昭和世代のヒーロー「遊星王子」「快傑ハリマオ」「隠密剣士」「悪魔くん」「仮面の忍者 赤影」、「ジャイアントロボ」「仮面ライダー」などをテレビに登場させた脚本家・伊上勝(いがみまさる)。
当時リアルタイムで観たテレビ映画の楽しく懐かしい名作を回顧します。
<伊上勝>
伊上勝(本名:井上正喜)は群馬県出身、昭和33年にテレビ映画「月光仮面」を製作した宣弘社(テレビ映画制作プロダクション)に入社、ドラマ台本の懸賞募集に「遊星王子」の脚本を書いて応募し入選しました。
伊上は以降、宣弘社で「豹(ジャガー)の眼」「快傑ハリマオ」「隠密剣士」、東映で「悪魔くん」「仮面の忍者 赤影」、「ジャイアントロボ」「仮面ライダー」などの脚本を執筆した日本のヒーロー作品の礎となるテレビ映画の脚本家です。
そのほとんどの作品がDVD化される、よい時代になりました。
<「遊星王子」「快傑ハリマオ」の脚本>
私がブラウン管(テレビ)でリアルタイムに楽しんだ初期の作品を中心に思い出を投稿します。
【遊星王子】
昭和33年11月~昭和34年9月、宣弘社製作、日本テレビ系で放映された日本の特撮・連続テレビ映画「遊星王子」。
遊星から空飛ぶ円盤で地球にやってきた正義のヒーロー・遊星王子の活躍を描く、脚本家・伊上勝デビュー作。
全49話すべてを執筆しています。
《「遊星王子」オープニング》
<テレビ映画「遊星王子」(昭和33年)より>
キャストは三村俊夫(=村上不二夫)、日吉としやす、 早ミチ子、武藤英司、大塚周夫。
主人公・靴みがきの青年ワクさん、実は遊星王子を三村俊夫が演じた。
監督は藤田潤一で、昭和9年に監督昇進。片岡千恵蔵プロダクション、日活、東宝映画で活躍、戦後「エノケン一座」の座付き作家(劇作家・演出家)として脚本を提供しています。昭和40年からは独立系成人映画の世界に転身。
<早ミチ子、日吉としやす、三村俊夫>
ユーモラスなのに凶悪な殺人ロボット。
「遊星王子の歌」主題歌(作詞:伊上勝、作曲・編曲:服部克久、歌:大江洋一・上高田児童合唱団)
🎵遠い星から来た人は 正義の味方 ぼくらの仲間
強くやさしい ナゾの人 大きな希望に 正しい心
今日も活躍 遊星王子 平和の使い 遊星王子
遊星王子を演じた三村俊夫は新東宝出身で、後に村上不二夫と改名。
俳優の他に情報番組「アフタヌーンショー」(テレビ朝日)のレポーターとしても知られた。
<村上不二夫>
「遊星王子」は、東映が梅宮辰夫主演で映画化しています。
映画版の脚本は、SFヒーローもの「宇宙快速船」(1961)や、TV時代劇「素浪人 月影兵庫」(1962~1968)の森田新が執筆。
【過去の投稿】
「劇場版・遊星王子 梅宮辰夫主演の東映ヒーロー映画」(2024年7月投稿)ご訪問下さい。
「遊星王子」はTVシリーズ、映画版ともDVD化されています。(TSUTAYAレンタル有)
【豹(ジャガー)の眼】
「豹の眼」は昭和34年7月~昭和35年3月KR-TV(現TBS)放送。宣弘社製作。
原作は「快傑黒頭巾」「まぼろし城」など冒険活劇小説の高垣眸。
前半は無国籍アクションドラマのアジア編、後半は白装束の和風ヒーローが登場する日本編。
前番組「月光仮面」から引き続き大瀬康一が主演で、スタッフ・キャストも継続して参加している人が多い。
ジンギスカンの血をひく日本人・黒田杜夫(大瀬康一)と清王朝再興を目指す秘密結社「青竜党」の娘・錦華(近藤圭子)が、秘密結社・ジャガー(天津敏)とのジンギスカンの隠し財宝争奪戦に挑む。
キャストは、大瀬康一、近藤圭子、天津敏、三田隆、高塔正康、牧冬吉、赤尾関三蔵。
東映の大部屋俳優だった大瀬康一主演のTV映画「月光仮面」が大当たり、監督の船床定男も助監督経験しかなかったという。
その「月光仮面」の後番組で大瀬・船床コンビが撮った「豹の眼」は若いスタッフ、キャストの熱意溢れる冒険物語でDVD化もされており、再評価したい。
脚本は2作目の伊上勝(=森利夫)と西村 俊一(=御手俊治)が共同執筆、3部作(全38話)。
「豹の眼」は放送局が違う「遊星王子」と放映期間が重なっており、森利夫(=伊上勝)という違うペンネームは、放送局が違うための宣弘社の配慮だろうか?
