前回投稿”「新選組血風録」シナリオ集(結束信二・著)と画像<その1>”の続きです。
<その1> ⤵ から先にご訪問ください。
私の好きな昭和40年のTV映画「新選組血風録」(結束信二・著)のシナリオ集が出版されています。
原作は司馬遼太郎。
TV映画「新選組血風録」ファンの方には新たな発見を、ご存じない方にはその魅力を伝えたく、本書から脚本の名セリフと、画像の一部を投稿します。
本書は本編全26話のうち「虎徹という名の剣」「海仙寺党全滅」「鴨千鳥」「菊一文字」「紅花緒」「脱走」「あかね雲」「風去りぬ」「燃える命」の脚本(9話分)を掲載しています。
前回からの続き
《第15話「脱走」》からスタートです。
《第15話「脱走」》
新選組総長・山南敬助の脱走と、沖田・お悠のエピソード。原作に山南敬助の脱走はなく、名場面、名セリフが多い結束信二のオリジナル脚本。
「脱走」は、予告編のナレーションとその画像を記述します。
ナレーターは斎藤一役の左右田一平。
ナレーション:「生死を誓い合った血盟の同志は去った。総長・山南敬助(早川研吉)は自ら作り上げた新選組を捨てた。新選組創立以来の最大の危機は来た。
沖田総司が、その追っ手に選ばれた。
かつてその二人は、一夜を語り明かした仲である。だが、新選組の鉄の掟は、二人に重くのしかかってくる。
清水の滝に若い愛情が、爽やかな水の音を立てて流れるのもつかの間のことであった。
<沖田(島田順司)、お悠(鈴村由美)、山南敬助(早川研吉)>
渦巻き逆巻く幕末の激流に竿さして進む新選組。
土方の胸に去来する万感の思い、伊藤甲子太郎(原田甲子郎)の存在、新選組は、それでもなお、進まねばならない。」
<伊藤甲子太郎(原田甲子郎)>
伊藤甲子太郎役の原田甲子郎、リアルタイムで観ていた「怪人二十面相」(昭和33年、日本テレビ)が懐かしい。当時のテレビドラマは生放送、明智に佐伯徹、中村警部に田口計、小林少年にひのきしんじ。
原田甲子郎の怪人二十面相はカッコ良かった。
小林少年役のひのきしんじは、元歌手で音楽プロデューサー。元女優・本間千代子の夫。
医者玄節役の原健策と、娘お悠役の鈴村由美は「菊一文字」についで2度目のゲスト出演。
脚本は、沖田とお悠の清水寺・音羽の滝での名場面。
<お悠(鈴村由美)、沖田(島田順司)>
お悠役の鈴村由美は「東映京都プロダクション」第1回作品「忍びの者(昭和39年)」(品川隆二・主演)のくノ一・たも役で初めて知りました。また、大川橋蔵版「銭形平次」にも小料理屋のお弓役でレギュラー出演していました。
<「忍びの者」より樫藏(牧田正嗣)、たも(鈴村由美)>
《第19話「あかね雲」》
斎藤一(左右田一平)と、辻占売りの少女・おしづ(岩村百合子)の心の交流を描いた結束信二のオリジナル脚本。
斬り合いの場面から一転、少女の世界に切り替わる脚本が秀逸。
以降、最終話まで結束信二のオリジナル脚本。
新選組が京都を去る、その日が来た。
そんな時、斎藤一は辻占売りの少女・おしづと出会う。
<おしづ(岩村百合子)、斎藤一(左右田一平)>
おしづ:「ああ、よかった」
斎藤:「うん?」
おしづ:「小父ちゃんが斬られたのかと思って、びっくりしたの」
斎藤:「ああそうか、小父ちゃん、運が良かったんだね、きっと」
辻占の親方・竹藏(小田部通麿)はひどい男で、子供たちを虐待していた。
<おしづ(岩村百合子)、竹藏(小田部通麿)、斎藤一(左右田一平)>
斎藤:「自分の尺度で、人を計るなという言葉がある」
斎藤:「子供の言うことは全部本当だ。子供は嘘はつかん」
竹藏:「へ、恐れ入りました」
やがて少女に温かい夢が生まれる。
斎藤一が密に抱いた幼い地への郷愁。
斎藤は、自分の資産を養育費として、おしづを養女に貰ってくれるところを探す。
それが斎藤なりの身辺整理であった。
しかし、新選組が京都を去る、その日。
おしづは、新選組が京都からいなくなると知って、後を追いかけ、行き倒れて、その短い生涯を終えた。
おしづが病気で寝ているシーンを真上から撮ろうと、キャメラを天井に上げ、キャメラマンは落ちないようにロープで体を梁に縛り付けて撮った命がけの撮影だったそうです。
<おしづ(岩村百合子)>
おしづは、力なく呟く。
おしづ:「小父ちゃん、行っちゃいやだ」
辻占の親方・竹藏役の小田部通麿は、面構えが強面だったことで俳優への道を勧められ東映京都撮影所に入社、京都市北区「誠心寺」の住職でもあります。
結束信二が生前に「小田部さんがお坊さんになったので葬式は小田部さんに」と遺言していたこともあり、葬式では小田部がお経を涙声で読み上げ、墓も小田部が住職を務めた誠心寺にあるそうです。
<小田部通麿>
《第24話「風去りぬ」》
江戸にもどった沖田(島田順司)は千駄ヶ谷の植木屋の離れで養生していたが、姉のお光(市川和子)が作った料理も喉を通らないほど衰弱していた。
