演出家とは人間をプロデュースする仕事だ。 | 演出家・プログラマー 深寅芥のブログ 

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演出・俳優 深寅芥のブログです。本名は千葉伸吾と申します。
株式会社ネリム 代表取締役

実は、「演出」について、書かれた古典的な書籍はこの世に存在しない。
それにはいくつか理由がある。

「演技論」「戯曲」の指南書はこの世に多数存在するのに、
明確な「演出論」の書籍等が存在しない理由は何故だろう。

演出家とは?

音楽の世界であれば、マエストロ(指揮者)。
建築の世界であれば、建築士。

つまり、「作家」という職業は
音楽の世界であれば、「作曲家」。
建築の世界であれば、「設計」である。

「演出家という仕事はどんな事するの?」と人から問われれば、
「他人の著作物を構築・再構築するのが演出家の仕事である。」
と私は答えるようにしている。

そして、もっと深くまで考え抜くと、
「戯曲や台本が無くても、”ルール”を決めて、俳優に演技をさせる」事が演出家には可能だ。(※実はルールがなくても、演技させる事が可能である。)

上記の指揮者、現場監督の方々も恐らく、「楽譜」や「設計図」がなくとも、何か成果物を構築する事が可能だろう。

つまり、チラシ等に作家・演出家(つまり作・演)と明記されている方は純粋な演出家ではない。そもそも演出という作業すらしていない可能性が高い。

ただまぁ、そうは言っても、この世に明確な「演出論」がないのだから、名乗るのは自由だし、語るのも自由だ。

それだけ、「演出家」とは日本において、誤解されている職業の一つである。

さて、著名な演出家といえば、蜷川幸雄氏、宮本亜門氏が双璧であろう。
彼らは、指揮者や建築士のような作業をしている。

世界的に有名なシェイクスピアの作品を演出したり、他の作家が書いた戯曲やシナリオを演出したりしている。自らが「著作物」を書いたりする事はない。

残念ながら、演出には「著作権」が付与されない。
それは演出という作業が「無形」であるからであろう。

何故、「無形」であるのか?そこが焦点になる。

演出家がする作業には主に次のような作業がある。

○納期(本番)に間に合わせる事。
○俳優に理想の演技をさせる事。
○照明・音響・舞台美術家に、適切な指示を与える事。
○予算に収める事。
○観客に戯曲の真意が伝わる、満足させる事。
○事故・トラブルを起こさない事。

建築士であれば、

○納期に間に合わせる事。
○作業者に、指示を与えて、スケジュール通りに働かせる事。
○内装・配管等の作業者にスケジュールを伝え、作業を指示する事。
○予算内に収める事。
○クライアントを満足させる事。
○事故・トラブルを起こさない事。

これらはつまり、人間をプロデュースする仕事である。

私は、巨大な建築物に登るのが好きだ。
何故なら、「建築士」の仕事は、その「建築物」の巨大さと共に
膨大な作業者を無事に帰還させ、納期に間に合わせる事ができ、
クライアントを満足させる事ができたのだから。

建築士が一人で仕事を終えた後に、最上階からみた風景は格別であったのだろう。

膨大な数の人間をコントロールする技術。それが演出である。

だから残念ながら、そのようなハウツーは存在しない。
そして、その行為に著作権は存在しない。

ただただ、偉大な行為である事は確かなのだ。