『稲盛和夫の実学 経営と会計』(「急」) | 新人経営コンサルタントの奮闘記録-読書を通じての徒然日記-

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経営コンサルタントとして活動し、早5年目。そんな新人が、ビジネスという魑魅魍魎がうようよ跋扈する世界で活躍するために、自己研鑽・自己武装(『読書』)をしております。その記録を記載していきます。どうぞ宜しくお願い致します。

これまでで、本書書評として【「序」】 および【「破」】 を記してきましたが、ここではその最終章(「急」)として、本書を読んで得た私の気づき(咀嚼)を述べていきたいと思います。


この記事が本書に係る最後のエントリーになりますが、引き続き、どうぞよろしくお願い致します!


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稲盛和夫氏の本書執筆の背景
白洲次郎氏の「プリンシプル」
「原理原則」の形成・実行・確立・修正


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稲盛和夫氏の本書執筆の背景


本書は今から12年前の1998年10月に日本経済新聞社から発表された書籍ですが、そもそも稲盛氏が本書を執筆した背景(動機:問題意識)には、一体どういったものがあったのでしょうか?


それは、本書発表当時に頻繁に発生していた、金融機関に係る不正事件やその結果として生じた倒産が関係しています(例えば、1997年に起きた野村證券や日興証券の総会屋に対する不正利益供与事件、また山一證券の自主廃業)。


《いくつかの日本の金融機関が信用を失い破綻に追い込まれ、日本の金融界に対する不信感が国際的に広まっていることは、金融機関の持つ社会的使命や役割から見てきわめて深刻な問題である。》(p.193)


そして、氏はこのような事件が発生した原因を《会社経営の原理原則》の欠如に見い出します。


《このような問題を解決するために、昨今コーポレートガバナンスのあり方についての議論が盛んであるが、問題はたんにシステムや制度のあり方にあるのではなく、経営者が会社を経営するために不可欠な座標軸を見失い、会社経営の原理原則を見失っていることにあるのではないだろうか。


私は、会社経営はトップの経営哲学により決まり、すべての経営判断は「人間として何が正しいか」という原理原則にもとづいて行うべきものと確信している。》(pp.193-194)


このように氏は、本書発表以前に起きた様々な事件の原因を《会社経営の原理原則》の欠如とし、だからこそ、「人として正しいことを行う」という「原理原則」を基に経営をしていくことの重要性を、本書では説いていったのでした。


白洲次郎氏の「プリンシプル」


私は、この「原理原則」というキーワードに触れる度に、ある人物を想起します。


その人物とは、皆さんもご存じの白洲次郎氏です(氏は、私の憧れる人物の一人です)。


ご承知の通り、白洲氏は終戦当時、終戦連絡中央事務局の次長や貿易庁長官を務め、つまり官僚として活躍し、また東北電力の会長の役職にも就いた経営者でもあります。


この白洲氏も、稲盛氏と同様に、「プリンシプル」の重要性とそれにまつわるエピソードを、『プリンシプルのない日本』の中で、これでもかと展開しています(こちらもオモシロイので、興味のある方は是非立ち読みを!)。


私は、白洲氏の「プリンシプル」と稲盛氏の述べる「原理原則」とは、ほぼイコールと咀嚼しています。


言うまでもなく、「プリンシプル」(「原理原則」)が無ければ、自らの思考・決断・実行にブレが生じてしまう。なぜなら、その思考や決断、実行をするための基準、つまり「プリンシプル」が無いために、何を基準に考え、どう決定して行動を起こせば良いのか分からないからです。


自らの「プリンシプル」が無ければ、思考や決断、実行のたびに(その都度)それらを行うための「プリンシプル」を、どこからか引っ張り出してこなければならない。ただし、それでは思考や決断の度に「プリンシプル」が異なるため、その思考や決断に一貫性が見られない。


そうであるがゆえに、周囲からは「オイオイ、大丈夫かこの人は?」といった不安な目で見られ、何よりも本人自身に確固たる自信が生まれない。そのため、さらに思考・決断・実行にブレが生じてしまう(まさに「プリンシプル欠如による負のスパイラル」がここに見て取れますが、昨今の政治家が、その良いケースを示していると言えるかもしれません)。


そういう意味で、人生において、多種多様な意思決定を迫られる状況に埋め込まれた私たちには、白洲氏の述べる「プリンシプル」が必要不可欠なのだと思います。


そして同じように、ビジネスという舞台で活動する、経営者を含めた多くの実務家にも、稲盛氏が述べる「原理原則」を持つことはマスト中のマストなのだと考えます。


皆さんは、どんな「原理原則」をお持ちでしょうか?


