久々更新の今回のブログは、私がイタリア留学中、大変お世話になりました声楽の師匠であり、
 心の底から尊敬するオペラ歌手の一人でもあります、マルゲリータ・グリエルミ先生へ捧げる手紙
 として、綴っていこうと思います。
 
 マルゲリータ・グリエルミ先生へ

 謹啓

 卯の花に夏を思う今日この頃、先生もお元気でお過ごしのことと存じます。
 近年、毎年日本での講習会にて、声楽家の育成として、情熱的に御指導下さる事。 
 先生の数多くの弟子の一人として、心の底から嬉しく思います。
 唯、今年の講習会開催中に起こった大震災は、先生との貴重な時間を過ごされる
 日本で西洋音楽を学ぶ高い志を持つ人達にとって、本当に…本当に
 悔しい結末で終わってしまった事…。私自身も…大変残念な気持ちで一杯です…。

 振り返れば私自身の人生で、初めて先生の歌声を聴いたのは、確か十代前半、
 NHKの「懐かしのイタリア・オペラ」という番組内で、イタリア歌劇団来日公演にて
 先生が演じられた、ヴェルディー作曲歌劇『仮面舞踏会』でのオスカル役でした。

 その可憐な舞台姿と広い会場の隅々まで良く通る歌声は、TVを通しても感じ取る事が出来、
 とても驚嘆し、感動した事を、昨日の事の様に記憶しております。
 その十数年後、まさかこの私が、そんな憧れの声楽家から、
 歌の極意を教わる機会を得られるなんて…。人生とは本当に不思議なものですね…。

 先生がオペラ歌手として青春時代を謳歌されていらっしゃった時代。
 世界のオペラ界では錚々たる声楽家がオペラハウスを席捲していらっしゃいました。
 マリア・カラス、レナータ・テバルディー、ジュゼッペ・ディ・ステファノ、ティト・ゴッビ
 そして先生と共にオペラ全盛時代を創っていったパバロッティー、ドミンゴ、カレーラス・・。
 こうして名前を列挙するだけでも身が引き締まるようなオペラ歌手が沢山
 素晴らしい歌声を届けていらっしゃった時代を、私はとても・・とても羨ましく思い、
 時々、もう少し早い時代にこの世に生を受けていれば・・このオペラ全盛期を
 TV画面のみではなく、劇場で体感していたのではと想像する度、
 とても切なく感じるのです…。

 私は留学中、ドニゼッティー作曲歌劇「ランメルモールのルチア」を先生から
 学んでいる最中に、先生がプレゼントして下さった、
 先生がタイトルロールを勤められているこのオペラのミラノ・スカラ座公演の
 貴重なライブ録音音源は、今でも私自身のバイブルの様な存在で、
 自分の歌に行き詰まった時等、欠かさず聴いております。

 所で先日インターネットの動画サイトにて、以下の映像を発見致しました。
 先生がモスクワにてコンサートを行った際の映像です。 
「ランメルモールのルチア」第一幕でのルチアのアリア「辺りは沈黙に閉ざされ」を
 歌っていらっしゃる映像です。
  
そして、先生がプレゼントして下さったライブ録音音源にもボーナストラックとして
 収められていらっしゃったロッシーニ作曲歌劇「セヴィリアの理髪師」からの第一幕
 ロジーナのアリア「今の歌声は」も、こちらのコンサートで歌われていらっしゃったのですね。
 
    それから、以下の映像は、先生が「ランメルモールのルチア」のタイトルロールを
  初めて歌われた時のものなのでしょうか??
  1964年のボリショイ劇場でのミラノ・スカラ座、引越し公演の映像のようです。
  
  先生から指導を受けた際も、私は強く感じておりました先生の可憐な舞台表現と歌声を、
  こうして貴重な映像で改めて観賞出来る事を、本当に本当に嬉しく思います。

  更に先生は歌唱テクニックだけでなく、表現者としての有り方を強く教えて下さりましたね。
  オペラの中で描かれる人々は、現存する私達がそうであるように、
  誰しもそれが良かろうと悪かろうと、何かしら生きる目的や意志を達成しようとして
  生きているという事を、徹底的に考え、意識して表現するべきだという事を、
  指導を通して教えて下さりましたし、先生自身も、身を持って表現していらっしゃったと、
  以下のロッシーニ作曲歌劇「チェネレントラ」内、主役をいびる可愛いクロリンダ役の映像
  を観て、私は確信致します。
 
  先生、先生は嘗てオペラ全盛時代、オペラの伝統を踏襲し、
  作曲家や台本作者の意志を汲み取り、品格を持って表現していらっしゃいました。
  でも、今…時代は移り変わり、嘗て心血注いで数々の名作オペラを生み出された
  作曲家の音楽や台本作者のト書きを無視した新しい演出を施される方々が沢山
  いらっしゃることを、どうお感じになられますか??
  ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスの声域は、
  近年のオペラ公演では、もうどんな声域で歌おうとOKになってしまった事を
  どうお考えになられますか??
  時代が移り変わると同時に、現在のクラッシック歌手に求められるニーズも
  変わってきているのです。
  更に、経済的な問題が追い討ちをかけます。
  世界的にも、オペラ公演自体の存続が危ぶまれているのです。
  そして…日本では今回の大震災…。

  ここまでどん底に落ちてしまった国に対して求められる舞台芸術が、
  人々にもう一度『夢を与え、生きる力の糧にする』という事ならば、
  私は、オペラも、嘗て先生が携わったオペラ界がそうだった頃のように、
  緞帳が開いた瞬間、夢の世界へ誘われる様な、そんなものであって欲しいと
  願うのです。

  先生も私と同じ意見でいらっしゃいますか??
  又、近い内にお話させて頂きたく存じます。

  最後に、私の人生の目標はズバリ、先生のような表現者になる事です。
  その目標が達成出来たら、もうこの世に未練はない!!
  そう言いきれる様、目標を達成出来るよう、頑張ります。
  
  先生、いつまでもお元気で!!!  沢山の愛を込めて・・・。

                         かしこ