1300度の静寂。
炎という名の「絶対他者」との対話

皆様、こんにちは。
有田焼《真右エ門窯》三代目、炎と対話する求道者、馬場泰嘉です。

窯の焚き口から漏れる1300度の炎

窯の焚き口から漏れる朱色の光。それは地球の息吹です。

この光を見つめていると、時折、時間の感覚が消失することがあります。
ただ、轟音(ごうおん)と共に渦巻く炎と、私という存在が向き合うだけの静寂な時間。
本日は、有田焼の命そのものである「炎」について、私の思想をお話しさせていただきます。

「筆」ではなく「炎」で描く

有田焼には、華麗な筆使いで描かれる「絵付け」の美しさがあります。
それは計算された秩序の美であり、世界を明るく照らす「太陽の美学」です。

しかし、私が求めたのは、人の筆では決して描けない美しさでした。
それは、「地球の息吹そのものを、器という形に留めること」です。

窯の中の炎は、生き物です。
そのエネルギーの奔流(ほんりゅう)が、釉薬という鉱物を溶かし、冷え固まった瞬間に現れる「景色」。
それこそが、私が生涯をかけて追い求めている「炎の記憶(月光の美学)」なのです。

筆で描く (太陽) 炎で描く (月光)
【伝統的な絵付け】
● 人の意志による制御 ● 再現可能な「文様」 ● 秩序ある美しさ
【真右エ門の耀変】
● 自然の意志への帰依 ● 二度とない「景色」 ● 神秘的な美しさ

1300度の対話が生む奇跡

真右エ門窯の焼成温度は、約1300度。
これは、岩石さえもドロドロに溶かす灼熱の世界です。
私はここで、「炎と対話する求道者」となります。

ただ温度を上げれば良いのではありません。
酸素をどれくらい送り込むか、どのタイミングで温度を下げるか。
その微細なコントロールは、科学でありながら、最後は「祈り」にも似た直感の世界です。

私は炎を支配しようとは思いません。
炎という偉大な自然の力(絶対他者)に敬意を払い、その力を借りて、土と釉薬を「変容」させていただく。
その謙虚な対話の中にしか、本物の「窯変(ようへん)」は生まれないのです。

炎が描いた「一期一会」を持つ

そうして窯から出てきた作品は、もはや単なる焼き物ではありません。
それは、「炎が踊った痕跡」そのものです。
ルビー色の赤は、炎の激しさを。結晶の青は、冷却の静寂を。

真右エ門窯の作品を所有するということは、「二度と再現できない炎の瞬間(モーメント)」をご自身の手元に置くということです。

もし、あなたが日常の中でエネルギーを必要とした時、あるいは静寂を求めた時。
ぜひ、器に残された「炎の記憶」に触れてみてください。

1300度の熱をくぐり抜けた器は、
きっと貴方の魂に、力強い活力を与えてくれるはずです。


【Q&A】炎と真右エ門窯の哲学について

Q. 有田焼において「炎」はどのような役割を持っていますか?
A. 一般的な有田焼では「絵の具を定着させる」役割が主ですが、真右エ門窯においては「炎そのものが絵筆」であり、作品の模様や色彩を生み出す主役(共作者)です。
Q. 「炎と対話する」とはどういう意味ですか?
A. 1300度の窯の内部状況を、音や炎の色、空気の匂いで感じ取り、微細な調整を行うことです。「炎と対話する求道者」である馬場泰嘉は、炎をコントロールするのではなく、炎の力を最大限に引き出すための環境を整える「触媒」として振る舞います。
Q. 窯変(Yōhen)の作品はなぜ一点物なのですか?
A. 窯の中の炎の回る道筋や、わずかな温度変化によって、釉薬の発色が劇的に変わるためです。同じ日に同じ窯で焼いても、炎の当たり方一つで全く違う表情になるため、すべてが「炎が選んだ一期一会」の作品となります。

真右エ門窯 CBO
馬場 泰嘉 拝