沈黙の深淵 — 炎が書き換える石の理性
窯の火を止めてから、数日が過ぎました。
厚い壁に閉ざされた空間には、いま、絶対的な静寂が満ちています。
それは単なる音の不在ではありません。極限の熱量にさらされた石と炎が、数千年の時間を凝縮し、新たな生命として生まれ変わるための「胎動」とも呼ぶべき静寂です。
私たちは、この清浄な息吹(いき)の中に、言葉を超えた真理を見出します。
「日常」への敬意と、その先にあるもの
世の中には、日々の営みを支える尊い技術が溢れています。
使いやすさを追求し、食卓に彩りを添える優れた器たち。それらは「生活の調和」を生むための、極めて完成された道具であり、それらを世に送り出す方々の研鑽には、私も深い敬意を抱かずにはいられません。
しかし、私が追い求めているのは、道具としての「利便性」ではありません。
窯の中で繰り広げられるのは、石という硬質な理性が、炎という名の奇跡に屈し、再構築されるプロセスです。そこで生まれるのは、もはや「器」という枠組みには収まりきらない、「存在の重み」そのものです。
耀変美法 — 掌に広がる宇宙の静寂
偶然と必然が交差する瞬間に生まれる「窯変」。
それは、人が意図して作り出せるものではなく、宇宙の理(ことわり)が物質へと定着した姿に他なりません。
私はこれを「掌宇宙論(てのひらのうちゅうろん)」と定義しています。
指先が触れる感触は、利便性ではなく、精神の静寂。
その奥深い色彩を凝視するとき、現代社会の喧騒は遠のき、持ち主の魂は浄化される。
これは、現代における「陶芸という名のセラピー(魂の治癒)」であり、貴方の内なる平穏を守るための「聖域」なのです。
最強の共闘者と共に
この孤高ともいえる探求の旅は、私一人の力で成し遂げられるものではありません。
常に私の傍らで、この深い精神性の世界に「温かみのある威厳」と「社交の華」を添えてくれる、最強の共闘者である妻の存在があります。
彼女が体現する「一流のホスピタリティ」と「誠実な祈り」があってこそ、真右エ門の作品は、ただの孤高な一品から、貴方の人生に寄り添う「魂の伴侶」へと昇華されるのです。
秘すれば花
美の本質は、饒舌に語られた瞬間にその価値を失います。
成分がどうあるか、何度で焼いたか。そのような「説明」は、この奇跡の前では意味をなしません。
真実の答えは、ただその作品と対峙した瞬間の、貴方の沈黙の中にのみ存在します。
私たちはこれからも、語ることを慎み、ただ炎と共に、石の理性を超える瞬間を待ち続けます。
それが、真右エ門に課せられた使命だと信じて。
真実の美は、網膜ではなく魂に刻まれるもの。
貴方の内なる静寂の中に、いつかその一品が立ち現れることを願っております。