有限会社イーズで代表取締役を務める枝廣淳子氏と産業技術総合研究所サービス工学研究センターで研究者として活動する内藤耕氏による共著。
本書は、「システム思考」を素早く学習できる、とてもわかりやすい入門書です。(ちなみに、私自身はこの「システム思考」というのはとても優れた思考法の1つだと思っています。その理由を以下に述べていきますね)
ここでいう「システム思考」とは、
「社会や人間が抱える物事や状況を、目の前にある個別の要素ではなく、それぞれの要素とその『つながり』が持つシステムとして、その構造を理解することである。」(p.3)
というものです。
ここで注目すべきが「つながり」というキーワード。つまり物事や状況を理解する際には、個々の部分を一つひとつ「単独」で見るのではなく、一つひとつの部分を「関係性」として捉えることが大切ということ。(ざっくり言いますと、「モジュール」ではなく「ネットワーク」でイベントを把握しようよ!、ということ)
これは「全くもってその通り!」で、私たちの身の回りで起きている出来事(例えば身近でいいますと、「仕事(勉強)を迅速に進められるようになった!」、「上司(先生)に褒められた!」等のプラスの出来事から「仕事(学校)の遅刻」、「ケアレスミスによる上司(先生)の叱責」等のマイナスの出来事)は、たった1つの要因によって生じたというよりも、複数の要因が複雑に絡みあって発生すると思います。(きっと…)
その複数の要因を「つなげて」考え、その「つなげる」ための道具を提供してくれるのが「システム思考」なんですね。
では、その「つなげる」ための道具というのが、フィードバック・ループというもので2つの種類があります。
1.自己強化型ループ
2.バランス型ループ
前者は、変化をどんどん「強化」させるために使用するループ。
後者は、変化を「安定(均衡)」させるために使用するループ。
ちなみに、この「ループ」というのも面白く、経営学には組織学習論という分野がありまして、そこではクリス・アージリスとドナルド・ショーンが発表した「ダブル・ループ学習」という概念があります。これも思考法としては実に興味深いんですね 関心のある方は是非調べてみてください!
さて、それぞれの「ループ」を使用するシーンとしては、次のようなケースを本書では紹介しています。(pp.124~125)
自己強化型ループは、「『顧客を増やしたい』、『会員の数を増やしたい』、『売上を増やしたい』、『自分の英語力をアップしたい』、『自分のアイデアや技術をたくさんの人に使ってもらいたい』」など。これらの目的を達成する際に、自己強化型ループは力を発揮すると記されています。(これらはまさに「○○を強化」する例)
他方、バランス型ループは、「『事故をゼロにしたい』、『不良品をゼロにしたい』、『不具合をゼロにしたい』、『顧客の苦情をゼロにしたい』、『貧困を減らしたい』」など。このようなケースに対応したい場合には、
バランス型ループが役立つとされています。(これらはまさに「○○をゼロに安定(均衡)」させる例。もちろん、「ゼロ」というのは例であって、「50」や「100」で安定(均衡)させるという場合もあると思います)
この2つのフィードバック・ループを用いて複数の部分を「つなげて」いくのが「システム思考」の特徴です。
なお、本書ではこの「システム思考」と異なる考え方として「分析的思考」という思考法も紹介しています。
この「分析的思考」とは、
「目の前にある問題を個別の要素に分類・分析していき、その要素を変えることで問題を考える」(p.31)
方法です。
ここで誤解してほしくないのは、「システム思考」が優れていて「分析的思考」は劣っている、と短絡的に判断しないで!ということ。
なぜなら、両者は問題を解決する上で相互補完(あるいは相互依存)的な関係だからです!(2つの思考法を「つなげている」この発想こそ(ある意味)「システム思考」!!)
ある特定の問題が複数の要因で絡み合い、「とてもじゃないけど1つに特定できないよ!」という場合は、冷静になってそれらの要因を一つひとつ特定し「つなげて」いって、その「つながり(関係性)」を1つの原因(構造)として理解する。(ここまでが主に「システム思考」)
その「つながり(関係性)」を1つの原因(構造)として特定できたら、次にその原因を効率的かつ効果的に解決していくために、ある特定の視点を設定して(ココが結構難しい!)、個別の要素に分解していく(モレなく、ダブりなく:MECE)。(この分解で欠かせないのが「分析的思考」になります)
このように、2つの思考法は問題解決にとってなくてはならないものです。したがって、どちらが優れているあるいは劣っていると考えてしまうのはナンセンスなんですね(このことは当たり前のことなのですが、しかしながら、私の周りにはこのように何かと「優劣」をつけたがる人がおります。そういう人と仕事をすると大変疲れますが…)
大切なのは、状況に応じて2つの思考法を使い分けることであり、少しカッコよく言いますと「コンティンジェンシー」という発想が重要!ということなんですね
経営コンサルタントとして仕事をし始めた当初は、肩に力が入っていたせいか、問題に出くわすと、手っ取り早くその問題を発生させる要因を1つに特定し、その要因を徹底的にフォーカスして分析し除去しようと躍起になっていました。(当時の私は「分析的思考」原理主義者)
しかしながら、この「システム思考」、つまり問題を発生させる複数の要因を抽出し、それを「つながり」で捉えて、問題の全体構造を理解して考えていく、ということを学んでからは徐々にスムーズに問題解決ができるようになってきました。(それは、マネージャーに「なかなか思考の筋が良くなったね!」と言われたからでして)
「つながり」で理解する。
言われてみればなんてことはないのですが、私にとってこの思考法は本当に「目から鱗」でした。(大袈裟に言うと、「コペルニクス的(大)転回」!)
この思考法を垣間見てみたい方は、是非ともご一読を!!
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