、こんなことを監査法人が行うなんて、今までは皆無に等しかったでしょうし、百歩譲って、それが上手くいっているとすれば、もっと多くの会計士をそのように企業に出向させればよいのです。


がしかし、実際には受け入れ先の企業があまりいなかったのでしょう。新日本は今年9月に、約400人の早期退職者を募集しているのですから。


調子の良いときは人を雇い、調子が悪くなれば人を削減する。こんな経営で良いのであれば、私の近所に住む小学生のあっくんにでも任せることができますよ。


お粗末とはこのことかと、本記事を読んでいて、そんな切ない思いを私は抱きました…。


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以上が、監査業界のリーディングカンパニーである新日本によるお粗末経営の内容でした。


でもホントに、新日本はどうしてしまったんでしょうか。個人的には、新日本はこんな会社ではなかった気がしていたのですが…。


このような会社が、「監査業務のみならず、経営のアドバイサリー業務までやりまっせ!」というのだから、呆れてものが言えない。他の会社からはきっと、「ウチの監査をするとか経営のアドバイスをするとか、そんなことよりもまず自分のところでそれをしろ!とにかく、己のふんどしを締め直せ!!」と言われてもおかしくない。


お粗末経営をしてしまう会社に、監査や経営のアドバイスをお願いするクライアントは皆無だと思います。そう考えるともしかしたら早晩、新日本は赤字を積み重ねて首が廻らなくなり、どこかに吸収されてしまうかもしれない…。


きっと(必ず?)そこで働く会計士や会計士補、そして今年の公認会計士試験合格者はそう考えていることでしょう。特に後者の場合は、新日本ではなく、あずさやトーマツに動いている模様。


《すでにこうした新日本の事情を察知した合格者たちは、あずさ、トーマツに殺到しており、「新日本を選ぶ受験生が極端に減っている」(大手監査法人の採用担当者)》(p.12)


このように合格者も含めて、監査に関わる多くの方が、新日本がどうなってしまうのかを気にしている。


だた、何よりも私が気にしているのは新日本(正確には、そこに所属するメンバー)が全うな監査業務を遂行できるのか?ということ。


上記したように、あまりに安い値段で監査業務を請負い、その結果十分な監査ができずに、企業の会計不正を見逃してしまうかもしれない。私は、そんなことが起きないように願うばかりです(企業会計のプロフェッショナルを謳うのであればなおのこと)。


これから上場会社へのIFRS(国際財務報告基準)導入が始まります。IFRSというとどうしても、「IFRSによって、あなたの業務はこう変わりますよ!」というように、上場会社を煽るような記事ばかりが目につきます。


けれども一方で、監査法人は、その基準をもとに上場会社が作成した財務報告書を適切に監査できる状態にあるのか?上場会社が誤った基準の解釈で行った会計処理を、決して見逃さずに、正当な注意及び指摘ができるほどの専門知識を備えているのか?


今後は、これまで以上に新日本は(またその他の監査法人も)、自分たちが提供する監査の質が問われることでしょう。だからこそ、新日本には是非とも頑張ってもらいたいのです。私は率直に、そう思っております。


ガンバレ、新日本!


追伸1:
このような「お粗末経営」という記事を受けて、新日本は質素ながらも反論をHPに表明しております。【こちら】 ですが、参考程度に添付しました。


追伸2:

でも、新日本もある意味想定外な面もあると思うのです。というのも、これまでの会計士試験合格者のキャリアといえば、監査法人に入って、3年から5年程度そこに在籍して、そこで会計士の称号を得たら、その後は自分で会社を興すなり、事業会社でCFO(最高財務責任者)を目指すなり、とにかく自発的に監査法人を卒業していった。


つまり、監査法人には人材の自然な流動化(循環)が存在したのです。


ただ、現在は昨今の不況を受けてか、それとも試験合格者及び会計士に「アニマル・スピリット」が無くなってしまったのか、とにかく、監査法人を自ら卒業する人が少なくなった。だからこそ、早期退職者希望者を募集せざるをえなくなった。そう考えると、新日本ばかりを責めるわけにはいかないような気もするのです。


公認会計士試験合格者よ、そして会計士よ、こんな経済状況だからこそ、大志を抱け!そして、それを実践しよう!!監査法人にいることだけが、会計士の仕事ではないぞ!!!


Let's get psyched up !!


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