<お光(市川和子)、沖田(島田順司)>
植木屋の夫婦は、名優 中村是好と赤木春恵。
沖田の病床を訪ねて、島田魁(玉生司郎)、斉藤(左右田一平)、原田左之助(徳大寺伸)永倉新八(有川正治)ら、仲間がやってくる。
<玉生司郎、左右田一平、島田順司、徳大寺伸、有川正治>
誰も来ないとき沖田は、吹いてくる風と馴染みになっていた。
官軍が江戸に入ったその日、土方が訪ねてきた。
二人は、これが今生の別れと思っているが・・・。
「風去りぬ」は、何度観ても哀愁を誘う。
<沖田(島田順司)、土方(栗塚旭)>
土方:「今度生まれ変わるときはな、俺は、お前のような人間に生まれたいと思っているよ」
沖田:「困るなあ、それじゃ、だって私はね、今度生まれ変わってくる時も、土方さんと同じような人に、逢いたいと思っているんですから・・・」
《第26話「燃える命」》
最終回「燃える命」の土方は、現在残されている写真のような、ざんぎり頭でフランスの軍服を着ている。
「燃える命」は、予告編のナレーションとその画像を記述します。
ナレーターは斎藤一役の左右田一平。
ナレーション:「燃える命に悔いはない。誠の旗の下に生き、誠の旗の下に死す。
新選組の誇りと共に戦い、誇りを守って死す。
土方歳三の壮絶なる最期の時は来た。
雪吹きすさぶ函館五稜郭、押し寄せる官軍、土方の胸に去来する万感の思い。
そして、この最果ての町に、最愛の人を土方に奪われた京の女が落ちてきた。
だが、すべては永遠に去った。
共に戦った最後の同志は、虚しく過ぎ去ったあの激動の日を忍ぶばかりである。
燃えよわが命、燃えよわが旗、土方歳三は力の限り高々に叫ぶ。
新選組局長・土方歳三の最後と・・・。」
ゲストの名優・森光子は、自分から「新選組血風録」に出たいと言ってきたそうです。
原作の司馬遼太郎も、ビデオのないあの頃、「新選組血風録」の放送を楽しみに観ていたそうです。
脚本は、土方が、京の女がいるという、函館・洋館風の酒楼を訪ねる場面。
土方:「お前か、京都の女というのは」
光枝:「お客はん、五稜郭のお方どすな」
土方:「うむ」
光枝:「新選組のお方どすな」
「新選組血風録」レギュラーメンバー
土方歳三・・栗塚旭
近藤勇・・舟橋元
沖田総司・・島田順司
斉藤一・・左右田一平
原田左之助・・徳大寺伸
井上源三郎・・北村英三
山崎烝・・坂口祐三郎
永倉新八・・有川正治
藤堂平助・・国一太郎
山南敬助・・早川研吉
島田魁・・玉生司郎
大石鍬次郎・・林彰太郎
目明し佐吉・・唐沢民賢
小者・半助・・富久井一郎
東映時代劇ファンにはお馴染みの俳優ですが、当時、知名度があるのは舟橋元、徳大寺伸ぐらい。
沖田総司役の島田順司も、まだ研究生だったそうですが、沖田総司役にピッタリで当時大ブレイク。その後、同じスタッフで製作された「俺は用心棒」「燃えよ剣」でも沖田総司を演じています。
<島田順司「燃えよ剣」(昭和45年)より>
こちらは藤田まこと主演の長寿TV映画「はぐれ刑事純情派」(昭和63年)での島田順司。
「新選組血風録」は脚本の結束信二も、監督の河野寿一、佐々木康も、東映時代劇映画全盛時代に中心になって活躍した人で、ストーリーも演出技法も従来のテレビ映画にない、秀逸な作品に仕上がっています。
平成10年、㈱vapから渡辺岳夫の新選組血風録・劇伴(映画やテレビドラマ等に合わせて作曲される音楽)「新選組血風録ミュージックファイル」が発売されました。
<「新選組血風録ミュージックファイル」より>
古いモノクロTV映画は原版がないものが多い中で、「新選組血風録」は全話ビデオ化されています。
懐かしの“SONY・βⅡ(ベータ・マックス)”時代のビデオテープ。
40年以上前に東映からビデオが発売されました。
2話分収録で9800円と高価でしたが、すぐに予約して購入しました。
<「新選組血風録」βⅡ版ケースと解説書の一部>
「新選組血風録」シナリオ集には載らなかった他の話も素晴らしい。
私は第10話「刺客」が好きです。隊士・大石鍬次郎役の林彰太郎が名演でした。
<新選組血風録 第10話「刺客」より 小柴幹治、林彰太郎>
昭和42年、土方歳三を演じた栗塚旭、沖田総司を演じた島田順司、斉藤一を演じた左右田一平のトリオが主役の「俺は用心棒」がシリーズ化され、島田は沖田総司を演じています。
また、「新選組血風録」から5年後の昭和45年、ほぼ同じスタッフと主要キャストで土方歳三を主人公とした司馬遼太郎・原作の「燃えよ剣」(全26回)がカラーで製作されました。
<「燃えよ剣」より>
長々お付き合い、ありがとうございました。
文中、敬称略としました。ご容赦ください。
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