著者は感染症専門家。2018年刊。
くだけた丁寧語を使っているものの、かなり口は悪いです。辛辣な批判は「岩田節」ともいえるもので、この点は好き嫌いは別れそう。私は好きの方。
本書の題名には「インフルエンザ」とありますが、インフルエンザに割いている部分は1章だけ。多くの部分は感染症全般と現場の医療、ワクチン、巷にはびこる怪しげな健康情報への批判、などです。
第1章はインフルエンザについて。
インフルエンザのワクチンとか学級閉鎖の有効性の検証とか。
第2章は感染症や寄生虫全般。
ハチミツやアニサキスの項目もありますが、白眉というか本書の核になりますが、「食」について。
岩田先生はレバ刺しを好んで食べていたそうですが、これはもちろん、食中毒を知らなかったというわけではなく、好きだから、美味しいから、だそうです(p.70)。
統計データを見る限り、レバ刺しを禁止して以降も感染症は減っておらず、生肉はいくつもある原因の1つに過ぎないのに、場当たり的に禁止しても効果はありません(p.70-72)。
要は杓子定規に禁止する医療行政を批判すると同時に、食の快楽とリスクはトレードオフの関係にあり、国民に広くリスクを周知したうえで、国民1人1人が賢くなって、自分の判断で摂取する食物を決めていきましょう、ということですね。
あとこの章で好きな部分としては、「ヨーグルトには別に免疫を上げる、健康になるというデータはほとんど存在しないけれど、美味しいから食べる」という動機ならば、そのまま続ければ良い、と(p.98)。
第3章は抗生剤とか風邪の予防について。
実験によると1回15秒間のうがいを1日3回やるならば風邪の予防効果はある、と書いてあったので(p.125)、本書を読んで以降は、毎日15秒間のうがいができるよう、私は努力しています。息苦しかったり、上を向いているとめまいがしたりすることもあって、多少難しいですが。
第4章は水際対策とか梅毒とかの医療行政の批判など。
第5章はHIV、子宮頸がん、学校での性教育などについて。(あと近藤誠批判)
この章も重要部分ですね。
性感染症と妊娠は健康面でも重大な影響があるので、性教育によって科学的な知識を身につけるべきですが、性教育はそれだけでなく、「他者を知り、他者を理解しようとし、そして他者に対する敬意を持つこと」という目的があります(p.206)。
性知識だけでない、人権教育の点からも、性教育を進めていかねばなりません(p.207)。
本書は「岩田節」の合う合わないはあるとは思いますが、おおむね良書だと思います。
論文の紹介(エビデンスの提示)などもある、専門的な部分にも踏み込んでいる割には読みやすいです。
本書の核心部分は、大体以下のように整理できるでしょう。
①行政によって一律に禁止する、法規制するのではなく、国民1人1人が科学的なリテラシーを持ち、リスクを踏まえて自分の頭で考えて判断・行動していきましょう。
②納税者・主権者として、医療行政がおかしなことをやって税金を無駄にしていないかどうか監視し批判していきましょう。
敢えて「思想」的にいうならば、自由と民主主義を支持している、ともいえるのかな、と思います。
岩田健太郎『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』ベスト新書