いよいよ本番を告げるSEが流れ

出演者全員に緊張が走る。

その時、1人が「お祈りをしよう」と言い出して

全員で手を繋いで、お祈りをする事に。



以前、タイムズスクエアの教会に行って

初めてお祈りを経験した時

どうして良いか分からなかったし

ただただ戸惑ってばかりだった。

でも今回は素直に、すっと目を閉じて

お母さんの事を想って

「お母さん、ここに連れてきてくれてありがとう」

「頑張るから、観ててね」

って声に出す事が出来た。



みんなが何度も「Thank you」と呟いているのが聞こえる。

神様に対してなのか、何に対してなのかは分かんない。

でもみんな、目を閉じて

誰かや何かに感謝の言葉を伝えていた。



お祈りが終わると同時にオープニングが始まって

子供の部が始まる。

控え室でモニターを観ながら

お母さんの形見の指輪を触る。



大丈夫、大丈夫

大丈夫、大丈夫

そう何度も繰り返していると

控え室にいたスタッフに

「sakura」

と名前を呼ばれ、ステージ袖へ待機する様に言われ

緊張しながらステージへの階段を上がる。



私の出番は、大人の部7組中、3番目

ステージ袖にはトップバッターの黒人ダンサー達と

2番手の白人ラッパーユニットの男の子達

そして私がスタンバイしている。

出番を待つ間、黒人ダンサーの子に

「Hey Sweetie」

と呼ばれ

「ん?スウィーティー?私の…こと…かな?」

とドキマギ 笑

何やら私のリハーサルでの歌を褒めてくれていて

それに僕たちが振り付けしてあげるよ!

と、言ってるみたいで(たぶん 笑)