もし、その「原理原則」をお持ちでない方がいれば、それを持つための参考やヒントとして、また既にお持ちの方であればそれを見直す契機として、本書を活用して頂ければと思います(私の場合は後者でしたので、本書を通じて、自らの原理原則を結構深く見直させて頂きました)。


「原理原則」の形成・実行・確立・修正


ただし、「原理原則」といっても、それを自らがつくり出していくことは、またそれをもとに日々思考・決断・実行し、継続的にその「原理原則」を見直していくことは、容易ではないことも確かです。


例えば、私にしてもそうです。私は、会社という組織に属しているイチメンバーにすぎません。それゆえ、悲しいかな、マネージャー(上司)に「このプロジェクトにアサインしたから、明日からそこへ行け!」と言われれば、仮に、そのプロジェクトメンバーたちが、私の持つ「原理原則」と大きくかけ離れたコンサルティングをしていたとしても、相当なことが無い限り「そこに行きます・・・」としか言えません(なんとも悲しいかな、宮仕え・・・)。


しかし、私は、そんな虚しくなるようなプロジェクトメンバーに囲まれて(こんなこと言って大丈夫かな(苦笑))、仮に嘆くことはあっても、決して腐ることなく、クライアントに向けて最高のパフォーマンスを提供しようと、そんなアクションを起こすよう努めている。


それは、私の中に日々進化(または深化)している「原理原則」があるからなのだと思っています。つまり、その「原理原則」が、私を支えてくれているということです。


皆さんの会社の中にも、多少なりとも、理不尽な出来事があると思います。そして、皆さん自身がそこに巻き込まれ、悩んだり苦しんだりすることもあると思うのです。その結果、発狂したくなることも・・・(例えば、ある人は度々”このクソッたれマネージャー!!!”とカラオケに行くたびに叫んでいるとか(ちなみに、”ある人”とは私かもしれませんが(笑)))。


ただそれらに遭遇しても、決して自暴自棄にならず、冷静に(しかし、魂は熱く!)思考し行動して、それらに対処する必要性がある。ビジネスというジャングルで淘汰されずに生き残るためには、そんなタフネスさが欠かせないんですよね。


そのための支えが、まさに「原理原則」なのだと思います。


だからこそ、自分自身のオリジナルの「原理原則」を形成し、それを実行しながら、さらにより良い「原理原則」を確立していく。そして、それを継続的に見直して修正(ブラッシュアップ)をかけていく(「原理原則」の形成⇒実行⇒確立⇒修正といった、マネジメントサイクル(PDCA)の実践)。


私は、その重要性を本書を通じて気づかせて頂いたのでした。


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前回も記したのですが、本書は文庫サイズです。そのため、肩肘張らずに気楽に読める書籍です。


しかし、読む目的によっては気楽に読めるものでもなく、かなり注意を払って読まないと、稲盛氏の伝いたいメッセージ(主張)を読み飛ばしてしまう危険性がある。


もちろん、読者により読む目的は多様であり、それゆえ、本書から得る氏のメッセージや気づきは様々だと思います。


例えば私の場合は、本書から主要な気づき(咀嚼)として、「経営において重要なのは、『原理原則』(プリンシプル)である!」ことや、「その形成・実行・確立・修正が自らのアクションの肝である!!」といったことを得ました。


特に後者(「原理原則」の形成⇒実行⇒確立⇒修正)は、決して簡単ではないと思います。しかし、難しいと言っていても前には進みません。したがって、「どのようにすれば、それを実践できるのか?」、このことを思考しつつ、私は日常のアクションをとっていこうと思います。


最後に、遅まきながら、本書目次を記して本記事3部作(「序」「破」「急」)を締めたいと思います。


皆さんも、良かったら本書に目を通し、何らかのメッセージや気づきを得て、”熱い思い”でそれを日々の業務に活かして頂ければと思います。


末筆ながら、ここまでの冗長な文章にお付き合い頂き、本当に有難うございました!


Thanks a lot for reading my blog !
Have a nice day !!


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『稲盛和夫の実学 経営と会計』


【目次】


序章 私の会計学の思想


第一部 経営のための会計学 実践的基本原則
 第一章 キャッシュベースで経営する
 第二章 一対一の対応を貫く
 第三章 筋肉質の経営に徹する
 第四章 完璧主義を貫く
 第五章 ダブルチェックによって会社と人を守る
 第六章 採算の向上を支える
 第七章 透明な経営を行う


第二部 経営のための会計学の実践 盛和塾での経営問答から


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