小池一夫・小島剛夕の漫画「子連れ狼」は、1970年9月から1976年4月まで「漫画アクション」(双葉社)に連載され、何度か映画化、TVシリーズ化されています。

柳生烈堂率いる柳生一族の手により妻あざみの命と公儀介錯人の職を失った拝一刀が、一子・大五郎と、刺客「子連れ狼」として冥府魔道(めいふまどう)の道を歩む。

「冥府魔道」とは“常軌を逸したほどに怒りや恨みや復讐心にとらわれてしまうこと”のようで、原作者・小池一夫による造語です。

 

劇場映画版「子連れ狼」は、若山富三郎主演のシリーズ全6作と、田村正和主演「子連れ狼 その小さき手に」が製作されており、

若山富三郎主演の映画「子連れ狼」シリーズは 、昭和47年~昭和49年に勝プロ製作、東宝配給で全6作が公開されました。

第1作「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」(三隅 研次監督)

第2作「子連れ狼 三途の川の乳母車」(三隅 研次監督)

第3作「子連れ狼  死に風に向う乳母車」(三隅 研次監督)

第4作「子連れ狼  親の心子の心」(斎藤武市監督)

第5作「子連れ狼  冥府魔道」(三隅 研次監督)

第6作「子連れ狼  地獄へ行くぞ!大五郎」(黒田義之監督)

 

子連れ狼」の魅力を、製作順に数回に分けて、思いつくまま投稿します。

投稿記事は本編のほんの一部です。

DVD化されていますので、面白さを本編でご確認ください。

 

今回の投稿は

「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」(昭和47年)

若山富三郎主演版の第1作目、三隅研次監督作品です。

「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」は、初の「子連れ狼」映像化作品。

前半は、

拝一刀(若山富三郎)は、要職・公儀介錯人の座を狙う裏柳生・柳生烈堂(伊藤雄之助)の手の者に、妻あざみ(藤田佳子)が惨殺され、謀反人の汚名を着せられる。

一刀は残された子・大五郎(富川晶宏)と共に「子を貸し腕貸しつかまつる」と書かれた旗指物を背負い、金500両で刺客請け負いの旅に出る。

<拝一刀(若山富三郎)、藤田佳子(あざみ)>

<伊藤雄之助(柳生烈堂)>

 

キャストは拝一刀に若山富三郎、妻あざみに藤田佳子、大五郎に富川晶宏、柳生烈堂に伊藤雄之助ほか

渡辺文雄(柳生備前守)、真山知子(お仙)、露口茂(柳生蔵人)、内田朝雄(杉戸監物)、内藤武敏(市毛刑部)、関山耕司(官兵衛)、松山照夫(紋之助)。ナレーターに小林昭二。

 

脚本は原作者の小池一夫で、第5作「子連れ狼  冥府魔道」まで執筆した。

 

監督の三隅研次は、大映で勝新太郎を主演に起用した「座頭市物語」や、市川雷蔵主演の「剣」三部作、日本初の70ミリ映画「釈迦」を監督した時代劇の名匠。

「子連れ狼」では、血が吹き出る過激な演出の連続に、劇場内は女性客の悲鳴も聴こえてビックリ仰天。

 

三隅 研次監督>

 

撮影は大映で活躍した牧浦地志(まきうら ちかし)で、三隅研次監督とは特に多くコンビを組んでいる。

勝新太郎からの信頼が厚く、大映倒産後も勝プロ製作映画やテレビドラマのカメラマンを多く務めた。

 

後半は、

壬生藩家臣・市毛刑部(内藤武敏)から刺客依頼を受け、跡継暗殺計画を図る家老・杉戸監物(内田朝雄)を斬るべく、杉戸監物が雇った無法者が集まる湯治場・郷森宿へ向かう、原作「鳥に翼  獣に牙」の実写化エピソード。

<原画「子連れ狼 鳥に翼 獣に牙」より>

拝一刀親子が、吊り橋のかかる湯治場・郷森(ごうのもり)宿に差し掛かると、無法者(佐藤京一)たちに捕らえられる。

無法者1:「おい ガキ連れ この縄をぶった斬って お前たちを落としてやろうか」

一刀:「街道に通ずる出入り口が無くなれば お前たちも出るのに困ると思うが」

無法者2:「ぬかしやがる よし 渡ってこい」

<若山富三郎、佐藤京一>

無法者1:「おう 胴太貫(どうたぬき) 骨を斬っても刃こぼれせず 馬上でも自由自在の戦場刀 こいつぁ 俺が預かっとくぜ」

無法者2:「ここへ来た訳は?」

一刀:「湯治場に来るのに 他に目的があるのか」

無法者1:「違えねえ だが お前たちも運の悪い親子よ 地獄に湯治に来るとはなあ ははは・・・」 

 

無法者の頭・官兵衛(関山耕司)、飛苦無(とびくない=手裏剣)の名手・紋之助(松山照夫)、尾見(守田学哉)ら無法者の前に出る一刀。

<佐藤京一、守田学哉、関山耕司、松山照夫>

官兵衛:「どこかで 会うたことがあるかな 名は!」

一刀:「名乗ったところで どうせ今は使わぬ名」

紋之助:「俺たちに逆らったら この飛苦無を叩き込むぜ」

 