ダンサーの子達がきゃっきゃとはしゃぎながら

私の曲を踊ってくれている☆

私もそれに合わせて小声で歌ってみると

ラッパーユニットの白人さんが

ヒューマンビートボックスでリズムを刻んでくれて

大舞台を前にまさかのセッション 笑

みんなで笑いながらセッションを楽しんでいると

ステージへのドアを開けるスタッフさんが

パチパチと拍手しながら笑顔で

「ほら、出番だぞ」

と、ダンサー達をステージへ急かす。

みんなでハグをして、ダンサーのみんながステージへ。

ステージ袖で大歓声を聴きながら、出番を待っていると

ダンサーのみんなが帰ってきて、ハイタッチしながら

「Sweetie あなたも頑張ってね!」

的な事を言って、控え室に戻っていく。

ラッパーユニットの2人がステージに続くドアを通る。

1組の持ち時間3分、もうすぐ私の出番だ。

とドキドキしていると、すぐに男の子2人が帰ってきて

慌てた様子の司会者がドアから顔を出して

「What's Your Name!?」

と聞いてくる。

「sa、sakura!」

と答えると

「OK!sakura!Come on!」

と心の準備も出来ないままステージへ続くドアに

手を掴まれながら引っ張られていく。

どうやら前の男の子達はブーイングで途中退場になったみたい…



アマチュアナイトは、お客さんのブーイングが続くと

けたたましくサイレンが鳴って

「エクスキューショナー」と言う

出演者を強制退場させる役の人がステージに出てきて

パフォーマンスしている出演者をステージから追い出します。

ステージにあがる時に触る幸運の切り株も、袖で拭われて

エクスキューショナーが足で蹴って払う様に追い出す事で

お客さんも盛り上がる仕組みです。

リハーサルで素晴らしいパフォーマンスをしていた2人が

ブーイングで強制退場…

本番前にプロデューサーが

「誰かを応援にきてる観客がほとんどだ」

「自分の応援者以外を蹴落とす為のブーイングも必ずあるから、気にせず歌いなさい」

と言っていたけど、本当に強制退場させられちゃうんだ…

と、不安になる私なんてお構いなしに

司会者が紹介を始める。



「From Japan!」

の声に湧く歓声。

ステージ裏でマイクを渡され

「Good Luck」

と声をかけられる。

「sakura!!!」

と名前を呼ばれ、ステージへ上がって

幸運の切り株をそっと撫でる。



照明が眩しくてよく見えないけど

3階まである高い会場には、びっしりの観客。



ステージ中央に着くと、キーボードが歌いだしのキーをジャーンと弾く。

どのLIVEでもいつもやる、おまじない。

「最初のブレスは深く吸う」

会場中の空気を一度全部吸い込んで、私の中に入れてから吐く事で

私のステージにしたいから。



第一声、最初のワンフレーズ。

「Yeahーーーーーー!」

と言う歓声が聴こえ、Aメロを歌いながら顔を上げる



すると今度は、大ブーイング。

満員の観客が出す

「ブーーーーー!!!」

の声は、まるで地鳴りみたいで

耳で聞いて認識するより先に

身体の中にドンっと入ってきて

「え?ブーイング?」

と、徐々に頭が理解する。



ブーイングを認識した瞬間は

「え?なんで?」

が、素直な感想だった 笑



Bメロにさしかかる頃

笑いながらブーイングする観客に

「はっ!?ふざけんな!最後まで聴けし!!!」

って、身体の奥から込み上げてくる物を感じて

ブーイングを跳ね返すつもりで

文字通り、全身全霊でサビを歌う。



サビと同時に、歓声が聴こえる。

自分の上げた声で、ブーイングが聴こえなくなる。



顔を上げて、1階、2階、3階のみんなを見る。

ブーイングもチラホラ聴こえるけど

立ち上がって手を叩いてくれている人も見える。



不思議なもんで、こういう時って

自分の事を応援してくれてる人しか見えないんだね 笑

自分勝手な機能だなーって思うけど

笑顔で手を挙げてくれてる人の姿に、本当に救われたと思う。



最後の大サビ

上手く説明出来ないけど

今まで経験した事のない気持ちで歌を唄ってた。



サイレンは鳴らない。



あっと言う間に、3分間が終わる。



最後のフレーズを唄い終えて

「Thank you Apollo!」

と手を振ると、数人の観客が立ち上がってくれたのが見えた。



ステージを降りてドアを出る

階段を転けそうになりながら控え室へ戻ると

出演者のみんなが

「Good Job!Good Job Sweetie!!!」

とハグをしてくれる。



思わず涙が溢れて

「Thank you」

と何度も繰り返す。



阿部さんも降りてきて

「良かったですね!本当に良かったですね」

「ここがスタートですよ。扉が開いて、私は本当に嬉しい」

と抱き締めて、喜んでくれた。

結果発表は

7組中、私の前のユニットと、後に歌ったsingerの女の子が

ブーイングで強制退場になったので

私を含め、ダンス、ポエム、singerでの合計5組で行われ

私は、5位!

優勝は、音域を自由に使いこなす素晴らしい歌い手の彼!



本番が終わった後、すぐに駆けつけて

「素晴らしい声をしていたよ」

と話しかけてくれた、人としてもとっても魅力的な歌い手さんでした。



そして2位が、トップバッターのダンサーのみんな!



「いつか必ず、一緒にパフォーマンスがしよう」

と言って、とっても素晴らしいメンバーだった。



3位はポエムを熱く語った女性。

残念ながら私は英語が分からなくて

彼女の詩を理解出来なかったけど

スタンディングオベーションで会場が割れんばかりの拍手を受けていた。

ステージの上で、自分の熱い気持ちを観客に叫ぶ

歌でもない、ダンスでもない

それって、そうそう出来る事じゃないと思う。

会場を出て、たくさんの人が話しかけてくれる中



自分が素晴らしい環境にいた事を、改めて感じていた。



着物で帰る帰り道

私はずっと泣いていた。

ただでさえ着物で目立つのに

涙も拭かずに電車やバスで泣く私は

さぞかし怪しかったと思う 笑

阿部さんに「何か食べますか?」と聞かれても

首を横に振って答えるのがやっとだった。

たくさんの人がいる

阿部さんもいる

素晴らしい仲間と

撮影に協力してくれたしげさんと

日本から応援にきてくれたお客さんもいた

でも、凄く孤独を感じていた。

何に泣いているのかも、もうよく分からない。

長時間の着物で身体も疲れて、足も痛い。

家に着くと、阿部さんは「ペッパーの散歩に行ってきます」と言って

すぐに1人にしてくれた。

2階の部屋までダーッと駆け上がって

泣きながら着物を脱いで

下着のままで、ビデオカメラを取り出してPCに繋ぐ。

今、今この感情のまま、確認したい。

拭かない涙が布団に落ちてボトボト音を立てる。

真っ暗な部屋の中、PCの映像とイヤホンから流れる音だけに集中して

私は、私を観ていた。

泣きながら観た映像には

「ああ、ここ練習したのに!」

なんて失敗はどこにも無くて

本当に、今の私に出来る最大限の歌を唄っていた。

全力で唄って、全力で負けた。

何の言い訳も出来ない映像が、そこに流れていた。

それを確認して、今度は他の出演者の映像を観る。

彼らの映像を観る事で

彼らはどこまで意識出来ていて

私はどこまでしか意識出来ていなかったのかを知れた。

こんな風に、1曲勝負のショーだからこそ

1つの物を作り込む時の意識の差がハッキリ現れる。

それはパフォーマンスに関してもそうなんだけど

それだけじゃなくて、今までの努力や

自分が意識して磨いてきた物も全部。

私が1番、私を知っているからこそ

意識の低さを改めて感じて、涙が止まらなかった。

「良い経験をした」

「やれる事はやったし、最後まで唄えただけ充分」

「褒めてくれてる人もいた」

「結果なんてどうだって良いんだ」

なんて言葉をかけられて

自分もそれで心を落ち着かせる。

なんだかそんな事も悔しくて

何が必要で、何が欲しくて、何を改善して、何を伸ばしたいのか

思いつくもの全部メモって、吐き出すうちに

いつの間にか朝を迎えていた。

翌日からの数日間

ビリージョエルの公演を観たり

ジャズ、ブルース、と一流の演奏に触れて過ごす中で

色んな事を考えていた。

アポロシアターを終えて

今のところ、達成感の様な満足感はない。

悔しさはあるけど、あの日の夜に全部吐き出した。

今はそんな事よりも

この経験から得た事や、思った事

その全てを櫻-sakura-の糧にする為に

早く日本に帰って、櫻-sakura-の為だけに時間を費やしたい。

先生に教えて貰いたい

楽曲を作りたい、歌詞を書きたい

今ある曲も、改めて見直して磨いてみたい。

あのアポロのステージで

何の言い訳も出来ないくらい、全力で負けたからこそ

今後の私を育てる為だけに専念したいと、強く思う。

まじで超おおおおおおおおお悔しいけど

超おおおおおおおお勉強になった!!!

そして絶対ムダにしないって誓う!!!

ああ、また涙が!!!!笑

全力のブーイングを、全力で跳ね返して歌った!!!

これからもそうやって生きて、そうやって強くなる!!!

私は私の人生のステージでも、最後まで歌いきってみせる!!!

死ぬ時は全員、葬式でスタンディングオベーションさせてやる!!!

本当に良い経験をさせて貰った事に心から感謝!

協力してくれたみんなも

応援してくれたみんなも

そして、お父さんとお母さんも

本当にありがとう!!!

今日はこれからLAに飛んで、サンタモニカでLIVEです☆

今日も負けじと頑張ってくるね!

きゃふんっ!!!