心臓外科医の小倉医師は、元看護師であり、患者のアキに、余命3か月を告げる。

アキは、わたしの友人だ。

モト看護師だから、宣告したのか、真意はわからぬのもの、その心は推し量れない。



そんなことは、つゆ知らず、夕刻、アキの連絡に耳を傾ける。

「 友達とお話してくるから、少し遅れる。 」いつものアキの声である。



その後、深夜、帰りの遅い アキを心配しながら、ホテルの冷蔵庫に、スイーツと

プリンを用意して帰りを待つ。



窓には、深まりゆく秋の夜が、博多湾を遠くに写しながら、どことなく冷たい。

携帯の音に、あわてて、でると 「もうすぐ、つくよ。迎えに来て。」

「わかった」 わたしは、チャイニーズマフィア風の眼鏡をとり、部屋をでた。



悲しみよ こんにちは 

まばらな、人ごみと暗闇のなかから、アキの姿が現れる。

いつもと変わらぬ表情から 「 すこし歩きたい 」とポツリ。。



肩にかけた荷物を、そっと 「 もとおかぁ 」 「 うん 」

と言葉を、交わしたような気持ちのまま、商業ビル、ソラリアの

脇を通り過ぎる。



何事もないような、一日の会話が始まり、たわいない、愛情と

優しさの空気が交わる。

24時を過ぎた街路樹には、街灯の明かりで、ここが日本で

あることを忘れそうだ。

心臓への負荷を避けるために、一緒に シャワーで汗を流すことは長時間できない。



「 わたし、あなたの誕生日を一緒に過ごせないかも・・・しれない。 」

こころの動揺を、微塵も見せないアキの心には、なにが写っているのだろうか。



「いっしょに死んで、いいよ。いつでも。」

・・・



天神コアビルの屋上に、ルビンの杯が、かすかに夜の暗闇に浮かぶ。

同じものを見ても、同じ死を前に、思うことは異なるが、互いの想いは同じであってほしい。

遠くに博多湾があるのだろうが、ポツリポツリと船の明かりがまばらに見えるだけだ。



アキを後ろから抱きしめながら、電気を消した部屋には 薄い暗いパノラマが広がる。

小さなスクリーンには、音もなく、時間が流れていく。

アキには、秘密がある。

稼ぐためにはじめた、アルバイトのこと。

拘置所にいる叔父のことだ。



自分自身で、決めたバイトのことは、子供のため。

なんの後悔もない。

父親のところに預けている(つもり)子供の養育費のためだ。

働かない父親を、自分の男、あるいは夫といいたくない自分がある。



私は、この子と生きたい。



余命 数か月の自分と闘いながら、そんなことはない。

私は、生きる。

このこのために生きる。



朝目覚めたベッドの横にいたのは、夫ではない。

そんなことより、体のだるさと、足のところどころにある青いあざを気にしている。



「 どうしたんだい?このアザ?」

打ち身でもないアザは、心臓の病気からくる しのびよる 病魔にみえる。



「 う~ん。。 よくないのかな? 」

やさしく抱き寄せられる このひとの腕は、暖かく 心地よい。



薬のケースから、ひとつ、ふたつ、、、、合計5つの錠剤をいっきに口に頬張る。

「 きょうは、どううるの? 仕事? 」



離れたくない、こころもとさと、甘えたい自分と、葛藤した自分は、もう その言葉を

発していた。気づいて!あなたなら気づける。

学習障害のわが子が、突然 帰ってきた。



瞳の視線が、いつかみたダスティンホフマンの瞳ににどことなく似ている。

でも、こどもの瞳は純粋で、その視線は、遥か遠くにある。



父親の実家での扱いを語る わが子の話を聞きこむ。

アキは、こころに確信をもち、わがこに語りかける。



かたちだけ、帰ろう。

こどものために。

アキは、決意した。

残りの人生を、子どもと過ごそう。