御手俊治(=西村俊一)も「遊星王子」の製作に関わっている同じ宣弘社のテレビプロデューサーで脚本家。
主題歌「豹の眼」( 作詞:加藤省吾、作曲:小川寛興)は、「月光仮面」の挿入歌「月光仮面の歌」を歌った三船浩で、低音の力強い素敵な歌唱であった。
🎵正義のために 決然立って
燃える血潮を たぎらせる
悪をこらしめ ひとすじに
苦難の道も 恐れない
撃つぞジャガー 撃つぞジャガー
出てこい ジャガー
クレーンの使用、船上での撮影などTV映画にしては大掛かりな撮影が行われた。
ヒロインの近藤圭子は元童謡歌手で、宣弘社の次回作「快傑ハリマオ」にも出演している。
杜夫(大瀬康一)を助ける少林寺の達人・張爺(チャンヤ)役の高塔正康(高塔正翁)は、「月光仮面」など宣弘社初期作品の常連俳優で、善人、悪漢からナレーションまで何でもこなす。「豹の眼」では優しくて腕の立つ中国人を楽しそうに演じている。後年は高塔正翁として、主に声優として活動していた。
<高塔正康・「豹の眼」より>
小海線(八ヶ岳高原線)の屋根の上での列車アクション。
走行中のカットも多く、トンネルが迫ってくると助監督が「伏せろ!」と合図し、格闘を止めてサッと伏せる。
列車内には普通に乗客もいたそうで、お金がないTV映画の現場は命がけである。
《悪役の赤尾関三蔵》
悪漢・ジャガーの片腕・ウクラク(鉄の爪)役の赤尾関三蔵は、高塔正康と同じく「月光仮面」から宣弘社のテレビ映画に欠かせない俳優。
赤尾関は一目見たら忘れられない風貌で、魅力的な悪役でした。
「豹の眼」から4年後、映画「誤審」(若松孝二監督)撮影中に事故死している。
福島ロケ、手錠に繋がれて川を渡るシーンで、共演者が心臓麻痺で倒れ、赤尾関も引っ張られるように川に消えた。
助けに入った若松監督も川に流されて気を失ったという。享年33歳でした。
<赤尾関三蔵・「豹の眼」より>
<近藤圭子、大瀬康一、赤尾関三蔵・「豹の眼」より>
佐久市野沢(長野県)での銀行襲撃シーンでは、本物の銀行(八十二銀行野沢支店)で現金強奪シーンが撮影されている。
なんともおおらかな時代です。
第二部・日本編から白装束の「笹りんどう」が登場し、ジャガー一味と戦う和洋折衷活劇。
<大瀬康一「笹りんどう」>
「豹の眼」の原作者が「快傑黒頭巾」の高垣眸ですから、ヒーロー像が似ているような・・・。
<大瀬康一、三田隆、高塔正康、近藤圭子「豹の眼」より>
TVシリーズ「豹の眼」はDVD化されています。(TSUTAYAレンタル有)
「豹の眼」(2部作)は昭和31年、鈴木重吉監督、北原義郎主演により大映で映画された。
【快傑ハリマオ】
「快傑ハリマオ」は昭和35年4月~昭和36年6月、日本テレビ系で放送。宣弘社製作。
ターバンとサングラス、正義の快男児ハリマオ(勝木敏之)が、東南アジアを支配する軍事機関や秘密結社、スパイ団と戦う冒険活劇で、5部作(全65話)の人気番組。
テレビのカラー実験放送の時代で、第1話~ 第5話のみ試験的にカラーで製作・放映された日本初のカラーテレビ映画でもある。
東南アジア風のオープニングは伊豆大島で撮影された。
伊上勝の脚本3作目であり、5部作(全65話)を大村順一と共同執筆している。
主題歌「快傑ハリマオ」(作詞: 加藤省吾、 作曲: 小川寛興)は昭和歌謡界を代表する三橋美智也が歌っている。
当初から三橋美智也の起用は決まっていたが、多忙でレコーディングが遅れ、三橋の歌声は第6回から使用された。
高音が響き渡る三橋美智也の歌唱が素晴らしい。
🎵真っ赤な太陽 燃えている
果てない南の 大空に
とどろきわたる 雄叫びは
正しいものに 味方する
ハリマオ ハリマオ
ぼくらの ハリマオ
<町田泉、勝木敏之、崎坂謙二「快傑ハリマオ」スチール写真より>
第3部から当時では希少な、香港、タイ、カンボジアへの海外ロケを敢行している。
<勝木敏之(ハリマオ)、中原謙二(ドンゴロスの松)>
挿入歌「南十字星の歌」(作詞: 加藤省吾、 作曲: 小川寛興)を歌う令子役の近藤圭子。
🎵さざ波光る 砂浜に
ひとり聴く唄 子守唄
おさない ころの思い出に
輝くは 輝くは
南十字星
前作「豹の眼」に続き出演。心地よい歌です。
<近藤圭子>
