思い出のあとおし | ジャズについて話そうか
2013-12-10 01:12:09

思い出のあとおし

テーマ:JAZZとサックスの話

今日は、珍しいCDを手に入れたよ。



長谷川孝水 「日々の泡」



1983年にCBSソニーから1枚だけLPをリリースしたまま

余命を宣告される様な大病を患ったために幻化した、

女性シンガーソングライター長谷川孝水の「日々の泡」。



古い作品だけど、今聴いても不思議と古さは感じない。

サウンドはJAZZYってことになるのだろうけど、この当時はまだそんな言葉は無かったから、

そういう意味でも相当進んでいたんだなってことがわかる。



華やかなシーンを目の前にして大病を患い、

明日をも知れぬ運命を背負った彼女の心からの思いは、

5曲目の「夢うつつ」に聴く事が出来る。



長谷川の歌は、コケティッシュでキュート。

いくぶん舌足らずなところも、この「夢うつつ」では曲調や長谷川の背負ったものを思えば

深刻な内容の歌詞とのギャップがあり、不思議な説得力を持っている。



この時、確実に長谷川孝水は、死を意識していたと思う。常におびえながら…

それが、この曲では切なくも達観しており、よけいに切ないのさ。



サポートするメンバーも、プロデューサーのチト河内を筆頭に、

生粋のジャズメン、ベースの稲葉国光とピアノの市川秀男の両ベテラン。

流行りのJAZZYというジャンルでは括れないほど、さすがに重厚な大人のサウンドに仕上がっている。



永く廃盤になっており、CD化もされていなかったものが、

いつのまにかCDになっており、ぼくも、気付いた時にはすぐにまた幻化してしまっているようだね。



でも、長い間探していたものだったのさ、これ。

実はこれには、ぼくは結構な思い入れと縁があるのさ。




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サーカス列車のような、ペンキがはがれかかった列車に乗ってやってくるいとこのGくんを

駅まで迎えに行った。

ぼくがGくんの住んでいた、ここより少し山の中へ遊びに行く事はあっても、

Gくんがやってくるのは珍しい事だった。

もっと遠くの高校に行ってしまい、夏休みと言う事で久しぶりに会うGくんは、

中学時代の坊主頭とは違って、

ジェームス・ディーンのようなソフトリーゼントの額に汗をかきながら、


「すすむ、こっちこっち」


とまるでぼくの方が迎えに来てもらったかのように笑っていた。


二人して大通りのレコード店に入って、レコードをみて、

ぼくはためていたお小遣いで少し背伸びしてウイングスの「ワイルドライフ」を買った。


「これから、たかみんとこ行くぞ」

しばらくするとGくんは、自分の姉の名前を呼ぶのが恥ずかしいのか、

急に真顔になってぶっきらぼうに言った。本人にはいつも、たかみちゃんって言っていたのに…


レコード店からそう遠くないところにあったそのアパートに入ると、

あんのじょうGくんは、子供の頃みたいな声を出して、


「たかみちゃん、いるー。」


なんて言いながら扉をノックした。


間接照明なんてまだ知らない頃のぼくには、

はじめて入った一人暮らしの高校三年生の女性…いとことは言え…の部屋は、

薄暗く、何となく甘い香りがして、ドキドキした。


「おうG、きたのか…なんだ、すすむもいるのか」


たかみちゃんは、長い黒髪をかきあげながら、けだるそうに言った。

華奢な体つきで、髪も長く、女性的なたかみちゃんだが、言葉つきはむしろ男子高校生に近い。


「うん」


ぼくは、このいとこの前に来ると、まったく何を話して良いのかがわからなくなる。

同い年の姉ちゃんがいるのに、二人はまったく違う人種で、目の前のたかみちゃんには、

姉ちゃんには全く感じない、どきどきするものが、沢山あるからだ。

この時、Gくんが何の用があって、ここへ来たのかはわからないが、

ぼくはズックを脱ぎ部屋に入っても所在なげに只突っ立っていた。


「なんだ、すすむレコード買ったのか、みせてみろ」


差し出すぼくのレコードをあまり興味がなさそうに袋から出したたかみちゃんは、

急におー、と言う声を発した。

「ワイルドライフ、じゃないか、これすすむ買ったのか、なんだ、おまえウイングスなんか聴くのか」


ぼくは、誇らしい気持ちで「聴く」と答えた。


ターンテーブルの上で、ポール・マッカートニーが叫んでいる。たかみちゃんは、A面を聴き終えると、


「G、レコード止めろ、歌う」


といって、おいてあったギターを抱え、ベッドに腰掛けて歌いだした。


「七つの海を越え、国から国へ
  七つの丘を越え、街から街へ……」(日々の泡、7曲目収録)


たかみちゃんの歌はその時、初めて聴いた。

驚いてしまって、隣のGくんをみると、普通の顔をしている。

たかみちゃんは何曲かをろうろうと歌うと、ふーっと大きな深呼吸をして、ギターを置いた。


「それじゃあ、またくるね」
「おう、G、気をつけて帰れよ」
「うん」
「すすむもな……すすむ、おまえ何年生になった。」
「中一」
「中一か……中一になって、まだ半ズボンはくのか」
「……」


この日はぼくが、お気に入りだった白と青のツートンの半ズボンを卒業した日になった。



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長谷川孝水は、30年経った今でも、人工透析を続けながら音楽を続けているそうです。

すばらしいね、人生って!



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