宿に泊まっている枕探しお仙(真山知子)は、紋之助(松山照夫)の刃から一刀に助けられた。

湯の中で子連れ狼の話をする。

一刀:「奴らが恐ろしくないのか?」

お仙:「いつ死んでもいいと 思ってるからね」

お仙:「この湯治場は郷森って言うんだけど みんなはコウモリ湯って呼んでる」

お仙:「コウモリは鳥でもないのに翼がある 獣でもないのに牙がある」

お仙:「そんな世の中をはみだしたコウモリのような連中が つかのまの安らぎを求めてここに集まってくる」

お仙:「だからコウモリ湯なのさ」

お仙:「でも あいつら ごろん坊は違う あいつらは牙を持ったケダモノ」

<真山知子、富川晶宏>

お仙:「あんたは 獣の牙を恐れていない 翼を持った鳥」

一刀:「何が言いたいんだ」

お仙:「あたしが泊まった高遠の城下町で 4人の凄い使い手の侍が斬られたという」

お仙:「斬ったのは お金をもらって人を殺す刺客人 子連れ狼 ということだった」

 

国家老・杉戸監物(内田朝雄)が、跡継暗殺計画決行を伝えるため湯治場・郷森宿に姿を現わした。

雇った無法者を集めて、計略をめぐらす。

<関山耕司、内田朝雄(中央)>

監物:「必ず この街道で殺せ」

官兵衛:「金の方は」

監物:「500両だ 残りの500両は すべて終わってから渡す」

監物:「失敗は許さんぞ よいな 官兵衛

官兵衛:「承知した」

官兵衛:「皆の衆 今からワシらは ここを立ち去る」

官兵衛:「ただし ワシらの事を 一言でも御用の筋に喋ったら みな殺しだ!」

また、秘密維持のため、旅人の湯治客は皆殺しを言い渡すが、ふと官兵衛は、浪人が刺客・子連れ狼だと気づき、怯える。

<関山耕司(官兵衛)、松山照夫(紋之助)>

官兵衛:「やはり」

紋之助:「どうしたんだ いったい・・・ あのガキ連れから 始末するか」

官兵衛:「待て あの男には 手出しするな 自由にしてやれ」

紋之助:「何を怯えてるんだ あんな奴の どこが・・・」

官兵衛:「よせ」

<原画「子連れ狼 鳥に翼 獣に牙」より>

騒然となった湯治場、一刀が押す大五郎を乗せた箱車が進み出る。

曲者ぞろいを相手に一刀の同太貫が、箱車の武器が、官兵衛ほかの無法者、国家老・杉戸監物一味を倒す。

若山富三郎の殺陣の巧さ、原画を意識したような、血が吹き出し、首や手足が転がるスプラッター・シーンの連続。

記憶に残る三隅研次監督の大チャンバラを本編DVDで確認ください。

<若山富三郎>

<原画「子連れ狼 鳥に翼 獣に牙」より>

ちゃん(一刀)の闘いを、じっと見つめる大五郎。

可愛さの中に怖さも潜む。

<富川晶宏>

 

国家老・杉戸監物と彼が雇った無法者全員を倒した一刀は、湯治場・郷森宿から立ち去る。

<若山富三郎>

<真山知子>

お仙:「やっぱり 子連れ狼」

 

枕探しお仙役・真山知子は、昭和34年の東映ニューフェイスで、千葉真一、亀石征一郎、太地喜和子、新井茂子などが同期。夫は演出家の蜷川幸雄、娘は写真家の蜷川実花。映画・テレビでは妖艶な悪女が多いが、当時「ロボコン」ファンの娘の実花の要望で「がんばれ!!ロボコン」(第79話)に出演し、娘から尊敬されたという。

<真山知子>

 

小池一夫(原作者)の話】

『若山(富三郎)さんが「どうしても、この漫画の拝一刀をやりたいんだ」とオファーも無しに、僕の家に直接来たのね、模擬刀を持って。」

「俺、太ってるから、お前ためらってるるな」と言って庭へ降りて、あの太ったお方が、刀を左に持ち替えて、くるんと見事なトンボを切って、着地して、抜刀した。時代劇のスターはこんなことが出来るんだと感心しました。その姿がまことに良かったですね。契約書もなくOKだと・・・。』

小池一夫は「子連れ狼」のほか「無用ノ介」「御用牙」「修羅雪姫」などの漫画原作者。映画「子連れ狼」では第1作「子を貸し腕貸しつかまつる」から第5作「子連れ狼  冥府魔道」までの脚本を担当した。

<小池一夫(原作者)>

 

映画「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」は、昭和47年1月15日公開。

若山の弟・勝新太郎主演の座頭市御用旅(森一生監督)との2本立てで大ヒットし、すぐに続編の製作が決定した。

<「座頭市御用旅」(森一生監督)>

 

映画本編に「子連れ狼」の原画は挿入されていません。

次回は第2作「子連れ狼 三途の川の乳母車」(三隅研次監督)を投稿します。

文中、敬称略としました。ご容赦ください。

 

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