<youtube「南十字星の歌」>
TVシリーズ「快傑ハリマオ」はDVD化されています。(TSUTAYAレンタル有)
【隠密剣士】
忍者ブームの火付け役ともなった「隠密剣士」は、宣弘社が大瀬康一主演で、昭和37年から全10部(全128話)製作したテレビ時代劇映画。
当初の脚本は加藤泰と共作であったが、第3部以降は伊上勝が全話執筆している。
松平信千代(大瀬康一)が秋草新太郎と名乗り、公儀隠密として登場。
第1部では、快傑ハリマオ役の勝木敏之も出演している。
<勝木敏之、小林重四郎「隠密剣士 第1部」より>
第2部から忍者を活躍させることで大ヒット、忍者ブームを巻き起こした。
忍者刀を逆手に持ったり、卍型の手裏剣や、手のひらに乗せて飛ばす動作など、リアリティがある忍者の武器は、伊上勝のアイディアによるものが多い、
「隠密剣士」の人気は子供層から大人にまで広がり、最盛期には40%近い視聴率を取った。
<大瀬康一、牧冬吉、大森俊介「隠密剣士」より>
第3部「忍法伊賀十忍」から登場した霧の遁兵衛(きりのとんべえ:牧冬吉)が人気を博した。
秋草(大瀬康一)が窮地に陥ると救出に駈けつける、江戸幕府に仕える公儀隠密の伊賀忍者。
得意の忍術は霧のような濃い白煙で敵の視界を塞ぐ霧遁の術。
《牧冬吉の出演スチール写真》
霧の遁兵衛役の牧冬吉は、前出の「豹の眼」の敵役「殺し屋ジョー」でテレビドラマにデビュー。
「豹の眼」の船床定男監督が、ある劇団にいた牧冬吉を見出した。
「仮面の忍者 赤影」の白影役、「河童の三平 妖怪大作戦」「柔道一直線」「好き! すき!! 魔女先生」など子供向けドラマの名脇役であった。
<牧冬吉テレビドラマデビュー作「豹の眼」より>
<牧冬吉「仮面の忍者 赤影」より>
「仮面の忍者 赤影」(昭和42年)は伊上勝が全52話を執筆。
<金子吉延、牧冬吉、松井八知栄「河童の三平 妖怪大作戦」より>
「河童の三平 妖怪大作戦」(昭和43年)は全26話中、伊上勝が15話を執筆。
また、「隠密剣士」は東映京都で、テレビ版と同じ大瀬康一(主演)、伊上勝(脚本)、船床定男(監督)のゴールデントリオで「隠密剣士」「続・隠密剣士」(昭和39年)の2本が映画化されている。
<劇場映画版「隠密剣士」ポスター>
「隠密剣士」は「ザ・サムライ」のタイトルで輸出され、東南アジアで大人気を誇ったという。
【新隠密剣士】
「隠密剣士」の好評を受けて製作された新シリーズ。
昭和40年4月から全3部(計39話)に渡り、林真一郎主演で「新隠密剣士」が放映された。
伊上勝が全39話を執筆している。
監督・船床定男、外山徹。
主題歌「秘影」(作詞:加藤省吾、作曲:小川寛興)を春日八郎が歌っている。
新主人公・影真之介(林真一郎)は公儀隠密の忍者で、豪快な殺陣を魅せる。
霧の遁兵衛(牧冬吉)も引き続き登場。
<牧冬吉、林真一郎>
ヒロインは三益愛子の母もの映画シリーズに多数出演した名子役・歌手の白鳥みづえ。
「新隠密剣士」の挿入歌「影を求めて」(作詞:加藤省吾、作曲:小川寛興)を歌っている。
第3部から天津敏も加わり、忍者アクションは見応えがあったと記憶している。
TVシリーズ「新隠密剣士」はDVD化されています。(TSUTAYAレンタル有)
昭和40年(1965年)伊上勝は「新隠密剣士」を執筆後、宣弘社を退社してフリーとなり、東映から依頼を受けて「悪魔くん」(NET)に参加、全26話中「シバの大魔神」「狼人間」など、妖術師、狼男、雪女から未来人まで登場する8話執筆します。
次回「伊上勝・昭和TVヒーローを作った脚本家(その2・東映編)を投稿します。
ご訪問下さい。
本投稿はこれまで得た知識と、徳間書店発行の書籍「昭和ヒーロー像を作った男 伊上勝評伝」
及びコスミック出版発行の「蘇る!伝説の昭和特撮ヒーロー」を参考にしました。
伊上勝(脚本)の作品を主眼におきましたが、書籍「伊上勝評伝」には、不世出の脚本家・伊上勝の人生が集約されており、昭和ヒーローファンにとって、とても興味深い一冊です。
<「昭和ヒーロー像を作った男 伊上勝評伝」徳間書店発行(右下が伊上勝氏)>
<「蘇る!伝説の昭和特撮ヒーロー」コスミック出版発行>
文中、敬称略としました。ご容赦ください。